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その後はどうなるの?

 これまた昨日の心理テストだが、最初に思い浮かんだ動物。それは即自的自分を表しているという。即自的、つまり自分に即した自分、つまり気の置けない仲間たちや家族、恋人の前で振る舞う、もっとも素に近い自分のことである。


 玖梨子はその動物に犬を挙げた。犬種はスピッツである。元気で小さく、キャンキャンとよく吠え、うるさい。実際には品種改良が進み、現在では無駄吠えが少なく、よく飼い主になつくようになったらしいが、イメージとしては今でも大体そんな感じではないだろうか。


 夢の中に出てきた玖梨子も、まぁ似たようなものだった。オレとは一心同体なので、今更よそ行きの感じにすることもなかったのだろう。というわけで、ここはオレも饒舌に喋らなければならない。


「でもさー、ストレス溜まるって言ったらこっちの方だよ。なんで私がルリルリをいじめなきゃなんないの?」


 あー、なんか昼間のこと思い出したら腹立ってきた。持ってきた烏龍茶を手ずから自分のグラスに注ぎ、一気にあおる。そしてオレもドサクサにまぎれ、みんなに倣ってルリルリと呼んでみた。嬉しいようなこそばゆいような嬉しい感じだ。


 するとサッチャーが頭をなでてくれた。良い奴だ。


「ルリルリと仲良かったもんね」


 そうだったのか。主役少女と悪役令嬢が裏では仲良いというのはなかなか趣深い。いや、つーか、そうなのか? だったら、オレ、瑠璃にもっとお近づきになれるのではないか?


「ルリルリ今日来れないの残念だな」


 素の瑠璃と切に話したい。


「やっぱり、あの子もなんだかんだでストレス溜まってたのかねぇ」


 キャサリンが心配そうに言った。


「そうですかー……」


 思わず空になったグラスを眺める。そりゃ、毎日四六時中、演技上のこととはいえ、オレたちにいじめられなきゃいけないんだもんな。そう、オレは我が愛する瑠璃をいじめなくてはいけないのだ。本当にストレスが溜まる。


「……ま、ストレス溜まっても、与えられた役割、割り切ってやるしかないか。電撃喰らわないためにも」

「クリちゃんがそれ言うー?」


 キャサリンのツッコミに三人で笑った。なんか、少し、救われる。


 でも、よくよく考えたら、ここにいる多くは自分の意に沿わない役を演じているような気がする。


 セバスは軽薄なオッサンなのに令嬢に忠実な執事長だし、キャサリンは面倒見の良い、みんなのお母さん的な人なのに、瑠璃をいじめる役だ(実際、昨日は「嫌になる」って言ってた)。


 そしてオレことクリスティーヌことクリちゃんは、瑠璃とは仲が良いのに瑠璃に辛く当たらなくてはならない。アームストロングの役の上での姿はまだ見たことないし、えーっと……誰だったっけ?あいつ。あ、そうそう。トニーだ。トニーは存在感薄すぎてよくわからないけど。


 ただ、なんとなく、サッチャーだけはそんなに役柄と本来のパーソナリティがあまり離れていないような気がするが、それでも二時会では瑠璃とも仲良くやってるようだから、本人と役とでは違いがあるはずだ。


 なんというか、もうちょっと本来の人柄に沿った役を与えてもいいのではないか? いや、誰がキャスティングしてるかはわからんけど、多分全元とかいう奴なんだろうとは思う。


 ただ、そうやって演じていった先はどうなるのだろう?


「ところでさー……、みんな、『その先』のことは知ってるの?」

「その先?」

「役割を演じるとしてさ、その先、つまりこのマンガの結末みたいなものって、みんな知ってるのかな?って。私、まだそこらへんの記憶が曖昧でさ。役割演じて、その先がバッドエンドだったら、やりきれないな、って……」

「うーん……。キャサリン、知ってる?」


 キャサリンはワインで少し舌を湿らせた。ちなみにキャサリンはグイグイ流し込むような飲み方はしない。ワインの香りを楽しみ、風味を味わうようにして、少しずつ飲む。案外エレガントである。


「ハッキリはわかんないなぁ。でも、なんとなくなら、みんなわかってるでしょ」

「どうなるの?」

「あのね、ルリルリが王子様に見染められて、それで、王国のみんなが祝福して、みんな幸せになるの。めでたしーめでたしー、って」


 めでたしめでたしの割に、抑揚のないトーンでサッチャーが説明してくれた。


「それがどういう形で見染められるのか、具体的にはよくわかんないよね。でも、普通に考えたら一週間後の舞踏会が濃厚かなぁ」


 キャサリンが後を継いだ。


 女の子が一人、王子様に見染められて、それでどうやって王国のみんなが幸せになるのか、まるで見当がつかない。つくづく、このマンガはずさんである。そんなずさんなマンガの中にいることを思うと、そら恐ろしくなる。なんか、ものすごい地盤のゆるいところに立つ超高層ビルの最上階にでもいる気分だ。


 しかし、見染められるということは王子様を独占するわけだ。であれば、普通に考えたら国中の女子から嫉妬の嵐が渦巻く方が自然だとは思うが。まぁ、この世界ではそれで幸せって言うのなら、それはそれで別にいいけど。オレには関係ない。


「なるほどね。物語の終わりは大体わかった。じゃあ、その後はどうなるの?」

「え?」

「物語が終わるでしょ? そしたら、みんなどうなっちゃうの? ……消えて、なくなるの?」

「やだ。怖いこと言わないで」


 割と本気のニュアンスで、キャサリンは言って、身を縮めた。


「うーん、それは……わからないですね」


 トニーが答えた。いつの間にお前そこにいた? 相変わらず存在感がない。


「でも……、もう一度、やり直したい気はするわね。物語の始めに戻って」


 キャサリンは雰囲気を変えるように言った。


「あ、それいいナア」


 話を聞きつけたセバスがすかさず同意する。


「それで、記憶がある方がいいね。先がわかっていれば、しくじらないし、もう一度同じことをやるなら、楽じゃーん」

「私は嫌だな」


 サッチャーが真っ向から否定した。


「な、なんでよヨォー?」

「だって、同じことを繰り返すのはつまらないし、退屈。耐えられない」

「な、なるほどな……。まぁ、一理あるかも……」


 セバスはビールをちびちび飲みながら引き下がった。ひょっとしたら、サッチャーのことは苦手なのかもしれない。


「そういえば、クリちゃん、まだ記憶は曖昧なの?」


 サッチャーが聞いてきた。


「え? あ、うん……。まだ、ちょっとね。どうして?」

「クリちゃん、昨日よりはよく喋るけど、なんか……、なんていうか……、ちょっと感じが変わったから」

「え? そ、そう……? ウン、まだ、ちょっと、曖昧な感じ、かな……?」




「ねぇ。ねぇ……。ちょっと。……起きなさいよ!」

「んえ? あぁ……? ん? ……なんだ。またおまえか」

 玖梨子であった。

「おまえか、じゃないでショオ! 私が起きろって言ったらすぐ起きなさいよ!」

「つーか、寝てるんだろ、今、オレ」

「屁理屈言わない!」

 いや、屁理屈ではないと思うが……。まぁ、よい。

 昨日と同じ、また夢の中。見渡すと、今日はカフェの中である。昼間、街で見た、瑠璃と一緒に入りたいと思ったあのカフェだ。今は夢の中だからだろう、誰もおらず、ガランとしている。思えばあの店にも人気ひとけは少なかった。座ったテーブルの目の前には紅茶がある。一口飲む。夢なのに温かく感じる。

「今日、また電撃喰らったでしょ」

「食らってないよ」

 試しに嘘をついてみた。わかりゃしないだろ。

「なんで嘘つくの? 仕立て屋で、あの金髪相手に食ってかかって」

「申し訳ない」

 バレてたか。この件に関してはオレとしても申し開きのしようもない。謝る以外選択肢が見つからない。

「それと、……肥溜めの中に手を突っ込んだでしょ」


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