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判定はどうだ、全元!

「なるほど。確かに、けじめというものは大事です。ですが、私の家では使用人にもエレガントであることを求めております。従いまして、ドレスを買い与えるのが慣例となっておりますので」

「まるで私の家がエレガントではない、とおっしゃっているように聞こえますが?」

「いえ。決してそのようなことを意図したつもりはございません」

「そうですか……。しかし言われてみれば確かに、使用人に対するエレガントさを求める姿勢は、私の家には少々足りなかったかもしれません……。セバス!」

「は、はい!」

「セバス。そう言えばこの間、新しいイヴニングスーツが欲しい、って仰ってましたわよね」

「え? あ……、いえ、私はそのようなことは……」


 セバスのネクタイを引っ張り、目と目の距離が二センチくらいのところまで近づけさせた。


「仰ってましたわよね?」

「仰る通りです」

「ウチの執事長もこう申しております。私、反省致しましたわ。私の家もあなたの家に倣い、使用人にもそれなりの召し物を与えることと致します」

「それはそれは! 素敵なご決断、感じ入りました」

「店主!」

「は、はい……」

「私の使用人にもイヴニングスーツ、そしてドレスを用意してちょうだい。色は……、そうねぇ、スーツはウン……、いや、ブラウンを、ドレスはだいだいの色のものを用意してくださる?」

「か、かしこまりました!」

「あと、瑠璃!」

「は、はい!」

「その赤いのはお返ししなさい。でないと、新しいドレスが着れませんから」

「か、かしこまりました……」


 フフン。どうだ。見栄のために虚勢を張って使用人二人に新しく服を買い与える。実に悪役令嬢っぽいではないか。セバスにも買い与えれば、瑠璃にだけプレゼントしたことにはならない。これで電撃を避けることができる。判定はどうだ、全元!


 すると、四次元マスクが金色の粒子を撒き散らしながらオレに近寄り、耳元で囁いた。


「君……。大丈夫かい?」

「え?」


 次の瞬間であった。


「にゃあああああァァァ……!」

「クリスティーヌ様!」


 瑠璃とセバスが同時に叫んだ。


 なぜだ……? なぜオレが電撃を喰らわねばならんのだ……? 薄れゆく意識の中、夢の中の玖梨子嬢がオレを睨んでいるのが見えた気がした。




「何やっちゃってんのヨォー、クリちゃあーん!」

「はぁ、面目ない……」


 二時会で早速セバスに怒られるオレであった。あれ?おっかしーな。昼間、オレ、こいつのことコキ使ってたよな?


 セバスはそう言うと、グイッとビールをあおった。実にうまそうである。飲み会とかで後輩に説教する会社員ってこんな感じなのだろうか。やっぱオレ、自営業がいいな。


 今日も屋敷の面々は揃っているが、今日も瑠璃は来ていない。なんでも、あまり調子が良くないんだそうだ。昼間連れ出したのがいけなかったか。


「あそこはルリルリに対して嫉妬の炎を向けるのが正解でショオ?」


 もちろん、ルリルリとは瑠璃のことである。


「うん、そうだね……そうですね」


 なるほど。そっちだったかぁ……。突如現れたイケメンが悪役令嬢ではなく、従者の方に色目を使っている。悪役令嬢としては面白くない。悔しいが、言われてみればその通りだ。


 オレとしたことが、完全に見誤っていた。何をイケメンに嫉妬しているのだ。逆である。やはりオレは瑠璃のこととなると少々冷静さを欠いてしまうらしい。そのせいで普段ならできるはずの正確な判断ができなくなる。


「いや、全然クリちゃんを責めてるわけじゃないんだよ。そうじゃなくて、クリちゃんのことを思って言ってるんだからね。こう毎日電撃喰らってちゃあ、体がもたないでしょう?」

「はぁ……」


 それはそうなのだが、そんなことはおまえに言われるまでもなくわかっている。いるよなぁ、こういう奴。あなたのため、とか言って説教してくる奴。腹立つわあ。マジ腹立つわあ。決めた。明日はいつもより強めにコキ使ってやる。


「ありがとう……ございます」


 しかし、今は弱めに、言葉少なに接する。なぜなら玖梨子がそうやって接しているだろうからだ。「だろう」と言うからには確認したわけではない。しかし、ほぼ確かではある。


 昨日の夜、オレが夢の中で玖梨子に仕掛けた心理テストで大体わかった。


 二番目に挙げる動物。それは対他的・対自的自分であるという。つまり、他者に対した時に出す自分。自分を客観視した自分。つまり、よそ行きの自分ということだ。


 玖梨子はキリンと言った。実際のキリンは身長五メートルの巨体を誇り、成獣するとほぼ敵はいない。自分が強いことを知っているため、我が物顔でサバンナを闊歩する、そんな動物である。


 しかし、一般的なキリンのイメージは、美しいまだら模様で、細長い体を持て余し気味に華奢に動かし、長い睫毛の下にはつぶらな瞳。実に優美な上に可愛い。おまけに高いところにある葉っぱを食む草食動物だ。


 草食男子という言葉が流布しているように「草食」と聞くと「おとなしい」というイメージがあるが(もちろん事実は異なり、大型の草食動物などはむしろ気性が荒いのが多い)、キリンもまたおとなしく、やさしい動物というイメージが先行している。


 つまり、二番目にキリンを思い浮かべた玖梨子は、他者、つまりよそ行き、つまりあんまり親しくない奴には優美でおとなしく、やさしいイメージで見られたがっている、ということだ。


 そしてセバスは昨日の二時会でオレを評して「いつもは物静か」と言った。おそらくそれはこの予測が正解であると同時に、セバスは玖梨子にとって「親しくない奴」認定されていることを表してもいる。


 そしてそれは、今この瞬間、このウザさでそれが証明されている、と言えるだろう。めんどくさいから、あまり関わり合いになりたくないのだ。わかる。わかるぞぉ、玖梨子。痛いほどわかる。


「あ、クリちゃーん、烏龍茶取ってー」


 サッチャーである。悪役令嬢をアゴで使うとはなかなかである。


「あ、はいはい」


 しかし、これ幸いにと、ペットボトル片手にサッチャーとキャサリンのテーブルへ移動する。セバスはオレがいなくなると、早速トニーを捕まえた。クダを巻くことができれば、相手は誰でも良いようである。


「はい、これ、烏龍茶」

「サルベージ成功」


 椅子に座るなり、鼻にかかったような声でサッチャーが迎えてくれた。やはりセバスからの解放が目的だったようである。


「ありがとね」

「お疲れさん。ハイ、これ食べな」


 キャサリンがチョコレートをオレの前に差し出す。やさしい。


「あ、いただきます」


 そしてサッチャーが口を開く。


「あのおっさん、たいがいだよね」


 おまえの言い草もなかなかである。しかし、セバスには悪いが、間違っちゃいない。


「いやー、もー、参った、ったらないわ」

「まぁまぁ、二人とも。瀬場さんも結構ストレス溜まるポジションだからさ」

「でも、そういう役割なんだから仕方なくない? それをこの場で発散されても……あ! そういう場か」

「もー、クリちゃんったらぁ」


 そう言って笑うキャサリンであった。


 そして、セバスの時とは打って変わって饒舌なオレである。なぜなら、この二人はクリちゃんと親しいのではないかと予測したからだ。


 同じ女性、主人公をいじめる同じ役割、そして昨日の「今日はおとなしいね」というサッチャーの一言から類推した。おそらく玖梨子は親しい者の前ではよく喋る。しかも、かなり鋭く。


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