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フィールドワーク

 話で聞くだけではこぼれ落ちる情報もあるだろう。フィールドワークは世界を知る上で、ことのほか重要である。というわけで、非常に事務的な理由と言えなくもなく、あまり令嬢っぽくはないが、捨て置く。


 先ずは馬車で屋敷を出て、街へと向かった。お伴はセバス、そして瑠璃。それから御者はトニーが務めた。


 本当は瑠璃と二人きりでデート気分で十九世紀的欧州風世界観の街へと繰り出したかったのだが、それをするとまた電撃を食らってしまうかもしれない。オレは懲りたのだ。夢の中であの悪役令嬢に釘を刺されたからではない。自発的理由である。


 馬車を仕立て屋の前につけ、石畳の道に降り立つ。


「ちょっと街を散策してみないこと?」


 言葉遣いはまだ慣れていないが、まぁこんなもんだろ。


「え? 散策……ですか? しかし、そろそろ仕立ての時間になりますが……」

「お黙り」


 ピシャッと音がするように言ってやった。仕立てなぞ街へ出るための口実に過ぎん。街を観察し、この世界を見聞することが真の目的なのである。それに、そもそも悪役令嬢というものは遅刻をするものなのだ。そんなイメージがある。


 不満そうなセバスを引き連れ、オレは街を闊歩した。なんとなく悪役令嬢として正解な気がする。もちろん、瑠璃も後に従う。縦列の並び的に真ん中にいるセバスが邪魔だが、電撃避けと思えば納得もできる。避雷針のようなものだ。


 すると、なんとなく視線を感じた。


 何か、と思い注意して周囲を見回した。よもや、例の全元とかいう奴ではあるまいな、と思ったが特にそれっぽい(見たことはないのだが)怪しい存在は見当たらない。ただ、すれ違う男どもがこちらを見ているだけだ。


 いや、すれ違う男どもがこちらを見ているのだ。しかも、皆一様に獲物を狙うような視線である。これが正体だった。


 瑠璃が目当てか? そりゃ可愛いからな。しかし瑠璃はやらん。オレが許さん。と思ったが違うようだ。いや、半分は正解なのだが瑠璃だけではない。男どもの視線を集めているのはもう一人。断じてセバスなどではない。


 このオレだ。


 それが証拠に時たま目が合う。そして目が合うと視線を外す。その様が「あ、ヤベ」と逃げるようなのだ。


 店のガラスに映る自分を見ると、よそ行きにおめかししていることもあり、派手さで言えば地味に抑えさせている瑠璃(不本意ながら仕方がない)よりも間違いなく人目につく。


 そして自分で言うのもアレだが(正確にはオレじゃないが)、なかなかにして美しい。思わず自分であることを忘れ(オレじゃないが)、惚れてしまいそうだ。実に様々なものが絡み合ったナルシストになりそうなので慌てて否定する。こいつは悪役令嬢なのだ、と。演じているとはいえ。


 だから、そんな美しいオレ(オレじゃないが)に道行く男どもが一目惚れしてしまうのも無理はない。思わずちょっとした優越感に浸ってしまう。しかし、浸りつつもそれを凌駕するある感情がオレに芽生えた。


 それは「恐ろしい」であり「醜い」である。それら二つがないまぜになったものはどう言うべきか……。「おぞましい」がふさわしいかもしれない。しかし、もっと言い得て妙なワードを思い出した。


 「キモい」である。


 「キショい」と言っても差し支えないであろう。しかし「ショ」よりも「モ」の方が音的に鈍重な印象があるので「キモい」に統一する。


 そう、キモいのである。オレを見る男たちの視線は一様にキモいのだ。


 世の女性、それが美しくあればあるほど、彼女たちは街を歩くたびにこのような視線に晒されねばならぬことを思うと同情を禁じ得ない。


 しかし、そこではたとオレは思った。


 よもやオレはそんなことあるまいな。


 まぁ、それはおそらく杞憂であろう。オレに限って断じてそんなことはあろうはずがないからだ。うん。


 しかし今、そんなことを気にしている場合ではない。オレには目的があるのだ。気を取り直してウインドウショッピングを楽しむことに集中した。メインの通りには様々な商店が並んでいる。


 本屋、文房具屋、靴屋、食器屋、パン屋、お菓子屋、アイスクリーム屋、レストラン。それに、洒落たカフェもあった。


 あのカフェで瑠璃と一緒にお茶が飲めたら……、と思ったがセバスが邪魔である。そうでなくても、またぞろ電撃を喰らってしまうので、ここは我慢する。


 しかし、どの店もそれほど賑わっているとは言い難い。


 また、そのどれも看板に「王家御用達」と書いてある。みんながそうなら表記する必要があるのかどうか疑問だが、事実そうやって書いてあるのだ。つまり、この街で店を構えるには王家のお墨付きがないとダメということなのだろう。


 なんというか、ものすごい権力圧力を感じる。権力の一極集中というか。御用達でなければ商売ひとつできないというのは、果たしてそれで経済が成り立つのか、若干心配である。


 ま、俺の国じゃないからどうでもいいんだけど。




 結局、小一時間ほど街を散策した。これくらいで大体十分であろう。街の様子がどんなものか、大体把握はしたと思う。遅刻的にも、小一時間というのが悪役令嬢的にも適量であろう。


 次はもうちょっと羽を伸ばすか。できれば、この国中の街を訪れたい。情報を得る、という目的もあるが、せっかくこんなわけのわからん世界に来たのだ。物見遊山をしたいではないか。


 ただこの国は街を通過するのがすごく面倒らしい。なんせ、街が変わるごとに通行許可証が必要なのだ。なんというか、不便である。バチバチに管理されてる。


 仕立て屋に戻り、セバスにドアを開けさせ、中に入る。


「ごめぇあさーせ(御免遊ばせ)」


 オレは悪びれなんて単語を知らないかの如く振る舞う。まさに悪役令嬢。


「お待ち致しておりました、クリスティーヌ様」


 店主のおばさんがオレの姿を見るや否や、すり寄ってきて声をかける。すごいな。外部の者にまでクリスティーヌと呼ばせているのか。玖梨子嬢、なかなかにしてなかなかである。


「うむ」


 もちろん、謝罪の言葉なぞ口にしない。それがザ・悪役令嬢。いや母音なので、ジ・悪役令嬢。店前に馬車で乗り付けたのを踏まえた上で、小一時間も現れない。ナメてるとしか思えない。そう、ナメているのである。悪役令嬢は世の中全てをナメなくてはいけない。


「早速ですが、採寸の方を取らせていただきたいのですが……」


 このおばさん、何やら焦っている様子である。 


「……」


 しかしオレは返事もせず、目も合わせない。


「あ、ハィ……、申し訳ございません。こちらでお待ちを」


 おばさんはそう言って、奥のソファまで案内した。すると、間もなく茶器を乗せた盆を持ってきた。


「失礼致します」


 そう言って、若い店員がカップをテーブルの上に乗せ、紅茶を注ぐ。良い香りが漂ってくる。オレは何も言わずに紅茶を口に持っていく。オレが店を訪れる際は必ずお茶が振る舞われる。それもとびきり高級な茶葉である。それが慣習であり、店のVIPに対する礼儀であるらしい。


 ヘドラドリンクの情報として仕入れた悪役令嬢こと、クリスティーヌこと、佐反玖梨子に倣って行動してみた。それをやらずにいきなり採寸など、無礼千万なのである。


 それにしても、いつもの慣習をすっ飛ばすということは異例である。何が店員たちをそうさせるのか。まぁ良い。さすがに待たせすぎたか。店にも予定があるはずだ。


 そばにはセバスと、瑠璃が立って控えている。本当は瑠璃にもオレの隣に座って欲しいのだが仕方あるまい。セバスは立っていてよろしい。


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