一切経の供養
関白道隆さまが、昨年二月に行われた一切経を写経して供養する行事を催された時のご様子は、それは素晴らしいものだったのよ。道隆さまの妹君で、一条天皇の母君である東三条女院の詮子様、中宮の定子様もお出かけになるから、まずは、定子さまは二条の宮にお入りになったの。
関白様がいらして、定子様とお話される様子は、もう絵に描いたようで美しくすばらしいことこの上ない。葉月に見せてあげられないのが残念だこと。
定子様とのお話が一区切りついたところで、関白様は、私たち女房に向かって、
「なんとまあ、ここに並んでいらっしゃる女房がたの美しいこと、ご身分が申し分ないことと言ったら、何も言うことがない。それなのに、この宮さまは、ことのほか、ものを惜しみ遊ばされるのですよ。この私は、宮様がお生まれになってからこのかた、さまざまにお世話申し上げて来たのに、いまだにお下がりの衣一つ下さらないのです。これは大事なことですから、こそこそ言ったりしないで、堂々と目の前で言わせていただきますよ。」
これには、一同思わず声を出して笑ってしまったわ。
(道隆様って、面白いおじさまなのね。)




