おしゃべり
そのあと、定子さまは一条天皇に呼ばれ、妹君は東宮に呼ばれ、それぞれお渡りになる。
女房たちは片付けをし、それぞれの部屋に下がった。私は、清少納言の部屋を訪ねた。部屋と言っても、几帳や屏風で区切った一画だ。
「ああ定子様のお美しいこと、そしてご一家の皆様の、明るく晴れ晴れしいことと言ったらないわ。」
「少納言様は、ずっとこのご様子を見ていらしたのですね。うらやましいこと。」
「ええ、とっても素晴らしくてね。実は、いつか文章にしようと思ってね、ずっと覚書を書いているのよ。」
「まあ、ぜひお書きください。ちょっと見せていただいても、よろしいですか?」
清少納言は、文箱から反故紙を取り出した。学校で苦労して習得した、ミミズの這ったような字が、びっしり書き込まれている。まあ、十分の一は読めた。
「なんて、素晴らしい。この文書が発表されたら、千年以上読み継がれますね。少納言様に会いたくて、千年先のファンが、訪ねてくるかもしれませんよ。」
「まあ、大げさね。そんなこと、あるはずないでしょうに。」
(いや、あるんですよ。それが。)
「私は、定子さまの素晴らしさを話し出すと、止まらなくってね、みんな、もういいですって、聞いてくれないのよ。葉月は、来たばかりで知らないでしょうから、少し聞いてくれる?」
「ええ、もちろん。いくらでも。」




