貴方と過ごす一年間 〜マデリンside〜
私は今日、初恋の人と政略結婚をする。
立場上嫌いでいなければならない相手と。
毎日のように“大嫌い”と言い続けた相手と。
「では、指輪の交換を。」
「…………。」
お互いの魔力が込めた指輪が、私達を繋いだ。
初日 初めての夜
「旦那様……?」
「……もう寝ろ。」
「ちょ……っ。」
「俺達は政略結婚だろ?」
「…………、そうね。」
その背中に隠れて、涙を流した。
一ヶ月目 歩み寄る努力
「旦那様。」
「…………。」
「本日のお戻りは。」
「さぁな。」
部屋で一人、涙を流した。
二ヶ月目 会話をしたくて
「旦那様、たまには一緒に食事でもどうですか。」
「時間がない。勝手に食べていろ。」
「…………そうですか、わかりました。」
「悪いな。」
「いいえ、お忙しいのは重々承知しておりますので。」
部屋で一人、涙を流した。
三ヶ月目 使用人たちの噂話
「旦那様と奥様ってお互いに嫌いあってるってホント?」
「本当でしょ?昔から顔を合わせるたび罵りあってたんですって。」
「へぇ。じゃあ、あぁやって時間を作ろうとするのも何かの策略かも。」
「絶対そうよ。だって、家同士が仲悪いじゃない。」
部屋で一人、悔しくて涙を流した。
四ヶ月目 女主人として
「使用人を解雇したそうだな。」
「えぇ。」
「何か不満があったのか?」
「口は災いの元という言葉がありますのよ、旦那様。」
「…………。」
「私、政略結婚でも成すべきことは成すべきと考えるタイプですの。」
流した涙の跡は消した。
五ヶ月目 初めての食事
「旦那様、急にどうかされたのですか?」
「…………不服か?」
「いいえ。」
「なら聞くな。」
「はい。」
嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
六ヶ月目 初めての名前呼び
「旦那様。」
「…………。」
「今回のお戻りは。」
「さぁな。」
「旦那様。」
「…………。」
「…………。」
「行ってくる。」
「…………。」
「マデリン。」
「!」
「留守は任せた。」
「……っはい。行ってらっしゃいませ。」
涙の跡が残る日記に書き記した。
七ヶ月目 憂う気持ち
「早く帰ってきなさいよ、バカ……。」
袖口が涙で滲んだ。
八ヶ月目 待ち人帰らず
「あんなのが嫁なら帰って来ないのも当然だな。」
「なんせ、美人な幼馴染持ちだからな。」
「旦那様、ひょっとしてそのまま駆け落ちしたんじゃ……。」
「おいおい、ソレじゃあ俺達はあんな女主人に付き従うのか?表情一つ変えねぇうえに可愛げのねぇ女に?」
唇を噛み締め、涙を飲み込んだ。
九ヶ月目 一変した邸内
「害虫が居なくなって、過ごしやすくなったと思わない?」
「えぇ、マデリン様。」
「さて、次は何をしようかしら。」
「マデリン様。」
「なぁに?」
「旦那様を愛しておられますか?」
「まさか。」
「…………。」
「今も昔も変わらずに“愛してるわ”よ。」
「そうですか。安心しました。」
涙はもう、枯れ果てた。
十ヶ月目 待ち人の帰還
「…………随分と様変わりしたな。」
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「マデリン。何があった?」
「特別なことは何もありませんでしたよ。」
「…………そうか。マデリン。」
「はい。」
「ただいま。」
込み上げる思いに蓋をして、唇を引き結んだ。
十一ヶ月目 言葉は刃
「嫌よ!!嫌!!」
「マデリン。」
「絶対に嫌!!」
「マデリン、落ち着いてくれ。」
「貴方の隣は、私の居場所よ!!」
初めて、貴方の眼の前で泣いた。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝