神代の記録
「もう一度言うけど私は撤退をおすすめするからね。とてもじゃないけどこの戦力で勝てる相手じゃない」
「君も一緒に戦ってもか?」
「私が一緒に戦っても結果は変わらないと思うよ」
「団長、少なくとも学生の皆さんは撤退させたほうが良いと思います」
それは今まで黙ってきた副団長だった
「いや、少なくともこの二人は大丈夫だろう」
そう言ってナトリ団長がカルネと僕の方を向いた
その隣りに座っている4人は少し気まずそうにしていたが
「まぁナトリ、彼らの意見も聞こうじゃないか」
そうして僕らは話し合い結果としてカルネと僕はここに残り他の4人は一度学園に帰ることになった
「で、どうなんだ。お前は」
「わかったよ。やれば良いんでしょやれば」
「あぁ、頼むぞ。魔法師団長」
団長がサンシーファに向かって笑顔で言った
「では、明日に備えて解散!!」
そうしてその日の会議が終わった
その夜、僕の部屋にはセイラの他に一人の人影があった
それは副団長そしてセイラの姉エイムス・アリスだった
「ねぇ、セイラ」
「なんですか、副団長」
「二人のときはいつも通りでいいよ」
「では姉さん、どうしたんですか?」
「まだ堅苦しいけどいいや。それより元気だった?」
「えぇ特に変わりはありませんよ」
「そっなら良かった。たまには家にも帰ってきてよ。お父さん、いつも家で一人だから」
「うん、わかってます」
僕のお父さんエイムス・ガレットはこの国の貴族だった
僕らのお母さんフレジオ・マリアはお父さんと違って地方貴族の生まれだった
お父さんが仕事で地方に行った時に出会い結婚したらしい
そのお母さんは僕が生まれてすぐ病気で亡くなってしまった
それからお父さんは一人で僕らを育ててきた
「ところで、お父さんは元気でしたか?」
「まぁちょっと疲れてたかな。最近やたら中央会議が多いらしい」
「暇があったら帰りますけど姉さんからも頑張りすぎないでねと伝えてくれませんか?」
「そういうのちゃんと口から伝えたほうが良いよ。まぁセイラもなかなか家に帰れないのは知ってるから私からも言っておくよ」
「ありがとう」
そして二人は少しの間昔話をして一段落した時にセイラがアリスに質問をした
「そういえばサンシーファさんって何で学校で司書をやってるんですか?」
「ああ、サンシーファは騎士団と魔法学校の橋渡しをしているの。ああ見えてすごく強いの。魔法だけだったら現状最も強いよ」
「そうなんですか。少し戦ってみたいですね」
「セイラって少し戦闘狂になってきたよね」
そう言ってアリスは少し苦笑いした
そしてセイラもフフッと笑った
「じゃあ明日もよろしくね」
「はい、わかっていますよ」
そうしてアリスはじゃあねと一言いって部屋を出ていった
(薄々感じてたけど強さを聞いてわかったな。サンシーファさんは“魔族”だな)
ベットの上で考えてるうちにセイラは眠りに落ちていった
「エリック様、起きてください。そろそろお時間になります」
目を開けると老齢の男セバスチャンが立っていた
「ああ、セバスチャンありがとう。では行こう」
そしてその体は動き出した
「セバスチャン、お前は少し休んでいたらどうだ?」
「ハハッ御冗談を。執事とは常に主の斜め後ろについているものです」
「変わらんな。お前も、俺も」
(前にも昔の夢を見たがなぜ夢に出るシーンは僕の記憶にないんだ?)
「入るぞ」
(なんで⁉)
そこにいたのはここにいるはずのないサンシーファの姿があった
「エリック、遅い」
「悪い悪い。寝過ごした。」
「怠惰なやつだ」
現世のサンシーファとは思えないほど行儀のよく椅子に座っていた
「相変わらずの辛口だな。昔はあんなに可愛かったのに。反抗期かな?」
エリックは少しふざけた態度でサンシーファの向かいの椅子に座った
「今はふざけている場合ではないのですよ。ただでさえ魔物の動きが活発化しているんですから」
「わかっているさ。そんなこと」
そして数分間エリックとサンシーファは話し合った
話を要約すると7人の大罪神がそれぞれの魔物を率いて聖都プラメテイアを襲撃しているのだという
7人の大罪神とは暴食神ハウトース、強欲神ザキエル、色欲神ポルタイン、怠惰神ゾーン、憤怒神バルト、
嫉妬神タメランテ、傲慢神ナージェリーの神のことである。
そして魔法使いが大勢やられているという内容だった
「全く。マルスが旅立ってから間もないというのに」
そしてエリックはしばらく顔を下に向けた
「で、どうするんだお前は」
エリックはサンシーファに向き直った
「どうすると言われても、私としては聖都に介入するつもりはない。敵対勢力に塩は送らないよ」
この世界は北全体を騎士団、西南地方を神聖教徒、南東地方を魔法連合が管理していた
そして互いを牽制しあい勢力を削り合ってきた
今では3地方合同同盟としてそういった戦争はしていない
「以外な返答だな」
「そう?敵に優しくするのなんて貴方くらいでしょ」
「ハハッ!それは絶対に勝てるという保証があるからね」
そしてサンシーファが何かを言おうとした瞬間意識が暗転した
「セイラ、おはよう」
眼の前にはカルネの顔があった
「わぁっ‼」
その驚きでセイラはベットから転がり落ちた
「え?セイラ、大丈夫?」
カルネが心配そうな声をしてセイラの所へ駆け寄ってきた
「カルネ、だからあれほど起こすときは普通に起こしてと言ってましたよね?」
僕の表情を見てカルネも流石にやばいと思ったのか案外すんなり謝ってくれた
謝るならと僕もそこで矛を収めた
「次から気をつけてくださいね」
「うん」
「では会議室へ行きましょう。みんな待っているはずです」
そして僕らは会議室へ向けて歩き出した
「おっ来たな。それでは会議を始めるぞ」
そして冥龍オブゾトーラを討伐するための会議が始まった
まずお題として上がっているのは誰が軍を率いるかだった
「団長、副団長は本部に残って何かあった時に備えてもらったほうが良い」
「しかしそれでは戦力的に不安が残ります。せめて私も一緒に行きます」
「いや待て。俺も行きたいんだが?」
「遊びじゃないんですよ!真面目に考えてください。団長」
「ハハハッわかっているよ」
「じゃあ俺が洞窟周り守備しますよ。俺の持ち込んだ問題なので」
「良いのか?」
「はい」
「それでは出陣メンバーは俺、副団長、第1部隊、第2部隊そしてセイラとカルネでいいか?」
するとサンシーファが手を挙げた
「反対。部隊丸々ではなく1部隊精鋭100名を選出させて200名にするべきだ」
「理由を聞いても?」
「数さえいれば良いんじゃない。洞窟内は狭いし人数が多すぎれば攻撃を避けづらくなる」
「よしわかった。ではシェインとルインを呼べ。今すぐに部隊の編成を行う」
そして急速に部隊の編成が始まった
「よし。全員準備は整ったか?」
「「おうッ!!!」」
「これより死相岬攻略もとい冥龍オブゾトーラの討伐を行う。死力を尽くしてついてこい。行くぞッー!」
そして谷を駆け下りアンデットの群れに突撃していった
「ねぇセイラ」
「はい」
「この洞窟、先に誰か入ってる?」
「いや、入っていなさそうですね」
「そう?なら良いけど」
カルネは不満そうな顔をしながら走っていた
そのころセイラは顔をこわばらせていた
(どうする?これは団長に伝えたほうが、でもそんなことしたら間違いなく撤退になる)
実はセイラはカルネより先にその気配に気づいていた。それを知っていてカルネに嘘をついたのだ
(魔力の残滓だけでこれほどまでの圧力を発している。尋常じゃない)
一方その頃、周辺守備隊には以上が起きていた
「うわぁーーッ!」
「逃げろーー。ぐぁッ」
「クソっまたやられた。もう少し後ろに下がれーーー!」
次々に騎士たちが一人の男に切倒されていっていた
「すまんな。本当は不意打ちなど好かんのだが命令でな」
「貴様ッ何故ここにいるんだバルゲルム!」
「おお騎士団随一の剛剣ナトリ殿が覚えてくださっていたとは光栄だな」
バルゲルムは笑いながらナトリを見たそしてその視線を空に向けた
その空はいつにもまして不気味な色をしていた
「魔法連がこんな変哲もない場所になんのようだッ‼」
「少し探しものをね。君たちこそ何をしに来た?」
「教えるものか。この狂人がッ!!」
「先程からあたりが強いな。私が何をしたというのですか?」
「ふざけるな!忘れたか4年前の事件をッ!」
4年前の事件とは魔法連による一斉王都襲撃事件のことだった
被害は貴族合計453名、一般市民6000人、騎士団609名が犠牲になった無差別殺害事件だった
そして事件の首謀者としてバルゲルムは王都から数キロ離れた監獄アディスヒアに投獄した
しかしその1年後に囚人たちが暴走しバルゲルムは脱獄した
そしてナトリは剣を構えバルゲルムに向かって走り出した
しかしその剣はバルゲルムの刀に弾かれてしまった
「おやおやナトリ殿、4年前の剛剣はどうしたのですかな?」
「黙れッ!」
ナトリがもう一度剣を振るうがそれら全て弾かれていた
(クソッ何をやっても通じない。この1年間で更に腕を上げたな)
「貴様に問う。今のお前は一人の剣士としてここにいるのか?それとも4年前と同じクソ野郎としてここにいるのか?」
「今は仕事中だから私は真面目だよ。どちらかと言ったら一人の剣士としてここにいる」
バルゲルムはナトリの問に真剣な眼差しで答えた
「ならばこちらも剣士バルゲルムに誠意を持って本気で相手をしよう」
そして一人の騎士が布に包まれた物を持ってきた
そしてそれをナトリが受け取り布を取った
出てきたのはナトリの愛剣の獣龍断滅剣獣龍断滅剣だった
「懐かしいな」
そうこの剣こそ4年前ナトリがバルゲルム含め多くの魔法連を葬ってきた物だった
それを見てバルゲルムは昔を思い出す
「おい、バルゲルム。今投降するんだった見逃してやるぞ」
「くどいですよナトリ殿。これは我々の使命、天命なのです。それを裏切るなど私には到底できない」
バルゲルムは天に手をかざし残虐の笑みを浮かべていた
「貴様以上の悪魔を私は見たことない」
「それは光栄ですねえ」
そして二人は剣を構え同時に走り出した
何度も切られそのたびに何度も立ち上がった
そして激しい打ち合いをした末、最後に立っていたのはナトリだった
「バルゲルム、お前は死罪だろうな」
そして最後にお前が騎士団にいたならと言い残しナトリは去っていった
「ふふっ冗談を言うな。無理に決まっている」
そして今、バルゲルムはその最後の戦いを思い出し心を踊らせる
(この一年、私はこの人に勝つために修行をしてきた。今日こそ勝って見せる!)
バルゲルムはおそらく最後であろうナトリとの決戦に覚悟を決めた足取りで進んでいく
(一度勝ったんだ。負けることなど騎士の誇りが許さない)
ナトリは勝利の確信を胸に油断しないという表情で進んでいく
そして自然に騎士団は二人の戦いを邪魔しないように円を作った
盤上は整った
そして二人は走り出した
そして互いの剣は衝突し甲高い音を鳴らしていた
そこは何者も寄せ付けない空間となっていた
互いの剣がぶつかるたび人が簡単に吹き飛ぶような衝撃波を出し続けていた
(クソっこのままだと消耗戦になる。ここは一気に決めるしか)
(一撃一撃が重い。遅かれ早かれもうそろそろ手がいつもどおり動かなくなる。ここはすぐに決着を付けるべきか)
互いが勝利を確信するために勝負に動こうとしている
その頃洞窟内ではキャシーたちが順調に洞窟を進んでいた
「木端は無視しろ。とにかく進み続けろ!」
キャシー達は洞窟最深部へと近づいていった
そして少し開けた場所でキャシー達は足を止めた
「なんだ、ここは?」
「…」
思わず全員が絶句してしまった
そこにはレベル4モンスターアンデットワイバーンの死体が山積みになっていた
「馬鹿な、レベル4だぞ⁉」
「これが自然に死んだのかそれとも誰かがやってのけたか」
「セイラ、これって」
「そうですね。洞窟の入口にあった残滓の持ち主のものですね」
「セイラも気づいてたの?あの時、知らないって言ったのに」
「そうですね。気づいてはいましたが確信はしていませんでした」
「サンシーファ、どう思う?」
「・・・・・・・」
「おやぁ?高潔なる騎士たちがこんな汚い洞窟になんのようですかなぁ?」
「その紫紺のローブに銀色の勲章、魔法連か」
「その通りですよ。はじめまして騎士団諸君。私は魔法連合第3支部総括係マトリックスと申します」
その男は不気味な笑みを浮かべセイラたちの前に現れた