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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第一楽章『春嵐【シュンラン】』‐2‐


 夏美さんの運転で向かう最中、俺は隣でミニPCを開き事件について調べた。


「う~ん、案件は出てますけど、正体は今のところ不明、みたいです」


「そう。やっぱり」


 夏美さんも少し浮かない表情で返事をしてきた。

 いくら強い退魔士と言えど、相手の出方がわかればそれに越したことはない。少しでも情報が欲しいのだろう。

 その時、車が揺れる。ここ最近で一番の風の吹き方だ。


「しかもよりによってこんな時とは」


 街路樹も吹いてくる風をまともに受けて、風下に向かい大きく揺れている。

 こんな日は少々戦いが辛くなるだろう。いつもと違った状況での戦闘は意外と難しいのだ。


「そうね。でも私達に敵を選んだりは出来ないわ」


「そうっすね」


 会話をしながら進む俺達の車。

 辺りも暗くなった頃、私たちは案件の依頼があった場所に着いた。

 建物に囲まれ、まるで閉じ込められるような錯覚をする。周りが静かなのも一つの要因だろう。


「たしか事件のあった場所はこの先みたいですね。いかにもって感じな所で」


「うん、こんな場所じゃ陰気も溜まりやすいし、妖怪のたぐいにはもってこいの場所ね」


 成瀬の言葉に私はアタッシュケースを片方降ろし顎に手をつきながら答えた。

 落ち込んでると不幸を呼び込む、なんて誰かが言っていた。まさしくその通りで、今この場所も似たようなもの。こんな人も寄り付かないような暗い場所は、負の力を呼び寄せてしまう。そうなればその類に力を与えてしまう。そんな存在を憎んでいる人間がそんな風にしてしまっているのだ。そんな矛盾に私は呆れと、哀れみを感じてしまう。

 私と成瀬は歩き出し、捜索を始めることにした。コツコツと私たちの靴の音が周りの建物でこだまする。


「…ん?」


 ふと周りを見ていた私の眼に、道路に転がっている黒い物体が映る。

 近づいて見ると、それは変な小さなマスコット人形が付いた学生が持っているような手提げタイプの黒いカバンだった。その人形に見覚えはあったが、今はそれ所ではない。


「…どうしてそんな物が?」


 なんとなく分かってはいるのだろうが、成瀬は私に聞いてきた。

 私はカバンを拾い上げた。


「もしかしたら誰か---」


『誰か!』


 私が言い終わる前に答えが出される。

 女の人のものであろう声が聞こえてきた。声のした方に成瀬と共に顔を向けた。


「行くわよ」


 私の掛け声と共に二人は全速力で声のする方へ向かう。



 ◆  ◆  ◆



 私の今日の占いは最悪だった。しかもそれがしっかり当たってしまった。

 朝起きて朝食を取ろうとしたら牛乳はこぼすし、それを拭こうと慌てたらそのこぼした牛乳に倒れこんでしまうし…。

 しかも今日の強風のおかげで髪はぼさぼさになるし、こけそうにもなるしで良い事なんて一つもない。


「…ラッキーアイテム、つけたのに」


 泣きそうになりながら、走りながらあの占いに愚痴を言っていた。

 占いの中でこれを持てば運勢が良くなると言っていたアイテムをちゃんと持っていたのだ。

 魚の形をしたアイテムと言っていたので、仕方なく部屋にあった小さな魚の形をし、鯛焼きみたいな格好をした小さな人形をカバンに付けることにした。

 それは友達と学校帰りに近くのゲームセンターに遊びに行った時、UFOキャッチャーで取った物。なんでも昔流行った人形で復刻盤だったらしい。私にはそれが何だか分からなかった。


「だ、誰かぁ!」


 泣き声になりながら助けを呼ぶ。だが答えてくれる人は現れない。

 時折後ろを振り返ると、見たこともないような化け物がいた。

 姿形を見る限り、きっと私なんか簡単に捕まえられるはずなのに、その化け物は距離を置いて追いかけてきている。

 それはあたかも楽しむかのように…。


「はあ、はあ、はあ」


 そして私の体力も尽きかけていた。足も重くなってきた。

 本来運動が苦手な方の私がこれだけ走っただけでも立派な方だ。

 だが次の瞬間、私は突然バランスを崩し転んだ。


「あれ?」


 今の状況に似合わない言葉。でもそれ程に自然にバランスを崩した自分が信じられなかった。

 突如痛み出す右足。見ると太腿ふともものあたりが切られている。化け物に切られてしまったようだ。血が思い出したように傷口から流れ出す。

 その足を必死に動かそうと試みる。でも動かそうとはしているのだが思ったより傷が深いのか、一向に動こうとしない。

 それを見た化け物は少しずつ私との距離を詰めてくる。恐怖で震える体を無理矢理動かし、動かない右足を引き摺りながら私は後ずさる。

 化け物は右手の刃を上に掲げる。


「誰かあぁぁ!」


 叫び声と共に、刃は私に振り落とされる。私は死を覚悟し目をつむった。


「…」


 だがその刃が一向に私に到達しない。

 目を開き、目の前の化け物に視線を向ける。その振り上げた右手の手首のあたりに、細長い紐のような物が巻きつき後ろに引っ張られている。


「させねぇよ。女の子にはやさしくするもんだ、ぞ!」


 そして、化け物の右手が捩じ切られる。捩じ切られた手は化け物の足元に転がった。

 こちらからは化け物が邪魔で姿は見えないが若い男性のようだ。

 化け物は声のするほうに振り返る。

 だがその時大きく鈍い音が響く。それと同時に化け物が地面に叩きつけられた。


「もうおしまいよ」


 そう言って倒れる化け物の後ろから姿を現したのは、さっきと別の人物であろう、スーツを着こなしメガネをかけた女性。その後ろにはさっきの言葉の主であろう長い髪を後ろで纏めている男の子が。


 その二人の姿が私には、テレビで見るような正義の味方のように見えた。



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