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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第一楽章『春嵐【シュンラン】』‐1‐

 春も本格的に始まり、外を行く人たちの服装も様変わりしてきた。助手である成瀬も少し薄着になっていた。

 私は相変わらずスーツを着ている。四季のあるこの国で一年を通して着られるものがスーツだと思ったのだ。夏用のスーツもあるし、冬は何か上に羽織ればいい。

 置かれているコーヒーを飲む。事務所設立のため助手として迎え入れた成瀬にコーヒーを入れてもらっている。その成瀬の入れるコーヒーはおいしい。この子を助手にして本当に良かった。


「風、今日も強いっすね」


 その成瀬が拭き掃除をしながら窓の外を見てそんな事を言う。

 成瀬が言ったとおり、外の電線やこの事務所の窓を揺らすくらいの強い風が吹いていた。


「今日も一日強い風が吹くってテレビでも言ってたからね。いやだわ」


「本当ですか?」


 そう言って成瀬はテレビを点けた。

 チャンネルを変えていき天気予報をやっているチャンネルで止める。

 天気予報士が屋外で風に吹かれながら懸命に天気を教えてくれていた。やはり今日一日風が強く吹くとの事だ。


「風はあまり好きじゃないっすね。外出るのは億劫だし、洗濯物も干せないし」


 なんとも微笑ましい事を言う少年。


 ※  ※  ※


 私は成瀬にはここで雇う時、いてくれるだけでいい、と言った。私が雇ったんだし助手と言うのは形だけに近いから。

 でも成瀬は、代わりに家事はする、と言ってきた。格好や口調の感じだと最近の若者って感じだと思っていたのだが、どうも根は真面目で義理堅いようだ。

 せっかくの申し入れだったので承諾はしたが、成瀬は一つ頼みごとをしてきた。


『あの、下着は自分で、お願いします』


 そんな事を言うと成瀬は俯いてしまった。

 私が、別に気にしないわよ、なんて意地悪く言ったら成瀬は、からかわないでください!、なんて怒ってしまった。

 退魔士なんてしてても、やはりそこら辺は年相応の少年のようだ。


 ※  ※  ※


「なんですか? 夏美さん」


「え? いや、なんでもないわ。ちょっとボーっとしちゃって」


 そうですか、と言って成瀬は掃除を再開しようとする。

 その時ニュースが切り替わった。

 テレビに映るキャスターの顔が真剣な表情になりニュースを読み上げる。内容は殺人事件のようだ。


『昨日の夜、△△市北区で体をバラバラにされるという事件が発生しました。事件のあった時間---』


 この地区からそう遠くない場所の事件と言うこともあり、私と成瀬はテレビに注目する。

 淡々と読み上げる文章の中で気になることがあった。


『死体の出血量が少ない』


 その文は私だけじゃなく成瀬の耳にも残ったようだ。成瀬はあごに手を付き思案していた。


「出血が少ないなんて、普通だったらありえないですよね」


「そうね。切られて死ぬ要因は大体出血多量のショック死みたいなモノだし、切られて出血がないなんて、もしその場で殺されて出血が少ないのであれば、何らかのトリックか…」


「…血を吸われたか、ですかね」


 真剣な顔で成瀬はこちらを見る。

 その意見には私も同意だ。いくら人目のない所であろうと普通の人間がトリックを使ってまで人を切りつけたりしないだろう。まして人間一人の血液を抑えるなど到底無理だ。


「多分、成瀬君の言うとおりでしょうね」


 だが問題は相手の正体だ。

 生き血をすする魔物なんて数えたらきりがない。しかもバラバラにされるなんて。

 考え込む私を見て、成瀬はポンと手を叩く。


「ま、どうにかしないといけないっすね」


 そう言って私に微笑む成瀬。

 そうだ、成瀬の言うとおりどうにかしなければ、被害はどんどん広がってしまう。そうなる前にも事件解決が優先だ。


「うん」


 短い返事をする私はスッと立ち上がり、自室に向かう。

 部屋に入ると壁に掛かったアタッシュケースを持つ。そして両手で抱えた。


「今日もお願いね…」


 そう言って二つのアタッシュケースを持ち、部屋を出て行く。

 事務所に戻って来ると、成瀬も準備が整っていた。


「じゃ、行きましょうか?」


 私が言うと、はい、と返事をする成瀬。

 私達は車に乗り込み、仕事に向かうことにした。



 ◆  ◆  ◆



 辺りも薄暗くなった頃、建物を縫うように少女は逃げていた。


「誰か!」


 声を上げるが助けはない。この裏路地に逃げ込んだのが災いした。

 時折振り返りながら逃げる少女。視線の先は暗い闇だった。だがその中にうごめく何かがいた。

 その何かは一定の距離を保ち、彼女を追い詰めていく。それは品定めをするように、あるいは逃げる様子を楽しむかのようだった。

 少女はまた振り返るとその姿が見えた。その手は刃物のように鋭い形をし、犬のような息使いをしている。彼女が人生で出会った事などないものである事は確かだった。

 その事実を受け入れられないまま彼女は必死に逃げる。

 届くかも判らぬ助けの声を上げながら…。




・お知らせ

序曲の4と5を手直ししました。

大幅な変更ではないのですが、よろしかったら見てください。

では。

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