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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第八楽章『鏡射【リフレクション】』‐2‐




―――子どもの頃、なりたかったのはただひとつ。


―――あの人の横で、いつまでも一緒にいること。


―――でもそれは、とても難しいと分かっていた。


―――だからと言って、諦めは良いほうじゃない。


―――どんなに辛くても、


―――どんなに険しい道のりでも。




   ◇   ◇   ◇




 私が恋をしたのは小学生の頃。

 年上の親戚。そのぐらいの繋がりでしかなかったその人に、私は恋をした。最初の印象はこれといってない。ただあまり話したことのなかった人だったので、人見知りだった私は、警戒していたのを覚えている。




   ◇   ◇   ◇




「やあ、美緒ちゃん」


「…こんにちは」


 最初の会話はこんななんともない挨拶のみで、仲が良い悪いもない。本当にただの親戚としか思っていなかった。親につれられて行ったその家に、その人がいただけ。

 親戚仲が良い事もあり、頻繁に会ったりしてたけど、ただ普通に挨拶する仲であることに変わりはなかった。


 そんなある日慌ただしくその人が住む家に向かった時があった。何かがあったのはわかったけど、その頃の私は何も知らずに親に付いていくだけだった。

 家に着いた時、お出迎えもなくウチの家族が家に入っていった。

 家の中は静か。言葉もなく廊下を進んでいくと、奥の部屋の襖の間から光が漏れていた。

 私の両親はその襖をゆっくりと開いた。

 そこには二人の人の姿と二つの布団が敷かれていた。二つの布団にも人が横になっているので最初、私はそこで眠っているのかと思った。

 けど、変なところがあった。


「…お母様、なんでお布団で寝てる人に布を被せてるの? 苦しいでしょ?」


「…そうね。でも大丈夫」


「…?」


 変なことを言っているつもりはないのだけど、これ以上言っちゃダメっていうのは私の手を強く握る母の手から伝わってきた。


 そのあと、大人たちで話があるから、と言われた私と弟、そしてもう一人親戚のお兄さんが一緒に部屋から出ていった。

 周りに何もないこの家はとても静かで、何か分からない動物の鳴き声が聞こえていた。


「…何の鳴き声かな?」


「多分、きじかな。ここらにいるこんな鳴き声は」


「…そっか。変な鳴き声だね」


 そうだね、そう言って私の頭を撫でた。母や父のような優しい手つきに目を細める。義太兄さんは来るときすでに寝ていたので別室にいる。ここにいるのは私とこの湧樹さんというお兄さんだけ。

 その事が気にならないほど、私は湧樹さんといることに緊張しないで一緒にいることができた。




   ◆   ◆   ◆




「凛…」


 目の前では目まぐるしく攻防が入れ替わる。

 凛が降り下ろす薙刀を美緒さんが右手の竹刀で受け流し、左手の竹刀で顔面めがけ突いていく。

 それを凛は瞬きもせずにギリギリのところでしゃがんで避ける。

 そして受け流された薙刀の勢いそのままに回転していく。

 薙刀は横凪ぎに美緒さんの足を捉えるように向かっていく。

 寸前で見切られたように美緒さんもその薙刀を飛んで避けた。避けた体勢そのままに、受け流した右手の竹刀で凛の頭に打ち込んだ。

 乾いた「パンッ」という音が響いた。


「浅い!」


 巴さんの声が響く。

 私たちは見ていても判る人は限られるが、巴さんは音で判断する。竹刀のどこに当たったかを音で判断してしまうのだから恐ろしい。

 だけどその判定の声が聞こえていないのか、凛と美緒さん共に次の攻防がはじまる。


「ホントに凛ちゃんは無自覚で動いてるのよね?」


「はい。凛のお母様の話ではそうなってしまうと聞いています」


「…そうなってしまうって、どういう仕組みなの?」


 見守る夏美さんが攻防を見つめ呟くように話す。

 話を聞いただけで実際に光景を見るのは初めてだ。話した通り凛に意識は無いと見てとれる。でも今のように攻撃を当てられても動きを止めず、攻め続ける凛は何かに操られているよう。


「決して何かしらの術とか魔法ではなく、今まで学習した中で一番いい方法を本能的に選んで動く、所謂『条件反射』で動き続けるようです」


「じゃあ今この場で止めなければ凛ちゃんは…」




   ◆   ◆   ◆




「凛は血を出そうが腕にケガ負おうが、まして体力の限界が来ようが動き続けるやろね」


「そ、んな……」


 美奈さんが言う。凛には潜在的な『鏡射リフレクション』だけでなく、何故か気を失った所で発動する過敏な『条件反射』、そしてその二つを合わせた『防衛行動』。この三つを凛が持った能力だと。


「最初に見たのはあん時かな。凛は忘れたんか記憶がおかしなっとるみたいやけど、小さい時に幽霊を見て気絶してもうたんよ。そん時に見たんや。凛が急に立ち上がって正拳突き一発。そら綺麗なかたやったわ。

 最初『なんで?』しか思わんかったんやけど、それ見て思い出したんが、もっと小さい時に、それこそ言葉もそないに喋られへん時にベランダに凛を座らせてな、目の前で嗜んでた空手の形を見せた事があったんや。喜んで見とったけど、別に凛は覚えようとも、私は教えようともしてない。それやのに目の前でやって見せたんやで。しかも数えるぐらいにしか見せとらんのに」


 その幽霊は綺麗な一撃を受け、跡形もなく霧散したのだという。

 考えたこともなかった。ただの普通の女の子と思っていた凛が、それほど大変な能力を持って生活していたなんて。


「なんでこんな事に…、そう思ったんよ。ウチの家系で退魔士なんて家業を続けてたのは知っとる。ウチも魔術に興味持っておじいさまに教わって、親の反対押しきって魔術結社なんて造ってもうた。でも今の旦那に出会ってからは心入れ換えて、『ウチで終わりや。いつか子が出来たときには、真っ当な普通の生活させたるんや』って思って、生活するんも日本にして。せやけど若いときに変な事してたバチが当たったんかな」


 苦笑いを浮かべながら私を見つめる。

 その顔には母親として娘の幸福を心から願う感情が見て取れた。凛を思う慈愛に満ちたその顔に私も自然と言葉を紡いだ。


「でも、凛は凛です。淹れてくれるお茶が美味しくて、優しいお母さんであるあなたが大好きなんです。髪まで真似して伸ばしているんですよ。そんなに愛されててバチが当たったなんて言ったら凛が悲しみます」


「そっか…」


 偉そうなことを言ってしまったけど、それは正直な話だ。

 凛のこの件に関しては、神様の悪戯(イタズラ)としか言えない。ましてや生き物とは誰もが違いをもって産まれてくるのだ。頭の良し悪し、運動能力の優劣、言っていたらキリがない。

 そんな違いを持って産まれたからと、親が悲しめば子どもは辛い。まずは親が受け入れてあげれば、子どもは安心すると私は思っている。

 それはウィン様に仕えていたとき、四大元素の精霊達が他の同じ元素の精霊たちに比べ、力が劣ると悲しんでいるのを見て元気付けていた事があったから。

 それからの精霊たちの頑張りといったら言葉に出来ない。その頑張りに比例して成長していった精霊たちは、今では他の精霊たちでは太刀打ちできないほどの力をつけている。成功例が実在するのだ。


「凛のお母さんでも、そんなこと言ってたら許さないですよ?」


 腰に両手を当てて頬を膨らませて凛の美奈さんに言い放つと、ポカンとした顔になった。こんな所がやはり凛に似ている。

 すると、


「ふふ、まさか妖精さんに言われるご主人を見れるとはねぇ」


「…あんた、まだ起きてたんか?」


 空気のようになっていた黒猫の使い魔はこちらを見つめていた。


「ここまで言う子だ。結構脈ありだと思うがね」


「まあ、そやな」


 急に話の流れが見えなくなってしまった。不思議そうにしていると、美奈さんは改まって姿勢を正して私を見つめた。


「それでな、凛のためにウチが今出来ることはこれくらいや。聞いてくれるか、ルリちゃん?」




   ◆   ◆   ◆




 その言葉は、今も私を悩ませる。

 これは私の意思一つで決められること。だけど言葉ほど簡単な事ではなく、これからの事を決める大きな分岐点。


「お、でももう限界かも。もうそろそろウチの子が終いにしようとしてるよ」


 美琴さんの言葉を聞いて試合の様子を見ると、攻め込まれる美緒さんは無難に避けながら一歩ずつ間合いを詰める。そして左半身になった所で右手に握る竹刀を凛の右手に向け振るう。手首に振るったその攻撃は見事に決まり、持っていた薙刀を放してしまう。


「…まだ」


 美緒さんがそう言って今度は左手の竹刀を振るう。凛は左手も攻撃を受けてしまい、とうとう薙刀を落としてしまった。


「…最後です」


 振り上げていた右手の竹刀を、頭に向けて振り落としたところで、


「そこまで!」


 巴さんの声が響いたところで、振り落とされた竹刀は凛の頭数センチの所でピタリと止まった。それを見てか凛をがゆらりと動く。美緒さんがそれに対し動こうとする。それを見て私は、


「動かないでください!」


 私の声に困惑したような顔をしながらも、美緒さんは言う通りに動かないようにする。その美緒さんにだんだんと近づいていき、すぐ目の前まで迫る。


「…今日は、ここまで」


 拍子抜けするようにそう呟きながら凛は倒れてしまう。見ると目を瞑って寝息をたて、もう動く気配はない。気を失った凛を見ながらようやく美緒さんは構えを解き一礼した。


「…ありがとうございました」


 そう言って竹刀を置くと、凛に近づいて横抱きで抱え、私たちに近づいてきた。

 夏美さんが凛を受け取り抱きかかえると、


「美緒も凛さんもお疲れ様でした。それでは戻りましょうか?」


 巴さんの言葉に皆が同意し、移動を始めた。すると夏美さんは、


「ルリちゃん、凛の薙刀よろしくね」


「あ、わかりました」


 私が返事をしたのを聞いて、皆が道場から出ていく

 それを見送った私は一人道場に残り、凛が使っていた薙刀を抱きしめる。凛が握っていた部分は色が変わっていて、どれだけ使い込んだのかがうかがえた。


「凛、お疲れ様でした」


 静まる道場に私の声が響いた。




お待ちいただいてる方がいるとは思っていません。

自身の忙しさに言い訳をして、ここまでかかってしまった自分自身に嫌気がします。


それでも物語の登場人物は、この物語がまた始まる事を待ち続けている、そう私に教えてくれた方がいました。


自身の歳も始めた頃とは違うこともあり、ガッカリさせるような出来になるかもしれません。

ですがこの物語は完結に向け歩ませることを私は選択いたします。


しばらくのまたのお付き合い、よろしくお願いいたします。



ーAKIRAー


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