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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第七楽章『Aufgeben【ミキリ】』‐2‐

 シンと静まり返って独特の雰囲気をかもし出している屋敷の中を進んでいき、ここでお待ちになってください、と巴さんに言われ客間に通された私たち。さっき見た神社の造りと同じように、歴史が感じられるような木の造りの家だ。

 大きく息を吸うと、見た目どおりの木の良い香りが鼻を通っていく。よく観察してみると、剥き出しになっていて見えている柱の木々には痛んでいるような様子が無い。歴史ある建築物だと思われるのに今尚現役で住まいとして使われている所を見ると、どれだけ手入れなどが行き届いてるのかが窺える。いや、もしかしたら昔の建築技術がそういう面で優れていたと言う所だろうか。


「なんだか緊張しちゃいますね。凛」


「うん。こんな雰囲気だとなんだかかしこまっちゃうね」


 ルリはテーブルの上に、凛は敷かれていた座布団の上に同じように正座をしている。キョロキョロするのも一緒。まるで小さな女の子の姉妹みたいだ。

 私はその様子を見て思わず笑ってしまう。いきなり向かいの私がそんな事をするものだから、私の事を不思議そうな目で見ている二人。


「なんでもないわ。ごめんなさいね」


「いや、別に大丈夫です。…あ、そういえば成瀬君はどうしたんですか?」


「確か先に手を合わせたいって」




 ◆  ◆  ◆




 俺は線香に火をつけて手を合わせる。煙が昇る向こう、中に置かれている写真には二人の男の姿。俺の父さんと兄さんだ。

 写真に収められてる姿は昔と変わることは無い。ただこちらに微笑んでいるだけ。

 その誰にでも平等に向けられる微笑みを見ると、確かに『仏になった』という言葉が当てはまるかもしれない。

 …ん。ちょっと不謹慎だった。何を考えているんだろうか。

 俺は自分の頭を自分の手で小突いた。


「…あの、どうしたんですか?」


 丁度そこに美央がやって来て、話しかけてきた。


「あ、ああ。ちょっと、変な事考えちゃってな…」


 俺は立ち上がり美央の頭に手をやる。


「改めてただいま、美央。どう?、ここでの生活は」


「…おかえりなさい、ゆうにい。…お母さまにはいつも良くして頂いてます。…稽古は辛いですけど」


 撫でられたままもじもじと呟くように喋る美央。昔から恥ずかしがりで、あまりいろんな人と話をするような奴じゃない。さっきも夏美さんや凛を見てちょっと警戒しているようだった。

 俺がこの家を出て行くときに入れ替わりに入る形で来た美央だったけど、母さんがとても気に入っているようだ。家事のほとんどをやってくれ、母さんがやる事が無いとも言っている。

 なんだか申し訳ない気もしてしまう。俺はここを出てって自分のしたいようにしていると言うのに、代わりに家の事を押し付け、やってもらっているようで…。


「…ゆう、にい?」


「ん? いや今更だけどさ、母さんの面倒見てもらってるようで悪い気がして…」


「ううん、そんな事…。だって、私の方がお世話になってるんですもん。当然の事です」


 胸にそっと手を添えながら言う美央。そういう所作や振る舞いなどを見ていると、もしかしたら俺より歳が上じゃないかと思ってしまう。…いや、俺のほうがガキなのか?


「あ、お茶、用意したんで…。行きましょうか?」


「そうだな。みんなも待ってるだろうし」


 そう言って美央に背を向けて歩き出そうとすると、後ろから突然俺の袖を摑まれる。

 どうした?、と言いながら顔を見ると、さっきまでとは違い真剣な表情をしている。


「…私、頑張りますね」


 その言葉を物語るような雰囲気を発している美央。俺はただ、ああ、としか言わないと、美央が少し不満そうな顔をする。

 どうすればいいのかと思案して、とりあえず美央の頭に手を置いてまた撫でると、満足そうな顔をする美央。


「がんばれよ。美央」


「…はい」


 美央は頷いたまま下を見てされるがまま頭を撫でられていた。


 そこで俺はふと気付く。

 美央に勝たれると不味いんだっけか…。でも昔から可愛がってきた美央にも頑張ってほしい。

 そう考えるとなんだか複雑な心境になっていた。




 ◆ ? ◆ ? ◆




 神社へと続く階段をほぼ上り終えるというところで、立ち止まって考え込んでいる人の姿があった。


「う~ん。行けそうに無いわね。しっかり結界貼られちゃってるし。姉さんたら本当に見事ね」


「巴さん、僕らが来る事忘れてるのかな?」


「うん、多分。結構おっちょこちょいな所あるからね、姉さんて……」


 帽子をかぶっている女性の方は、赤を基調としたチェック柄のフランネルシャツをTシャツの上から着て、ボーイズデニムを穿いている。帽子の下の長髪を除けば、格好は男性と思われてもいいくらいだ。

 対して少し大きめの荷物を持つ男性は、無地で紺色のポロシャツにダメージも何も無い普通のジーンズを穿いていて、頭がボサボサなのを除けばとても大人しそうな印象を与える。むしろ平凡さを自分から押し出そうとしているようだ。


「…」


 その後ろにバッグを持った男の子もいる。その男の子はどちらにも似ているような顔つきをしていて、二人の息子なんだということが分かる。

 もうここに来てから結構な時間が経っているのか、うんざりとした表情を見せてしゃがみこんでいる男の子。

 その姿を見た女性は一つ息を吐く。


「…しょうがない。あれやっちゃって良いんじゃない?」


「巴さんか美央が来る様子も無いし…。『試し斬り』って事で」


 そう言って荷物を置いて周りを気にする男性。人がいないのを確認するとその荷物の中からスッと布に包まれた細長い物を出す。布を取り外すと、中から現れたのは鞘に収められている刀。鞘から引き抜かれた梵字のようなものが刻まれた刀身は1メートルはある。ただその長さに対し刀身の幅は大きくても3センチほどで非常に細く、ちょっとした衝撃で折れてしまいそうに感じてしまう。だが、その刀は弱弱しさを感じさせないような独特の存在感を放っている。

 それを男性は右手で柄を持ち、目を閉じながら振り上げ、そのまま目の前の空間を切るように振り下ろした。


 不意にキーンと耳鳴りのような音を感じる。それは木霊こだまするように響き渡っていき、山から聞こえていた生き物の声が聞こえなくなり、聞こえてくるのはその木霊する音と木々の葉が揺れる音だけ。


 しばらくして音が止み、男性は目を開いた。


「じゃ、おじゃましましょうか?」


 そう言いながら慣れた手つきで刀を鞘に納めて素早く布で包むと、先ほどまで進めなかった境内へと入っていく。だけど数歩歩いた所で立ち止まる。

 目の前には少女と妖精が立っていた。




 ◆  ◆  ◆




 誰だろうか…。

 私たちはちょっと神社の方を見てこようと外に出ていた。ここは本当に空気が澄んでいて心地が良く、そんな場所を満喫しないのはもったいないと思った私は凛と共に敷地内を散策していた。

 すると不意に私と凛が同時に耳鳴りがして…。そして現れたのは三人の人間。

 確か今日は巴さんという湧樹のお母さんがここに人が寄り付かないようにしているはず。さっき凛と共に夏美さんに説明されてそうされているのを見たから確かだ。

 でも実際目の前には三人の姿がある。帽子をかぶった女性、大荷物を持った男性、その二人の子供と思われる男の子。一体どうやってここの敷地に入ったのか…。


「…あなた、誰?」


 女性の方が先にこちらに話しかけてくる。


「えっと、あの、その…」


 凛はオロオロとうろたえてしまう。するとそこへ巴さんが戻ってきた。


「あら。いらっしゃい。美琴さんに義雄さん」


「いらっしゃいじゃないわよ! 姉さんたら私たちの事忘れてたの? 全然ここに入れなくて困っちゃったんだから」


「あら、ごめんなさい。客人もいたから間違えちゃったわ。…でもここに入れたって事は頼んであったのはしっかりしてくれたみたいね」


 そう笑いながら言う巴さんを見て、当たり前でしょ、と言いながら呆れたように肩を落としていた女性は、男性の持っていた荷物から紫色の布に包まれた細長い物を取り出して巴さんに手渡した。私はそれを見ているだけなのに、それに吸い寄せられるような気がした。

 しばしその細長い物を握りしめる巴さん。


「やっぱり良い仕事してるわね、あなたの所は。本当は手入れとかは自分でやりたいんだけど、私苦手なのよ」


「…もしかして、あれわざと・・・だったの?」


 女性が巴さんに聞くのだけど、ただ微笑むだけで答えてくれない。それを見て溜息をつきながら頭を掻く。


「まあいいわ。それで…」


 そう言って視線をこちら、というより凛のほうに向ける女性。


「この子が今日美央と戦う子?」


「ええ。そうよ」


 そう言われて美琴という女性は凛に近づいてきて、下からまじまじと見つめてくる。

 凛の方はどうすれば分からず、ただ黙って動かずにいる。

 しばらくして女性は、うん、と言いながら腕組をして離れた。


「中途半端な人だったら私が張り倒してた所よ」


 それを笑いながら言う美琴さん。その言葉を聞いて凛は少し顔色が悪くなっていた。

 さすがに何も準備をしていないようなら、ここまで来るはずが無いと思うんだけど…。まあ確かにそんな相手ならきっと願い下げだろう。

 すると後ろにいた男の子が急に前に出てくる。


「一つ聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」


「え? あ、はい。なんですか?」


「あなたは湧にぃと付き合ってるんですか?」


 突然の質問にキョトンとしてしまう凛。私まで同じようになってしまう。

 何を言っているんだろうか。『湧にぃ』って言うのは湧樹のことで間違いない。


 その湧樹と…、付き合っている?


 何の脈絡もなく何故その考えに至ったのか分からない。いや、直接確かめた事は無いけど、どう考えてもそれはありえないと思う。現に凛が苦笑いを浮かべているのだし。


「あ、いや、何を勘違いしてるのかな? 私と成瀬君はそんなんじゃ…」


「そうですか…」


 何故か凛の言葉にがっかりする男の子。意味が分からない私たちをよそにトボトボと両親の元に戻っていく。…本当になんだったんだろうか。




 ◆  ◆  ◆




 私は一人部屋で皆を待ちながら、ポケットから携帯を取り出す。

 画面を見てみると、電波の強度を表示する所が『圏外』と表示されている。やっぱりここまで来ると携帯は使えないか…。

 もう一度ポケットにしまうと、腕を組んで遠くの方を見つめる。見えるのは一面木々の緑色。私は本当にこんな所にいていいのか…。見える景色とは反対に気分が良いものではなかった。


「あれ、夏美さん一人ですか?」


 そこに成瀬が帰ってくる。その後ろには先ほど見た美央という女の子が付いて来ていた。

 おかっぱ頭に着物姿と言う純和風の姿。これぞ日本人、と外国人が声を揃えそうな気がしてしまう。いや、もしかしたら長髪の方が外国人には受けが良いかもしれない。


「…あ、あの。…なんでしょうか?」


 思ってるよりずっと長く見つめてしまったみたいだ。


「ううん、なんでもないわ。可愛い子だなって思って見とれてただけよ」


 私がそう言うと、頬を紅くして恥ずかしそうにする美央さん。そして小動物のように成瀬の後ろに隠れてしまう。

 その様子を見て成瀬は、大丈夫だよ、と言いながら美央さんの頭を撫でる。…大丈夫って、それはどういう意味だろうか。逆に失礼にも取れる気がするんだが。私は一言言おうとも思ったのだけど、後ろで満足そうに撫でられている美央さんの事を見るとそんな気は薄れてしまう。


 だが突然、


「お、久しぶりだね、湧樹」


 もうその言葉が聞こえた時には、バシィッ!、という音と共に成瀬は悶絶しながらゆっくりと崩れ落ちていく。その側にはビックリして動けない美央さんと、やり過ぎたわ、と言いながら手を振って痛がっている知らない女性が。

 すると私が見ていることに気付いたのか、コホンと咳払いをして仕切りなおすように美央さんの方を見た。


「美央、久しぶり。元気?」


「え、お、お母さま…」


 唖然としている美央さんをよそに、お母さまと呼ばれた女性は美央さんを見てニコッと笑った。



お待ちになっていた方々にはお待たせしてしまって本当にスイマセンでした。

今回はやっぱり大変でした。色々とです…。


ただ、この先も少しずつとなってしまうので、執筆活動が遅くなってしまうと思います。

ご了承ください。

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