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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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序曲『理由』‐5‐

 私がパソコンで調べ物をしていると、一つの記事に眼が止まった。


『行方不明の女子高生 自殺遺体で発見』


 事件のあった日に出た記事だった。死亡推定日は事件のあった前日で、投身による自殺だったという。

 遺体には性的暴行と肉体的暴行両方の痕があり、遺書などは無かったがそれらを理由に自殺したのではないか、と書かれていた。

 読み進めていくと、その女子高生は死亡推定日の前の日の夕方から行方不明だったらしく、捜索していた警察が遺体で発見したらしい。


「事件の被害者とこの少女。繋がりがあれば…」


 私は早速知り合いの情報屋に頼み、この女子高生と被害者の三人を調べてもらうことにした。

 二時間も掛からずに資料がメールで送られてきた。調べてもらった結果は---


「当たりか…」


 送られてきた資料を見ると、被害者三人と少女の名前や年齢はもちろん、家族構成や出身校、そして交遊関係までも書かれていた。

 その交遊関係を見ると、被害者の一人と少女は付き合っていた、との事だ。

 偶然にしては出来すぎている。きっとこの案件にこの少女が絡んでいる。

 私はパソコンの画面から眼を離し、天井を見上げ、呟く。


「これはこの子の仕返し…。理由は正当かもしれない…」


 暴行を受け、捨て去られ、恨みに満ちた少女は悪霊となり、案件の被害者三人に報復。

 私の推測ではあるが、きっとこの線で合っているだろう。

 私は悲しかった。

 一番の理由、それは被害者三人が暴行をおこなったという事じゃなく、少女が悪霊となったことでもない。


 それは---



 ◆  ◆  ◆



 飛んできた多数の石を、夏美さんは両手に持ったアタッシュケースで振り払った。何度も鈍い金属音がして、すべての石が払われるた。


「成瀬君、今回は私に任せてくれる?」


 そう言うと俺の返事も聞かず、少女に向かっていく。


「こないで!」


 少女はすぐに夏美さんに次の攻撃を開始した。

 コンクリートのブロックや看板が夏美さんに襲い掛かるが、それを難なく避けたり、アタッシュケースで振り払ったりして攻撃を回避した。

 そして夏美さんは少女に徐々に近づいていき、攻撃が一旦止んだのを見計らって一気に距離を詰めた。


「ごめん…」


 小さく言った言葉と同時に手に持ったアタッシュケースで、少女のお腹を殴りつけた。少女は悲鳴を上げ、地面を転がっていく。

 少女は地面に手を付きながら苦しそうに咳き込む。そんな少女を見て、夏美さんはアタッシュケースを置き、いまだ禍々しい気を放つ少女に近づいていく。

 その行動に驚き、俺は近寄ろうとしたが、夏美さんに手で制される。仕方なく事の成行きを見守ることにした。

 夏美さんは少女の前に立ち話しかけた。


「なんでこんな事したの?」


「何よ! あの人が許せなかった! ただそれだけよ! わるい---」


 言い終わる前に少女の頬に平手打ちをする夏美さん。

 俺は突然の行動に唖然とする。少女は叩かれた頬を手で覆い、ビックリした顔で夏美さんを見た。


「そうじゃない! 仕返しなんて人間なら誰でもしてしまうわ。そんな事に私は何も言わない。でも…」


 夏美さんの少女を叩いた手が小さく震えていた。

 さっきまでの怒気が無くなり、声に悲しみの色が含まれていった。


「辛かったら誰かに助けてって言えば良かったじゃない。自分で死ぬ事なんて無かったじゃない」


「…」


 何も言わない少女。すると少女に満ちていた禍々(まがまが)しい気が薄れていく。

 夏美さんは続けた。


「生きていればなんだって出来たのに…」


 夏美さんは真っ直ぐな眼差しで少女を見つめる。

 少女の目から涙がこぼれる。

 そして少しずつ涙の量が増えていき、彼女は顔を手で覆い泣き出した。


「でも、辛かったわよね?」


 やさしく夏美さんは少女に語りかける。少女は泣きながら応えるように頷いた。

 まだしっかりと泣き止まない少女だったが、ゆっくりと話し始めた。


「私、霧緒さんが好きだった。彼は内気な私を好きになってくれた。一緒に居てくれるだけで嬉しかった。

 でも彼は違った。彼は私に体を要求してきたけど、それはイヤと断ると何も言わずに私を連れ出して…」


 そして仲間と落ち合い、少女を無理やり---。

 それはどんなに辛かっただろう。自分を好いてくれた、自分が信じていた相手からの酷い仕打ち。

 助けを求めても止まない暴行は、体より精神を傷つけると聞いたことがある。きっと俺なんかには分からないかもしれない傷を負ったのだろう。


「気付いたら私は屋上に居た。心が空っぽになったようで、そこから飛び降りる事が当たり前のように感じて…」


 そこまで言うとまた泣き出した。静かな夜に小さな嗚咽が響く。

 せきを切ったように止め処なく流れる涙は地面を濡らすように落ちていく。だが霊となった彼女の涙は、地面を濡らすことは出来ない。その事実が、見てる俺としては胸が苦しい。


「…ごめんね。無責任なこと言っちゃって」


 悲しい顔をする夏美さん。自分の言葉が正論だとしても、少女の話を聞き、胸が痛んだのだろう。

 だがその言葉に少女は首を振る。


「…いえ、私こそ。人を殺してしまうなんて…。同じような…、ものですよね…」


「ううん。あなたのした事は間違ってたかもしれない。でもあなたの起こした事に私たちには何も言う権利はないわ」


 その言葉を聞き、少女は夏美さんに抱きつき泣いた。それを夏美さんは優しく受け止め頭を撫でる。

 すると少女は少しづつ足の方から実体を無くしていく。滅すると言うより成仏と言う方が正しいだろう。

 上半身だけとなった少女は体を離し、涙を浮かべながら笑った。


「…一つ、…伝えてください」


「何?」


 少女の願いを夏美さんは聞く。少女が消えるまで胸まで迫っていた。


「お父さんとお母さんに、ごめんなさいと…。あと、ありがとうと…」


「わかった」


 夏美さんの返事を聞くと顔だけになった少女は、夏美さんと俺に涙で笑顔を送り、光の粒となって消えていく。

 俺たちは光の粒が空に向かって行くのを、ただ黙って見守っていた。



 ◆  ◆  ◆



 帰りの車中、俺と夏美さんは無言だった。

 見送った後の夏美さんの顔は、ただ無言でいる夏美さんは、とても悲しそうな顔をしていた。なぜあんな顔をしていたのかわからないが、話しかける雰囲気ではなかった。

 だがしばらく走っていると、沈黙を破ったのは夏美さんだった。


「ごめんなさい。私、つい感情的になっちゃって」


「あ、いえ。でも良かったじゃないですか。仕事はちゃんとしたんすから」


 すぐに車内は静かな空間に戻った。

 でもその沈黙も夏美さんが破った。


「成瀬君。退魔の仕事って相手を倒すってだけじゃないと、私は思うの」


「…」


 夏美さんの言葉に黙ってしまう。

 俺は仕事でいつも何も考えずに対象の相手を倒してきた。その中には今日の少女のように悪霊となった霊もいた。

 その時、俺は夏美さんのように相手の事を思った事など一度もなかった。

 何の理由も無く悪霊になる訳ないのに…。


「私のやり方を押し付けるわけじゃないけど、こんなやり方もある。それを憶えておいて」


「…ありがとうございます」


 それを聞くと夏美さんは笑顔になった。

 俺は窓の外に眼を向けた。

 外には街路樹の桜が。桜の枝には今にも咲きそうなつぼみが。


「‐‐‐ら、か…」


 この時、外を見ていた俺は夏美さんの呟きに気付かなかった。

 三月も終わりに差し掛かった夜だった。



 ◆  ◆  ◆



 私は少女のつぶやきを思い出していた。


「気付いたら、か…」


 考えすぎなら良いと思いながら、もしかしたらっていう思いが強くなる。


 もうすぐ春なのにやけに寒い。

 三月も終わりに差し掛かった夜だった。



 序曲『理由』‐了‐



序曲で5話って…。

まあ文少ない分許してください(笑


感想の方お待ちしてます。

今後もよろしくお願いします。

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