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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第六楽章『twilight【タソガレドキ】』‐1‐

 空に夕闇が覆い始め、暗闇に染まり始める教室に一人の少女がいた。

 本を読むでも、予習復習をしているわけでもない。ただ窓の外を見て立っていた。


---私は…、この景色が大好きだ。


 この窓から見える街全てがオレンジ色に染まり、少しずつ夜の暗さを帯び始めている。それを少女は窓にそっと手を触れながら見つめていた。

 外の下の方に見えるのは帰りを急ぐ少女と同じくらいの女生徒たち。すると早く帰るようにと促す放送が流れ始め、教室の外が騒がしくなる。

 それなのに少女は窓の外を見つめたまま動かない。


---なのに、この景色を私は奪われてしまう……


「お~い、もう下校時刻だぞ。何をしてるんだ?」


 ふと声がして我に返った少女はそちらを見る。そこには教師の姿が。

 少女は慌ててバックを手に取り、失礼しました、と言いながら教室を出ていく。

 後ろから教師が呼び止めようと声をかけているのだが、少女は早足でそこから逃げるように去っていった。


---なんで私からあの景色を奪うの?




 ◆  ◆  ◆




 私はカバンを持つ手を見ながら少し溜息をつく。

 その手には痛々しいほどテーピングが巻かれていて、今までの私では絶対にならないような姿だった。


「凛、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。…まあ結構痛いけど」


 ルリちゃんに心配そうに声をかけられ笑いながら返す。でも本当の事を言うと結構体のほうが全体的に辛い状態だ。今も早朝の練習に行ってきた帰りで、体が軋むように痛い。

 この状態で学校に行って大丈夫なのだろうか…、と自分で自分の事を心配してみたり。

 そんな私に気付いているのか、ルリちゃんの眼差しは依然として心配しているように見えた。


「あ、リンリ~ン!」


 突然聞きなれた声が聞こえてくる。そして振り返る間もなく襲ってくる体への衝撃。

 きっとそれ程強い力ではない。でも…、


「いった~い!?」


 そう叫びながら腰が抜けたように崩れていく私。

 道路にへたり込んで衝撃がした方に涙目になりながら顔を向けると、そこには雅ちゃんの姿があった。


「…あれ? リンリン、どうしたの?」


 私の様子に困惑している雅ちゃん。私はなんとかゆっくりと立ち上がり、そしてスカートに付いている汚れを払った。

 やっぱり結構体が悲鳴を上げている。抱きつかれたぐらいでこんなになっちゃうなんて。

 それでも、なんでもないから気にしないで、と慌てて言いながら私が汚れを払っていると、雅ちゃんがカバンを落とした。

 私は不思議に思いながら顔を上げると、雅ちゃんが口に手を押さえて、信じられないといった表情で私のほうを見ていた。視線を追うと、テーピングを巻いている手に向けられている。


「あ…、えっと、雅ちゃん。どうしたの?」


 まずいと思いながら手を背に隠し、雅ちゃんになんでもないように後ずさりながら尋ねた。

 でもそれは通じなかったようで、近づいてきた雅ちゃんが後ずさる私の両肩を素早く掴み動くのを封じられてしまう。

 こうなっては私には何も出来ない。でも変に思われたくないと、無理に微笑みながら、ねえ、どうしたの?、と尋ねてみるのだけど、雅ちゃんは逃がさないといった表情だ。


「その手どうしたの?! 何かあったの?!」


 興奮したような口調で言いながら、私の腕を前に引っ張り出し、掌を掴まれる。

 その掴まれた手に伝わるぐらい雅ちゃんの手が震えている。


「あぁ…、私の、リンリンの透き通るように綺麗な白い手が、き、傷物に!」


 この世の終わりのようにそんな事を叫ぶ雅ちゃん。…雅ちゃん、私の手は私のものです。

 なおも涙目になりながら私の手を離さない雅ちゃんだったけど、突然誰かが私と雅ちゃんを引き離した。


「雅。アンタ大概にしなさいよ? 近所迷惑よ」


「あ、おはよう。歩美あゆみちゃん」


 私の挨拶に暴れる雅ちゃんを捕まえながら、おはようさん、と返すのは友達の「近藤 歩美」ちゃんだった。すらっと背の高い歩美ちゃんはどこか落ち着いていて、どこかお母さん的な雰囲気をかもしだしている。一度『あゆママ』なんてあだ名が付いたくらいだ。本人は「私、そんなに歳とって見えるの…」と落ち込んでいたけど…。


「放しなさいよ、あゆっち。リンリンの手があんな事になってるのよ? 一大事だわ! 寂しいのは分かるけどあなたの相手はもう少ししたらしてあげるから、今は待って---」


「別にそんなのいいわよ! ていうか一大事って…。だからって凛に触らなくてもいいでしょ?」


「触診よ! 触ってみなくちゃ分からない事もあるで---」


「あんたに何が分かるっていうのよ!」


 歩美ちゃんは叫びながら雅ちゃんの頭を叩いた。叩かれた雅ちゃんは、キャン、と言いながら膝から崩れていき、地面に突っ伏してしまう。


「ありゃりゃ、あゆママ~。いつも思うけどやりすぎじゃないの? それ」


「きゃ! びっくりした~。すみれちゃん。お、おはよう」


 いつの間にいたのか私のすぐ側にいるのは、中学生、いや、それよりも幼く見えるような女の子が。

 それはよく歩美ちゃんと一緒にいる「原田 すみれ」ちゃんだった。ツインテールが印象的で、それが余計に幼さを際立たせている。

 確かいつも二人が一緒にいるせいか、すみれちゃんが歩美ちゃんの子供なんじゃないかという噂が出回ってしまうほどだ。それを聞いて歩美ちゃんが落ち込んで、すみれちゃんが照れながら怒ってたけど。


「いいのよ、すみれ。こいつはこれぐらいやらなきゃ反省し---」


 そこまで言って歩美ちゃんは言葉を止め、雅ちゃんを見た。

 その雅ちゃんはいつの間にかうつ伏せの状態ではなく仰向けの状態だった。そしてなんだか気味の悪い笑みを浮かべている。


「ナ~イスアングル! あゆっち、アンタ意外と可愛い趣味してんじゃない。そのパン---」


「いい加減しろ!」


 叫びながら踏みつけようとする歩美ちゃん。それを察知して素早く起き上がり避ける雅ちゃん。


「危ないなぁ。女の子がそんな事するもんじゃないでしょ?」


「うるさい。この変態」


 その後もしばらく言いあいが続き、私とすみれちゃんは苦笑いを浮かべながら見つめていた。

 すると胸ポケットにいたルリちゃんが顔を出す。


「いつもながら仲の良い友人方ですね?」


「そう、なのかな?」


 ※  ※  ※


 鐘の音を聞きながら、私たち四人は教室へと駆け込む。

 あのあと結構時間が経ってしまったようで、いつの間にか遅刻ぎりぎりになっていた。

 私は体の痛みを我慢してなんとか三人に付いて行った。なんとか学校に着いたけど、体中が軋む感覚だ。


「もう! あゆっちのせいで遅刻する所だったじゃない」


「私だけのせいじゃないでしょ?!」


 ようやく学校に辿りついたと言うのに、まだ二人は言い合いを続けていた。よくそれだけ言い合えるなぁ。

 私とすみれちゃんはそれを横目に自分達の席に着いた。私とすみれちゃんの席は隣同士でそれが縁で仲良くなったのもある。

 失礼だけど二年になってクラス替えがあり、初めて隣に座ったすみれちゃんを見て、あれ?、と思った。どうみても同じ歳の子とは思えなかったから。

 すると隣に座っていたすみれちゃんがこちらを見る。


「それにしても凛ちゃんの手、どしたの?」


「え? あ、これは…」


 すみれちゃんに聞かれ、なんと答えればいいのかと考えてしまう。

 変に勘ぐられても面倒になるかもしれないし、かと言って正直に何もかも話すと言うわけにもいかないし…。私は少し考える。

 しばらくして一応考えがまとまり、私は口を開いた。


「ちょっとね、太ってきたみたいだから運動してるの。それで知り合いの人と一緒にやってるんだけど、その人が薙刀での運動をすすめてきてね。それがこの有様で…」


「へぇ~、薙刀ねぇ。なんか古風だね。でもなんか凛ちゃんのイメージにぴったりかも」


 ちょっと苦しい言い訳に聞こえるけど、一応信じてもらえたみたいだ。ホッと胸を撫で下ろす。

 ダイエットと言うのは嘘だけど、薙刀をやって手がこうなったと言うのは本当だ。これぐらいだったら言っても大丈夫だろう。

 するとそれをいつの間に聞いていたのか、歩美ちゃんと雅ちゃんが割って入ってくる。


「あの運動音痴の凛がねぇ…。でもそんなに気になるほど太ってるようには見えないけど」


「ねえ…、その知り合いの人って女の人、だよね」


 ちょっと疑問に思っているような口ぶりの歩美ちゃん。やっぱり少し無茶があっただろうか。

 そして雅ちゃんは何故か一緒にやってる人について聞いてくる。


「ううん、違うよ雅ちゃん。薙刀ってイメージは女の人っぽいけど、年下の男の子に教わってる---」


「リンリン! アンタ男なんかと…」


 私が言うと、言葉を切るように叫ぶ雅ちゃんは私の両肩を握り手を震えさせている。いきなりの事に何がなんだか分からない。私は助けを求めるようにすみれちゃんと歩美ちゃんに視線を向けるが、すみれちゃんはニヤニヤして、歩美ちゃんは顎に手をやって何か感心するような表情をしている。

 私は二人の助けは期待できないと分かり、自分でどうにかするべく、雅ちゃんの肩を握り返す。


「み、雅ちゃん。なんか、その、何か変に考えてない?」


 私は微笑みながら言うのだけど雅ちゃんは私の肩を放す様子は無い。


「私のリンリン…。いつの間に男なんかと---」


「健全で何よりだ。それよりも私はお前が心配だよ。永倉」


 突然入り込んできた声。それに反応する間もなく後ろ襟を掴まれてしまい、グェ!、っと変な声を出してしまう雅ちゃん。

 その雅ちゃんを掴んでいるのは、眼鏡をかけスーツを着ていて、その上に白衣を纏っているボサボサ頭の女性。表情はどこか気だるそうな女性は…、


「ええっと、山川先生。おはようございます」


 ああ、おはよう、と返すのは言ったとおり、私たちの担任でもある山川 みどり先生であった。




湧「あれ? 夏美さん」


夏「どうしたの? 成瀬君」


湧「もしかして俺達、置いてきぼりな感じっすか? 主人公格なのに…」


夏「うふふ。そうみたい。なんか誰かさんのリハビリも兼ねてとか…」


湧「個人的な事情ですか…」






作「すいません…。番外的なモノとして書くつもりのを書いてしまいます。少しだけお許しください」

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