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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第四楽章『迷霧【メイム】』‐2‐

 目の前が真っ暗だ。それに体が『今は動くな』と言ってくるように動く事を許してくれない。

 しかも頭がズキズキして仕方が無い…。割れているような錯覚さえする。

 その痛みは何が原因だったのか思い出そうとしたのだけど、頭の痛さに負けてそれを放棄した。

 それなのに…、


 ---こんな風に頭が痛いのって、懐かしいな…。


 何故だかズキズキする頭の痛さに、不愉快さと共に懐かしさを感じてしまう。

 いつだっただろうか。確か自分が小学生の時だったはず。その時もこんな風に頭に痛みを感じていた事があった。


 ---そうだ。親父に殴られたんだっけ、俺…。


 何でそうされたのかは憶えていないのだが、その時の親父の顔は何故だか簡単に思い出せた。

 俺を見つめる親父の顔は、俺を真正面から睨みつけていて、有無を言わさないといった雰囲気を出していた。

 俺はその顔を見て怒り返す事は出来ず、『ごめんなさい』と言う言葉を口から出すことと、目から大粒の涙を流す事しか出来なかった。

 でもそんな俺を見て、親父は俺の頭に手を置いてやさしく撫でてくれた。

 その手は大きくて、温かくて…。それなのに俺の涙は余計に溢れだしてしまった…。


 ※  ※  ※


「なんだ…? 今の…」


 ふいに目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。

 何か変な夢を見た気分だが、頭の中がボーっとしててよく思い出せない。なんだか歯がゆさを感じた。

 思い出せるのは頭の痛みぐら---。


「っ!。いってぇ…」

 

 ここはどうやら夢ではないようだ。

 頭に鈍い痛みがある。痛みのある部分に手を触れてみると、そこは大きく腫れていた。

 何故こんな風になっているのか…。


「確か…」


 何があったのかを思い出す。確かそれは凛に俺が母さんの歳を言おうとした時だった。

 突然頭に何かを落とされたような衝撃を受けてしまい、その衝撃は俺の意識を遮断するのは容易いほどの威力で、俺は一瞬で眠りにつかされてしまったのだ。

 そして気付いた時にはここ、自分の部屋にいたという訳だ。


「母さん……、やりすぎだよ…」


 誰にやられたのかは見ていなかったけど、誰がやったのかは明白で少し笑ってしまう。

 こんな衝撃で打撃を喰らわす人なんて、俺はあの場にいた人の中で一人しか知らない。ずっと育てられてきて、体が覚えてしまっているんだ。間違えようが無い。

 母さんはどうも自分の歳に対して過敏に反応するのだ。

 前に少し言い合いになった時も、売り言葉に買い言葉で「若作りの年増!」と言ってしまった事があった。別に本気で言ったわけじゃない。

 でもそれを聞いた母さんの顔は、今まで見たことも無い顔だった。

 それはまるで般若面のような顔で、それを見て体が動かなくなった俺は、本当に死を覚悟したのを憶えている…。

 しかしあの時の事は憶えていたというのに、とんだ凡ミスをした…。


「にしても、やっぱり母さんが来た理由って、アレ・・しかないよな…」


 それを考えると憂鬱になる。

 すると突然目の前の扉が開かれ、俺は少し身構えてしまう。

 最初母さんかと思ったのだが、そこにいたのは手に水を入れた洗面器とタオルを持った凛。ポケットにはシャルルも一緒にだった。



 ◆  ◆  ◆



 私が入った時、成瀬君は目を覚ましていた。

 気のせいだろうか。少し安心したような顔つきに見える。


「どう? 頭の方」


 それには触れず、とりあえず成瀬君に話しかける。すると成瀬君は、私の言葉を聞いて急に頭を押さえた。


「これはヤバイ。脳内出血してるかも…」


「そんな事言って…。ホントになったら大変ですよ?」


 そうだよね、なんて成瀬君はルリちゃんの言葉に返しながら笑っている。この様子ならどうやらなんとも無いようだ。

 水に浸したタオルを成瀬君に手渡す。それを受け取って頭を冷やす成瀬君を見ると、改めて本当になんとも無くてよかったと思う。

 思い出してみると何事も無かったのが不思議だと思う。

 あの時の成瀬君に振り落とされた打撃は尋常じゃない速さだった。見えなかったのは素人目のせいだけではないだろう。

 でもその割には音がそこまで大きい音にはならなかったし、私から見た限りはケガもそこまで酷くない。それは多分成瀬君のお母さんの持っていた杖のおかげだろう。

 近頃の白杖は持つ人の事も考えてか、カーボンなどの強化プラスチックでできているようで、大きく軽量化されているらしい。

 昔は金属でできているモノがあったらしく、それでやられていたらそれこそ脳内出血か頭から大量出血だった。…いや、あの強さだと潰されていてもおかしくない。それを想像すると少しゾッとする。

 そんな事を考えている私をよそに、成瀬君はタオルを押さえながらベットに寝転がる。


「でも歳の事で実の子供を気絶させるなんて…、やりすぎだろ」


 それを聞いて私は成瀬君に近づき、頭を下げた。

 突然そんな事をしたものだから、成瀬君は戸惑っている。


「…そうなったのって、私のせいでもあるよね。…ごめんね」


 知らなかったとはいえ、元はと言えば私が聞いたせいで成瀬君がこうやって被害を受けてしまったんだ。痛がっている成瀬君を見ると、少なからず私自身も申し訳なく思う。

 成瀬君はそんな私を見て上半身だけ起き上がった。


「そんな。気にする事無いって、こんなの。やりすぎとか言ってたけど、結構慣れてる事だし」


 そう言った後成瀬君は立ち上がり、押さえていたタオルを洗面器に入れ、よく絞って頭に当ててもう一度座る。


「俺が小学生の時なんかは、何か悪い事するとすぐに怒られてたから。

 まあそれ自体は口で怒られるぐらいなんだけど。俺って捻くれてて、親の言う事聞けなかったんだよ」


「え? 捻くれ者なのは今もじゃないですか?」


 急に成瀬君が真面目な雰囲気で喋り始めたのに、ルリちゃんが茶々を入れるのだけど、そう?、と普通に答えてスルーする成瀬君。

 反省しているのか、ルリちゃんは何も言わなくなってしまった。大丈夫だよ、という意味で私はルリちゃんの頭を撫でてあげる。でも逆効果だったようで、ポケットにうずくまってしまった。

 そんなこちらの様子を気にせず、成瀬君は続ける。


「まあそうなれば親は当然怒るじゃん? もう…、そうなったら大変だったよ…」


 そこまで言って黙る成瀬君。


「どんな事…、されたの?…」


 成瀬君が急に黙ってしまったので、その先が余計に気になり聞いてみる。

 でも何も答えてくれない。


「ねえ…、何、されたの?」


 もう一度聞いてみるけど、やはり答えない成瀬君。

 でもその代わり、よく見ると成瀬君の体が大きく震えていた。顔も青ざめていて異様でしょうがない。


「あぁ…。なんとなく分かった…。もういいよ…」


「…いい判断ありがとう」


 とりあえずこの話はここで終わりとなった。というよりも私と成瀬君両方が無言でここで終わりにした方がいいと判断した。

 でもこのまま黙るのも変なので、一つ気になってた事を聞いてみる。


「そういえば聞きたい事があったんだけど、なんであんな事言ったの?」


「…ん? あんな事って?」


「そのまま迷って来れなきゃ良かったのに、って。いくらなんでも言い過ぎじゃない? お母さんが心配して来てくれたのに」


 どこから来てるのかは知らないけど、一人で家から出てった息子を訪ねて来たんだ。私だったらありがたいと思うのだけど…。

 でもそこまで私が言うと、成瀬君はなんだか機嫌が悪くなったような顔になる。

 あれ?…、聞かないほうが良かったかな…。

 成瀬君はもう一度立ち上がり、押さえていたタオルを洗面器に入れて、手を頭の後ろに置いてベットに倒れこんで天井を見上げていた。


「母さんはさ、俺に辞めて欲しいんだってさ」


「何を? あ、家に帰って来い、とか言われてるの? …もしかして、成瀬君のお母さんって親馬鹿?」


 そう言った私を見て成瀬君は、フッ、と笑った。

 ちょっと馬鹿にされたようでムッとする。分からないんだからしょうがないじゃないか。


「この事務所に働きに行くのを辞めてくれ、っていうならまだマシだと思うよ。家が嫌いというわけじゃないから帰ればいいだけの話だし。

 …でもそうじゃないんだ」


 そこまで成瀬君が言って私もやっと分かった。


「今やってる仕事…、退魔士を辞めてって…、事?…」


 そう私が言ったのに、成瀬君は何も返してくれない。

 でもそれが、私の言葉に肯定しているのと同じだという事が簡単に分かってしまった。



 ◆  ◆  ◆



 私の前に座る成瀬の母である巴さんが微笑んで私を見つめてくる。


 どのくらい経っただろうか。気絶した成瀬が凛にズルズルと部屋に連れてかれてからずっとこのままだ。

 巴さんの方からは何も言ってこず、私も何を話せばいいのかと考えてしまって切り出せずにいる。

 そんな様子を見かねてか、巴さんが口を開いた。


「いきなりお邪魔してしまってごめんなさいね?」


「あ、いえ。巴さんもこんな所までありがとうございます」


 気になさらないで、と言いながらカップを手にとって口をつける。

 和服姿なのに所作が綺麗でマグカップがとても似合う。

 それにしてもこうやって目の前で見ると、凛が『お姉さん』と言ってしまうのがわかる。私だって先に成瀬から聞いてなかったら、間違えていたかもしれない。


「それで、家の湧樹はどんな様子かしら?」


「湧樹くんですか? いつも仕事を一緒にして手伝ってもらってますし、申し訳ないのですがここでの家事の方は彼に頼りっきりで、本当にとても助かってます」


「そう言ってくれると親としては嬉しいわ。邪魔していないか心配だったの。あの子変に大人びてて、家じゃ素直に言う事を聞かないものだから」


 そう言って笑う巴さんにつられて私も笑ってしまう。

 こうやって一緒に話していると、成瀬が何を心配していたのか分からない。

 白杖を持っている所を見る限り、この人は目が見えないのだろう。

 そんな親が成瀬のことを心配してこんな所にまで来てくれて、しかも私がこき使っているように話しても、それを咎める事もしない。

 私はてっきりそういう事をガミガミ言ってくるような、親馬鹿か子煩悩と言われるような人を想像していた。

 それなのに成瀬は何をそんなに心配していたのか…。


「それでね、あなたにご相談があるの。聞いてくれるかしら?」


 突然そんな事を言ってくる巴さん。


「ええ。私でよければ何でもいいですよ。湧樹君にお世話になっていますしね」


 何だろうと思いながらそう言って私は笑って返す。

 だが、巴さんは今までの微笑んだ表情ではなく真剣な表情。さっきまでの穏やかな雰囲気など嘘のように。

 私はその雰囲気に呑まれそうになりながら、巴さんを見つめ返す。


「あの子にね、一言言ってくれるだけでいいのよ」


 そう言って巴さんはカップを取り、もう一度口を付ける。

 私はそれを見て黙って待つ。

 そしてカップから口を離し、巴さんは私を見つめてくる。


「退魔士をやめなさい、って」


 巴さんはまた微笑むのだが、それはさっきまでの微笑とはとても同じものとは思えなかった。




サッカーは魔物…。

夢中になって見ながら酒を飲みまくり、次の日の午後3時に起きてしまう…。

予定では金曜か土曜の深夜なのに、遅くなってしまった。もうこんな失敗はしないようにしたい…。

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