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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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序曲『理由』‐2‐


 俺はこの二ヶ月この事務所で世話になっている。きっかけは案件の案内で見つけた一つ。


『事務所開設に付き助手急募 報酬金要相談 住み込み可』


 簡潔であまりにも危険性を感じさせない案件であった。調べてみるとその地区は比較的重要案件は少なく、ランク的に自分に楽な案件でもあった。しかも、


「住み込み可、か」


 いろんな地区に行ったりして何日も滞在する案件もあったりする。その所々でホテルに泊まり金をかけてしまい、割に合わなかったりする。そんな中で雇ってもらい、その上住み込みもオッケーなんて。こちらとしては至れり尽くせりだ。


 ‐‐‐それに…


 俺は迷いもせず承諾のメールを送った。



 ◆  ◆  ◆



 夏美さんの運転する車に乗って、俺は窓の外を眺めていた。流れていく街の景色はどこか幻想的で、自分がこの世界にいるのかと思うと不思議でしょうがない。

 東京に近く、比較的拓けているこの街は、夜になっても暗くならない。ファーストフード店やファミレスなどと言った遅くまでやっているお店が多いため、そこらじゅうに光が溢れていた。


「夜だって言うのになんでこんなに明るいんすかね?」


 隣の運転席でハンドルを握る夏美さんに話しかけた。運転するその夏美さんはスーツを着こなし、髪はショートカット。女性にしては高身長、おまけにモデル並みの体系とあって、見る人が見れば大企業の社長秘書と言った所で、凛々しく格好いい。

 話しかけられた夏美さんは、ん~そうね~、と言ってメガネを直しながら応えた。


「きっと怖いのよ。夜、まあ闇と言った方が良いかな。暗い闇って人にとっては絶望や恐怖を連想させるの。だから人は火や電気を使って光を得ていたんだと思うわ。例えば、小さいころって夜トイレに行くのが怖かったりしなかった?」


 確かに。

 幼稚園の頃だったか、夜中にトイレに行きたくなって起きた時、静かな暗闇の中を歩いていくのが怖かった。

 この廊下の角に何かいるんじゃないか、後ろから何か追ってくるんじゃないかって不安だった。

 今でもあまり暗い所は好きじゃない。いや、好きになるなんて無いと思うが。


「そうっすね。そして人は光を得て安心を得た。でもそれが悪い方にもつながった」


「…そうね。光が強くなれば闇も濃くなる。闇が濃くなればまた光を求める。きっとその繰り返し」


「闇は魔を呼び、光の強さと比例して力を増す。結局強い魔を作り上げるのは俺たち人間なんすね」


 うん、と頷く夏美さんはどこか寂しげな表情をしていた。


「ま、その始末をつける為に俺たち『退魔士』がいるんすよね」


 少し雰囲気が悪くなりそうな気がしてなんとなく言った言葉だった。夏美さんは表情を変えた。


「フフ。『正義の味方』って所かしら?」


 夏美さんは微笑を浮かべながらそんな事を言うものだから、笑ってしまった。夏美さんは柄にも無いことを言ったせいか、俺に笑われたせいか、少し顔を赤くしていた。


「も、もうすぐ着くわ。準備できてる?」


「じゃあ頑張りますか。正義の味方として」


 そんな俺の言葉に夏美さんは、もう、と言って頬が膨らむ。

 視線をフロントガラスの方に向ける。目的地まではもうすぐだ。



 ◆  ◆  ◆



「あなたが助手希望の?」


 ソファーに腰掛け向かい合う私の前には、笑顔の少年がいた。

 前に出した私の依頼を見てやってきたそうだ。




 この街に事務所を設立する際、一応探偵という名目で出そうとしたら、テナントのオーナーに、


『探偵事務所って言うのにアンタ一人かい? 普通一人二人事務員がいるもんじゃないか。ましてや女性一人なんて』


 確かに。

 事務所というのに私一人というのは言われてみれば変かもしれない。それにもしも普通に探偵の依頼なんか来た時、私一人で対応できないかもしれない。


『一応募集して決まり次第本営業なんで大丈夫だと思います』


 とっさにそう言ってしまい、一応テナントのOKは貰えたが、あまり気乗りはしなかった。

 だが言ってしまった以上誰も雇わずいるのも変に思われるので募集をかけたのだが…。




 そして来たのは学生の格好をした少年。なんだかなめきっている様にも見える。

 私は渡された書類に目を向ける。目の前の少年の履歴書のようなものだ。


 ~~~~~~~~~~~~

 氏名 成瀬 湧樹(男性)

 年齢 15歳

 退魔士歴 実戦経験4年(6歳からの修行を含め10年)

 退魔士ランク B

 ~~~~~~~~~~~~


 私は感心した。

 修行を6歳からやっていて、しかもこの歳で記号なしのBランクまでいくなんて。外見を見る限りじゃそんな柄にも見えないが、視線を少年の手に向けると、それを物語る傷跡がみえる。

 資料をテーブルに置いて顔に視線を向け、私は成瀬と言う少年に話しかけた。


「今年の春に高校生なの?」


「はい。なんで本格的に働けるのはもう少し先っすね」


 変な若者言葉を使い、返答してくる成瀬。少年は出しておいた缶のコーヒーに口を付ける。

 私も本格的に始めるとしたら寒い冬に始めるより、区切りのいい四月あたりを予定していた。


「じゃああと聞いておくけど、この案件を受けた理由は?」


「案件内容に『住み込み可』って書いてあったじゃないっすか。それっすかね。ホテル代とか馬鹿にならないし」


 頭を掻きながら応える成瀬。でも腑に落ちない。

 案件によっては宿泊代やその他諸々出してくれるものもある。彼は記号なしのBランク。彼のランクならば探せば見つかるだろう。

 メガネを直しながら成瀬を見つめる。


「…他に理由あるんじゃないの? 住み込みにこだわるのに」


「それは…」


 今まで見せていた笑顔が曇る。言うべきか困っているのだろうか。


「まあいいわ。それは追々話してもらうことにして」


「すいません」


 私は成瀬に、いいのよ、と言う。そして顎に手を添えて成瀬に問う。


「でもあと一つ」


「はい?」


 不思議そうな顔をして私を見る成瀬。私は微笑む。


「成瀬君、コーヒーは入れられる?」



一応戦いに持っていきたいのですが…。


きっと次話あたりで…。

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