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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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序曲『理由』‐1‐

動き始める物語。


なんてね。

「‐‐ツミさん、夏美さん。起きてください」


 ドアの向こうから聞こえる声。その声に私は眠りから覚める。ベッドから体を起こし、伸びをしてドアに向かい開く。


「おはようございます。と言ってももう昼っすけどね」


 声の主、私の探偵事務所で助手として雇った成瀬が立っていた。女性では高い方の私と同じくらいの背で、髪は背の辺りまであり首の辺りで結んである。服装はエプロンをしている事以外は、いかにも若者らしい服装をしている。


「ごめんなさいね、成瀬君。私朝は弱くて」


「いや、いいっすよ。それよりごはん食べますか?」


 成瀬の後についていくと、寝室を出た辺りからいい香りがしていた元がテーブルにあった。テーブルに置いてあるのはハムエッグに味噌汁、そして白いごはん。

 簡単な朝ごはんではあるが、男である成瀬が用意してもらったのにはいつも驚かされる。

 テーブルに着き二人は手を合わせ、ご飯を食べ始めた。


「成瀬君、ホントすごいね。お味噌汁もおいしいし。いいお嫁さんになるよ」


「仕事柄一人暮らしとか多いですから。ってお嫁さんっすか。貰い手はつかなそうっすけど」


「フフフ。そうね」



 ◆  ◆  ◆



 他愛も無い会話をしながらご飯を済ませ、成瀬は後片づけを。私は自室に戻り、スーツに着替え、ご飯を食べていた部屋を抜けて階段に向かい下に降りていく。

 そこは事務所になっていて、私の仕事場となっている。いつもの窓に背を向けた自分の席に着き、机においてあるいくつもの新聞に目を通した。一面を飾るのはニュースでもやるようなありふれた事件や政治情勢。だが私にはそれらには関心は無い。

 一つをとり、中を開きある記事に目を着ける。それはニュースでは取り上げないような『ベタ記事』なんて言われるモノ。そこにはあまり世間的に関心を持たれないような事件なんかが多い。


『若者三人 車の下敷きに』


 そんな小さな見出しと少ない文章。普通の人なら見逃すような記事だが読んでみると不思議でしょうがない。


「車にカギは無かった…」


 本来動くはずの無いその車が、人を『轢く』わけでもなく、上に『乗っかる』なんてありえない。こんなに不思議な事件なのに人目を避けるようにこんなベタ記事となっているなんて。


「…」


 しばらく思案していると、上から成瀬が降りてきた。かけていたエプロンは外され、ごく普通の若者の姿になっている。成瀬は新聞を見つめる私の方に寄ってきた。


「何か気になるものでもありましたか?」


「ん? ええ、コレ」


 新聞を成瀬に向けて記事を指差す。新聞を受け取った成瀬は記事を見つめ、全文を読み終えると私に顔を向けた。


「コレってもしかして俺たち向けの事件っすかね?」


「多分ね。いくらかの目星が付いてれば、『事件』とか『事故』なんて言葉がついてるはずだし」


 新聞を綴じ、背もたれに寄りかかり天井を見上げる。この手の職業の者はここでタバコでも銜えて一服するような所だが、私は元来タバコなんて吸わない。

 それを見た成瀬は、すぐに部屋の隅に置いてあるコーヒーメーカーを使い、二杯作ったコーヒーを持って私の机に片方を置いていく。どうぞ、という言葉と共に。


「あ、そうだ。案件が出てないか見ときますね。その現場近いですし、その手の事件だったらこの辺に依頼が出てるでしょうし」


「うん。お願いね」


 わかりました、と言うと早速自分の机に座り、自分のミニPCを使いはじめた。


「あとは理由、か」


 物事にはちゃんとした理由がある。

 食べることにはお腹がすいたから。

 飲むことは喉が渇くから。

 笑うのは楽しいから。

 泣くのは悲しいから。


 そして、


「人を殺すのには…」


 その時調べていた成瀬がこちらに声をかける。


「あ、夏見さん、やっぱりありましたよ。あんな風にベタ記事にしたのは事件を事件として取り扱ってるっていうカモフラージュみたいっすね。まあ近くでそんな事が起こった事を知ってる人だっているでしょうし」


「やっぱり。何事にも理由はある」


 脈絡も無い返事に成瀬はキョトンとする。しばらくなんで成瀬がそんな顔をしているのか分からなかったが、自分の返事がおかしかった事に気付く。一つ咳をして成瀬に向き直った。


「ごめんね。考え事してたから。じゃあその案件受けましょうか?」


 了解です、と言って成瀬は承諾の文書を作成し始めた。それを見て私は自分のノートPCを取り出す。


「私も調べ物調べ物」


 淹れてくれたコーヒーを口に含み、立上がった画面と向かい合った。

バトルの気配はまだまだか。


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