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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第二楽章『fatum【運命】』‐2‐

「ご迷惑おかけしてしまってすいませんでした」


「いえ、私のほうは大丈夫なんで…」


 深々と頭を下げる女性。それを私はやめさせようとする。別に私は何もされていないんだが…。

 場所を変えて私たちは今、近くの公園のベンチに座っていた。

 私の隣には、茶色や黒といった暗い色を基調とした服装の男の子と、男の子とは逆の感じで白基調の服を着た金髪の女性。

 はたから見ると私たちはどういう風に見えるのだろうか。

 人通りがあまり無いところでよかったと思う。まあこんな所に公園を作るのもどうかと思うが…。


「知り合いに呼ばれて来たんですが、迷ってしまって。道を聞くにも誰も話を聞いてくれなくて」


「そうだったんだ…」


 そう言って私は二人を見た。

 確かに話しづらいかもしれない。女性はまるっきり外国人だし、男のこの方も髪の毛は黒いけど、眼鏡の奥の眼の色が青い。私もこんな形じゃなかったら、話しかけられても逃げてしまうかもしれない。

 すると男の子が私の手を見る。

 そこには白い袋が。転んだ時からずっと握り締めていて、ポケットに入れるのを忘れていた。


「それは…」


「あ、これはちょっとしたお守りなの。最近知り合った人から貰ったんだ」


 私がそう言うと男の子は、そうなんですか、と微笑んで返してきた。

 私、何か面白い事を言っただろうか?

 疑問に思っていたが、私は一つ大事な事を思い出した。


「そうだ! 私その人の所に行くんだった。じゃあね」


 立ち上がり私が行こうとすると、待ってください、と引き止められる。


「僕もご一緒してよろしいですか? お引止めしたお詫びも籠めて」


「え? あ、いや、大丈夫だよ。たいした事な---」


「では、行きましょうか」


 私の断りも聞かず、男の子も立ち上がり歩いていく。女性も後を追う。

 私は慌てて後を追い、呼び止めた。


「ちょ、ちょっと! 来るのはいいけど、方向逆だよ!」


 迷っていた訳が分かった気がした。



 ◆  ◆  ◆



 夏美さんの知り合い…。

 この人の知り合いだからすごい人なんだろうと思ったが、想像していたより一回りぐらいすごかった。


「魔術結社の組織長、って…。どんだけすごい人ですか。てかそんな人がよく簡単に来てくれるって言いましたね」


「本人いわく、『名前だけの組織長』だそうよ。いつもどこか出歩いてて、仕事は部下に任せきりらしいから。今日本にいるのだってお寺とか神社なんかの古い建築物巡りだとかで来てたみたい。昔から変わらないわ、そういう所」


「なんていうか…、自由人ですね…」


 かもしれない、と夏美さんが言う。

 部下を束ねる者がフラフラとどこかに行っちゃうなんて…。もしも俺がその人の下に就いていたら、すぐにやめてしまうだろう。


「夏美さん、ありがとうございます」


 なんとなく夏美さんにお礼を言ってしまう。俺の上司がこの人でよかった。

 言われた本人は、なんで?、と言って不思議そうな顔をしながら次の資料を開いていた。

 うん。この人はこのままでいて欲しい。


「じゃあ夕方辺りにでも来ますかね?」


「どうかな。明日になるかもね。自由人だし」


 笑いながら言う夏美さん。俺もつられて笑ってしまった。

 でも、その笑顔を見て俺は複雑な心境だった。

 昨日あんな事があったのにこんな風に笑えるなんて、俺には出来ないだろう。きっと…。



 俺は弱い人間だから…。



 っと、いけない。何を感傷に浸っているんだ俺は。柄にも無い。

 何か切り出そうと思った瞬間、事務所のドアを叩く音がして、開かれる。入ってきたのは今日呼び出した人物、桜井 凛だった。

 制服姿しか見ていないから、少し分からなかった。

 入るなり頭を下げる凛。


「す、すいません! 遅くなってしまって…」


「いや、大丈夫よ。来てくれてよかったわ」


 優しく声をかける夏美さん。凛は、ありがとうございます、と言ってまた頭を下げた。


「でもどうしたの? 何かあったの?」


 昨日話した感じや見た感じ、絶対遅刻しないような人だと思う。

 なので不思議に思って俺は凛に聞いてみた。

 すると、ちょっと待って、と言ってドアの外を見て誰かを手招きしている。


「途中この子とぶつかっちゃってね。なんかこの人たち道に迷ってたみたいなんだけど…」


 どうも、と言いながら入ってきたのは眼鏡をかけた男の子と綺麗な女性。

 どうも外国人のようだ。男の子は眼の色が違うし、女性は金髪だったから。


「それなのにぶつかっちゃったお詫びをしたい、って言ってついてきちゃったの。私は別にいいよって言ったんだけどね」


「え? あの、よく分かんないんだけど…」


 場所を探していたのについてくるなんて意味が分からない。

 ここに来たって何もないし、そもそも俺たちには目的地はどこなのか分からない。

 俺は頭を掻きながら男の子に近づく。そして俺は少年の目線まで屈んだ。


「なあ、どこに行きたいんだ?」


「いや…、あの…」


 なんだか歯切れの悪い返事。人見知りで緊張してるんだろうか。


「ちょっと、あなた。ウィン様に失礼じゃない!」


 ここで一緒にいた女性が俺に怒った。

 どういった関係なんだろうか。年下だろう男の子を様付けで呼ぶなんて。お付の人か何かだろうか?

 女性は俺と同じぐらいの身長で、腰に手をつき俺を睨んできた。

 なんだか迫力ある人だな。


「あ、いや、別にただ話を聞こうとしただけ---」


「年上に対しての礼儀もちゃんと出来ないようじゃたかが知れてるわ!」


 俺の返答を待たずに捲くし立てる女性は、今度は腕を組んで怒っている。

 いくら俺の態度が気に食わないからってそこまで---。


「え? 年上?」


 気になる単語が耳に残る。

 女性の言った言葉の中の一つの単語。『年上』。

 すると後ろの方から、ククク、という笑い声がした。振り向くと夏美さんが笑っていた。


「ちょっとウィン。あなた相変わらず小さいわね」


「はは。水華月も相変わらず元気そうで」


 話している二人の間にいる俺は、何がなんだか分からない。と言うのは嘘で、なんとなく分かっていた。


「夏美さん…。この子と知り合いなんですか?…」


 冷汗を掻きながら夏美さんの方を向く。

 夏美さんはそれを察してかニヤニヤしながら言った。


「その人がさっき言ってた魔術師よ。しかも私と同じ歳よ」


 信じられない……。と言うより…。


「すいませんでした!」


 俺は男性の足元で相手が引くほど全力で土下座をした。

 いくらなんでも失礼すぎる。夏美さんの知り合いで、しかも組織長である人を、年下の子と間違えてしまうなんて。

 そっと顔を上げてみる。

 困ったように笑っている男性の顔はやはりどうしても年上には見えなかった。


「いいですよ。慣れてますから…」


 そう言った魔術師は暗い顔になる。かなり落ち込んでいる。

 きっと結構気にしているんだろう。

 女性が慌てて駆け寄る。そして魔術師を抱きしめた。


「大丈夫です、ウィン様。ウィン様は今のままが素敵なんです!」


 フォローなのか何なのか分からないことを言って魔術師を励ます。そして俺を睨みつけた。


「…許さない」


 呟いた女性の金色の髪が揺らめく。

 そしてぶつぶつと何かを言って、それと共にどんどんと感じていた力が増大していく。

 そうだとは思っていたが、こっちの人も魔術師なのか。

 て言うかこの感じはヤバイ。このままだとこの事務所もただでは済まない。

 すると下から両手を伸ばし女性の顔を挟み顔を自分の方に向ける男性。


「だめ」


 微笑みながら一言そう言う。そんなんで済む訳な---。


「は、はい! 申し訳ございません、ご主人様…」


 済んでしまった…。

 顔を触られている女性は顔を真っ赤にしている。

 それに『ご主人様』って。ますますもって関係性が分からない。



2/22 pm0:45 ミスがあり書き直しました。寝ぼけてたんでしょうか…。

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