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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第二楽章『fatum【運命】』‐1‐


「…うん。…それじゃあ」


 私は言い終わると携帯の通話を切った。

 これで一応彼女の心配は消えるかもしれない。

 彼女は才はあるが、結局は力を持たない一般人。そんな彼女にいきなり力をつけろと言う方が無理に決まっている。

 そこで私は心当たりのある人に電話をしてみた。そしたら相談に乗ってくれるとの事だ。


「あとは待つだけ、か」


 自分の机に腰掛けると、近くの机には成瀬がいた。その成瀬は机に座りパソコンの画面を見ていた。

 イヤホンを片方して何かを見ているようだ。


「成瀬君? 何見てるの?」


「え? あ、ああ。今動画サイトの方で少し前のサッカーの試合のダイジェスト見てたんですよ」


「サッカー? 成瀬君好きなの?」


 私の問いかけに成瀬は、結構好きですね、と言って視線をまた画面に戻した。

 相当好きなのだろう。画面に向ける視線が普段の成瀬と違うと感じ取れた。

 初めて成瀬の歳相応の行動を見た気がした。何かに夢中になっているなんていいことだと思う。

 そういえばもうすぐサッカーの大きな大会があると聞いた気がした。少し前に自分の国でやっていたことを思い出す。

 ずっと好きだった人やそれ程好きじゃない人も一緒になって熱中して応援する様は、私には何か病的なものを感じてしまった。

 今にして思えば集団催眠と言うやつかもしれない。『みんながやってるから』という共通意識になって、俺も、私もと増えていったのだろう。

 と、意味の無いことを考えていた。


「そういえばあの子。遅いわね」


 外に視線を向けると、雲ひとつ無い空が広がっていた。



 ◆ ? ◆ ? ◆



 ベンチに座る二人の男女がいた。

 男の方は黒く長すぎず短くない髪をして、丸いメガネをかけていた。ジーンズを穿き、ハイネックの黒いシャツの上に茶色の上着を着た服装。

 一方女性の方は金色の少しウェーブがかったロングヘアーで、蒼い眼の色。白いワンピースの上にカーディガンを羽織っていた。


「どうしたんですか? ごしゅ、ゴホン。ウィン…様」


 男性は携帯を閉じながら隣に座る女性の問いかけに答えた。


「ちょっと知り合いの人からね。はは。まだ『様』は取れないみたいですね」


「それはそうですよ~。って、それより電話はなんだったんですか?」


「それが『今から来てくれる?』との事です」


 そう言うと女性は頬を膨らませた。


「綺麗な顔なんですから、そんな顔をしないでください」


「綺麗な顔って……。は! そ、そんな事で騙されないですよ! 私たちは観光で来ているんですから、そんな事しなくていいじゃないですか!」


 女性は言い終わるとそっぽを向いた。

 男性は女性に近づいて、そっと頭に手を置き、優しく撫でた。背は女性の方が高いのでちょっと辛そうだが。


「ごめんなさい、アンナ。何か困っているようでしたので。用事が済んだらすぐにまた戻ってきましょう」


「……はい」


 女性の方は頬を染めながら、恥ずかしそうに男性の言葉に頷く。

 立ち上がると、男性は傍に置いてあった杖を持つ。


「じゃあ行きましょうか」


 女性は、はい!、と返事をして男性の腕を掴み、二人は歩いていった。



 ◆  ◆  ◆



 私は着替えを済ませ、家を出て夏美さんたちの事務所に向かった。

 それは昨日の夜だった。


『明日、事務所に来てくれる?』


 私は了承した。自分にとって大事な事だ。断るわけが無い。

 でも不安もあった。

 力を持つ、と言うのはどういう事なのか分からなかった。もしかしたら何か辛い事をしなければいけないのか、なんて思うと、あまり向かいたくない気もした。

 そんな不安定な足どりで事務所に向かっていた。

 ふと自分のポケットの中に手を入れる。

 取り出したのは、昨日夏美さんから受け取った石の入った袋。

 お守りだそうだが、私には本当に効き目があるのかどうか分からない。ただ持っていると、不安が薄れる気がした。

 ちょっとしたおまじないみたいなものだろうか。小さい頃、お母さんや先生に『痛いの痛いの飛んでけ~』とかやってくれたな。それみたいなものかも。

 その時だった。

 そんな事を考えて歩いていたせいか、曲がり角で何かとぶつかった。


「イタ!」

「うわ!」


 大きな声を出して、私とぶつかった相手は転んでしまった。

 私は盛大に尻餅をついた。結構痛い。

 ぶつかった方を見ると、男の子が仰向けに倒れていた。


「あ、大丈---」


「ご主人様! 大丈夫ですか!?」


 私が声をかけるより先に、男の子の後ろから来た女性が駆け寄ってきた。

 その駆け寄って来た背の高い金髪の女性は、どこか気品さえ感じる姿だった。


「あの、すいま---」


「どこか痛い所はありますか!? 立てますか!?」


 もう、声をかける余裕すらない。

 女性は男の子の肩を掴み、揺らしていた。表情も必死だ。揺らされていて男の子は声が出せない。

 と言うかこの二人、どういう関係だろう。

 片や眼鏡をかけた男の子、片や綺麗な大人の女性。兄弟にしては顔が似ていない。親子だったら尚更顔が似てるだろうし、歳が難しそうだ。

 しかもさっきから女性が男の子の事を『ご主人様』と言っているし、余計分からない。


「ご…、ご主人様が…、死んじゃう!」


「えぇぇ!」


 女性はよっぽど狼狽しているのか、涙目でとんでもない事まで言い出した。

 ぶつかっただけで人が死んでしまうなんて…。余程の事がないとありえないだろう。


「ア、アンナ。ちょっと。僕は大丈夫だよ」


 やっとの思いで男の子は声を出した。

 その言葉に安心したのか、アンナと呼ばれた女性は更に目に涙を溜めた。


「ご主人様ぁぁ~!」


 叫んだ女性は男の子に抱きついた。少年は女性の胸に埋もれてしまう。

 一通り見ていた私は目の前にいるのに見えていないようだった。女性の方だけかもしれないが…。

 私は立ち上がり、恐る恐る二人に近寄った。


「あの~…」


 私の声に気がついたのであろう男の子は、女性から離れて立ち上がり、微笑みながらお辞儀をしてきた。


「あ、すいません。行きたい所の場所が分からなくてよそ見してしまっていて。怪我してませんか?」


「い、いえ。私の方こそごめんなさい。考え事して歩いてたから」


 見た目通りの礼儀の正しい優等生タイプの男の子。

 男の子の屈託の無い微笑みに、私は少し見とれてしまった。

 すると、私と男の子の間に女性が入ってきた。顔を見てみると頬を膨らませていた。


「…ダメ」


「え?」


「ご主人様は私の…、わた、し、の…」


 そこまで言うと顔を真っ赤にしてしまう。そして両頬を押さえ、男の子の後ろに隠れてしゃがんでしまう。

 それを男の子は何も言わず、女性の頭を撫でてあげていた。



 ◆  ◆  ◆



 俺は動画を見終わると、イヤホンを取り背もたれに体を預けた。

 最近のサッカーの日本代表はどうもうまくいかないようだ。

 だというのにその代表の監督は大層な目標を掲げている。格下相手の試合を今見ていたのだが、とても出来そうには思えなかった。

 大きな目標は良い事だが、それにともなった『結果』というものが見たい。それが今の個人的な意見だ。

 そんなどうでもいい事を考えていると、まだ凛が来ていないことに気付く。


「遅いっすね、あの子」


「そうね。もうそろそろ来てもいいかも」


 何か書類をまとめながら夏美さんがこたえる。

 スーツが似合うだけあって、夏美さんの仕事をしている姿はやはり似合っている。


「そういえば」


「何? 成瀬君」


「夏美さんの言っていた心当たりってどんな人なんですか?」


 俺が聞くと、そうねぇ、と言って夏美さんは手を止めて腕を組みながら机に手をついた。


「昔の知り合いなの。まだ日本に来てなかった頃のね」


「あれ、夏美さんって外国にいたんですか?」


 俺が聞くと、夏美さんはキョトンとして、言ってなかったっけ?、なんて言ってきた。

 初耳だった。まあ俺自身そんな事に興味が無かったので聞かなかっただけなのだが。

 『水華月』なんて苗字で外国で暮らしていたなんて思わない。なんて言い訳っぽい偏見をしてしまっていた。


「それでその人は…」


「まあ言わなくても分かると思うけど、同業者よ。腕の立つね。それに…」


「それに?」


「ある魔術結社の組織長の一人である魔術師なの」



東アジアカップを見てフラストレーションたまりまくり…。


それでも日本代表を応援します!

ていうかこれ小説関係ないな…。すいません。

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