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HOLY QNIGHT  作者: AKIRA
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第一楽章『春嵐【シュンラン】』‐7‐

 事務所に着くと少女を私の部屋に寝せて、少女について調べた。

 バックの中から生徒手帳を見つけ、名前と生年月日が分かる。


「これだけ分かれば、何とかなるかな」


 パソコンを広げ、知り合いの情報屋に少女の情報を送る。

 プライバシーの侵害かもしれないし、あまり気が進まないのだが、今回のこの少女の件はイレギュラーすぎる。

 触れた者に霊気が流れこむほどの量を持っている一般人。名前はわかったが、私の情報量では分からなかった。

 しばらくするとパソコンのメール受信音が鳴った。

 差出人はやはり情報屋。いつもながら仕事が速い。三〇分程しか経っていなかった。

 メールを開いてみる。そこには少女の情報が。


『・桜井 凛 (16) ♀

 ・出身地 京都(生後まもなく今の土地に引っ越す(理由は親の転勤))

 ・テストでは霊気反応なし

 ・家族構成 ・父(41歳) ・母(34歳) ・妹(14歳)

 ・母方に退魔士の家系存在あり。(曽祖父の代で消滅)』


 一般人の中であれだけの量の霊気を持っていて『霊気反応なし』ってのはありえない。きったテストをちゃんと受けていなかったのだろう。

 この国の判別方法の学校で行われる『集団式検査』、いわゆる知能検査と言われるものに施されている細工では限界みたいだ。早急に何とかして欲しい。

 そしてその後の家系で引っ掛かりがあった。だが曽祖父の代で退魔士の家系は途切れてしまったようだ。

 だとしたら『隔世遺伝』と言うものだろうか。素質を隔世遺伝で何も知らない少女が受け継いでしまい今に至ってしまった、と考えてもいいだろう。


「神様は悪戯好きね…」


 可哀そうに。望まないものを受け継いでしまうなんて。

 その素質のせいでこんな量の多い霊気だ。たまったものじゃない。

 そして鎌鼬がその霊気に反応して、少女を襲った。

 守るすべを知らない少女は、何も知らずにただ自分の霊気を垂れ流し逃げるだけ。


「さて…、どうしたものか」


 私はこれからどうするべきか考えた。

 いつもいつも私たちが守ると言うのは効率が悪すぎる。少なからず自分の身を自分で守れるくらいにはなって欲しい。

 するとある物が私の目に止まった。それを手に取る。


「う~ん、まあ一応今のところはこれでなんとかなるかな?」


 コーヒーを口に含み、私は一つ背伸びをして立ち上がり、自室へと向かう。



 ◆  ◆  ◆



 なぜ私の名前を知っていたのか、そう聞くと目の前の女性は私の生徒手帳を見せながら、勝手にごめんね、と言う。

 まあ気を失った私の身元を調べるぐらい、やるかもしれない。

 でもなぜ連れてきたのだろう。どうせなら病院にでも連れて行けばよかったのに。

 いろいろ聞きたいが、まずは女性の話を聞くことにした。


「あ、あの…、話って…」


「うん。失礼なんだけど、あなた自身に変わったところは無い?」


「え? あの、それは…、どういうこと…、ですか?」


 私はドキッとした。思い当たる節はあった。

 最近感じていたことに対してこの女性は言っているのだろうか。


「そうね。例えば…、普通なら見えないものが見れる、とか?」


「!」


 私の思っていたことが分かっていたのか、女性はピシャリと当ててきた。


 ※  ※  ※


 私は小さい頃から、みんなが見えないようなものが見えていた。

 それは世間で言うところの『幽霊』と言うものだろうか。気付いた時には私にはそういうものが見えていた。

 最初はそういうものと知らなかったから、不思議に思わなかった。


『どうして泣いてるの?』


 小さい頃、同じくらいの女の子が泣いているのを見て声をかけたことがあった。

 着ている服はボロボロで、顔を手で覆い泣いていた女の子。私は泣き止めるように優しく声をかけていた。

 そこに母親がやって来て、私に話しかけてきた。


『何してはるの? 凛ちゃん』


『うんとね、この子が泣いてるの』


 私がそう言うと母親は不思議そうな顔をする。

 すると私に笑いかけて、


『凛ちゃんの幼稚園、変な遊びが流行ってはるんやな。どこにもそんな子はおらんえ』


 そう言われて私は女の子を見る。

 確かにそこに女の子はいた。

 でもその子の覆う手が下ろされると、おびただしい傷と血に覆われていた。

 それを見て悲鳴を上げて逃げ出したのを覚えている。


 ※  ※  ※


「? 凛ちゃん?」


「え、あ、はい。だ、大丈夫です」


 昔のことを思い出していた私は声をかけられて慌ててしまった。

 テーブルのコーヒーカップを取り、一口飲んで落ち着く。


「…身に、覚えがあるのね?」


「……はい」


 女性に問われ、私は頷くしかなかった。


「仰るとおりです…。昔っから私、幽霊とかそういうのが見えるんです。それに…」


「それに?」


「私、ケガをしてもすぐに直るんで、周りからは気味悪がれて…」


 良くわからないが何故か私はケガの直りが早い。

 一度腕を骨折をし、親に病院に連れてってもらいギブスをしてもらった事があった。

 腕を首から提げてるのは辛いし、お風呂は入りづらいしで本当に嫌だった。

 私は、早く直れ早く直れ、といつも思っていた。すると普通なら直るのに二ヶ月以上かかるところを二週間ぐらいで直してしまった。

 親や医者は不思議がっていたし、学校では私のことを気味悪がって避けるようになるしで悲しかった。


「でも…、親にこんな事相談できないし…、自分自身なんでか分からないし…」


「そうだったの…」


「すいません…。こんな事話して…」


「ううん。ありがとう、話してくれて」


 私はまた落ち着くためにコーヒーを飲む。

 普段は絶対に飲まないのだが、何故かおいしく感じた。

 うまく表せないが、なんとなく落ち着くのだ。まるでハーブティーでも飲んでるかのように。

 すると目の前の女性は一呼吸して口を開いた。


「凛ちゃん? 聞いてくれる?」


「? はい」


 神妙な顔つきになった女性。私はカップを置く。


「あなたはきっと、これからも今日みたいな目に会うかもしれないの」


「え? どうしてですか?」


 聞き返すと女性は、成瀬君電気消してくれる?、と言った。

 あの子は成瀬君って言うのか。そう思っていると言われた男の子が電気を消した。

 事務所内が暗くなる。何をするのか分からない私は不安になった。


「じゃあいくね?」


 女性がそう言う。私は女性の声のする方を見ていた。

 するとそっちの方向がボウっと明るくなった。

 女性の人差し指がロウソクのように赤く光る。

 私は驚いた。今までの人生で見たことが無かった。


「その反応を見ると見えてるのね。霊気まで見れちゃうなんて…。思ったよりすごいわね」


 指の光が消えると電気が点き、目の前の女性はあごに手をついていた。


「あ、あの…」


 私はなんか雰囲気がヤバイ気がした。


「あのね? よく聞いてほしいんだけどいい? 凛ちゃんにとって大事なことなの」


「は、はい…」


「この先今日より大変な目に会うかもしれない。そんな時、私や成瀬君、私たち以外の退魔士と言われる人たちがいるとは限らないわ」


「たい、まし?」


 聞きなれない単語、『たいまし』という単語に、私は首をかしげた。

 それを察してか、女性は咳を一つして言った。


「退魔士と言うのは私たちのような魔を払う者の事よ」


 そう言う女性。

 私はピンとこなかったが、雰囲気で自分がとんでもない状況なんだという事だけわかった。


 止んだと思った外の風は、また強く吹き始めた。




 第一楽章『春嵐【シュンラン】』‐了‐



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