06 エピローグ
こうして彼女たちと解散して、今日が終わる。
と、思ったか?
残念ながら、まだ終わらない。……これが最後の話である。あれからフードコートで、みんなで夕食をとり解散した。のだが、僕は何故かシュナに呼び出されてしまったのだ。
月は夜空を、星々を支配する。
街灯の灯りで地面がぽつんと照らされる、ショッピングモールからさほど離れていない並木道を僕たちは歩いていた。
「何の用だ?」
単刀直入に、前を歩いていた彼女に僕はそう聞く。
こういうのは回りくどいほうが、くどいからな。
シンプルイズベストだ。
「……まずは貴方に感謝を伝えるわ。今日はありがとう。アキの悩みを解消してくれて」
「別に、僕だけの力で解決したわけじゃないからな……」
「私は今日、貴方の助手をするつもりで頑張って働いていたわ」
「ん? ああ、それに関してはとても助かったよ。当事者だから当然かもしれないがな。協力的で、感謝しかないね」
「でも、私は何も出来なかったでしょう? 貴方と、アキが全て解決しちゃった」
「解決て……。あれは山林の妹、あの子の発言がナイスタイミングすぎて一瞬で解決できただけ。僕は何もしてないよ」
「でも、貴方がいなかったらこの真相が解明されることはなかったわ」
それは、そうかもしれない。
だが。
「逆に言ってしまえば、それぐらいしか出来てないんだけどな。……まずさ、僕は出来損ないの探偵だし。そんなことぐらいしか出来なかったのさ」
「貴方がいなければ、彼女と彼の間には──確執ができたまま、壁ができたまま……。アキの誕生日を迎えて、破局していたかもしれないわ」
「机上の空論だな。僕みたいな状況を整える仕事は、他の誰にも出来るだろ」
「そうかもしれないわ……けど」
けど。そこで彼女は言葉に詰まってしまったのか、続きが出てこなかった。いいや、出てきたのだけれど……先程のような流暢さはなく、つまりつまりだったのだ。
「けど、そんなこと言うなら──ほら、ねえ……私のほうこそ……要らなかったでしょう?」
そう。先程までの彼女らしからぬ、発言をするのだった。
全然そんなことないと思うんだが。
「私のこと、もしかして貴方は前から知っていた?」
「うん? いや、知っていたよ。そりゃあ。学年一の才女。模試の成績なら学校だけならず、全国でもトップクラスの実力を誇る『氷結の天才お嬢様』。そんな中二病チックな通り名をもつ生徒のことを、僕が知らないわけないだろう」
「そう……なら、失望したわよね」
彼女は日向第二高等学校で、とても有名な人物だ。
知名度でいうなら、山林凛といい勝負をするぐらいに。……だから僕はもちろん、今日の出来事よりも前から彼女の存在については知っていたのだ。
天才だって、敬遠していた。
実際に話すのは、今回が──初めてだけれど。
「失望なんて、しないさ。むしろちょっと安堵したぐらいだ。こんな天才お嬢様にも、一介の女子高校生なんだってな。弱音を吐くところもあるんだなって」
「……む。今の発言にはカチンと来たかもしれないわ」
「そっちのほうが可愛いし、ずっと人間らしいからいいんじゃないか?」
「そうかしらね……でも、私は今回のこと。後悔ばかりよ。もっと私も、出来たことがあるのかもしれないのにって」
どうやら僕は、彼女という存在を勘違いしていたようだ。
鴉坂シュナ──鴉坂朱奈は、阿久津なんかよりもずっとネガティブ思考なのだ。そして僕なんかよりもずっと。比にならないぐらい。
「ハッピーエンドにケチつけるのは、お門違いだぜ鴉坂」
「そうかもね。でも私はこんな性格だから、諦めてちょうだい」
「ああ、歯切れよく諦めるとも」
「そう……」
だからこそ、僕は提案する。
彼女がケチつけることに関して説得するのは、諦めよう。
そして。
「そうえいば、僕がお前に対して……好きなことを一つ命令出来たんだよな」
「そうね。そんなものがあったわ。もうなんでもいいわ。何でも言いなさい」
「本当に何でもいいんだな?」
「いいわ」
最後の確認をし、言うのだった。
「鴉坂朱奈。そんなに歯切れの悪い、解決するまで諦めきれない事件を探したいお前に命令しよう──」
そう。
「探偵部に入れ」
そんな、単純なものだった。
その命令が予想外だったのか、困惑したようすで聞き返す朱奈。どうして? と。
「探偵部に?」
「今回の出来事みたいなことが起こっても、勉強以外無力な自分が嫌なんだろ? 何もできない自分が」
「う、うん。確かにそうだけれど……」
「なら僕の部活に入れ。そしてもっと歯切れのない事件に、一緒に取り組んで、無力さを味わおう」
「はあ?」
「そして成長するんだよ。出来るヤツにな」
そう。
「出来るヤツになるためには、自分のプライドってのは確実に持ってなくちゃいけないと僕は思っている。出来損ないでも構わないが、プライドを溺損なうのはダメなんだよ」
「…………」
「お前はお前のままで、いつものように、マイペースに、挑戦し続ければいい。探偵部に入ってさ」
陰キャの僕なりに、かっこよく言ってみたけれど──勧誘してみたけれど、どうだろうか……? 命令とはいえ、何の契約書も結んでないコレは、強制力なんて何一つない。
だからどうするかは、彼女の自由だった。
そんな命令に。
彼女は微笑する。
「やっぱり貴方と話していると、自分のままでいられるわ」
「そうか?」
「そうよ──本当に憎いぐらいに口下手で、出来損ないの貴方」
「余計なお世話だな!?」
「ふふ、褒めてあげる。貴方はちょっとだけ、この瞬間だけ、貴方は魅力的に見えたわよ」
それ、喜んでいいんだろうか……。
噓とか、トラップとかない?
「で、どうする。探偵部、入るか」
「言うまでもないし、反論出来ないもの。───もちろん、入らせてもらうわよ」
「……はっ、なんだそりゃ」
彼女の足が止まった。
気が付けば僕たちは街を歩き続けて、いつの間にか人気の少ない公園へと到着していた。
確か名前は……星覧公園だったか。
街灯が限りなく少なくされたここは、
『この街で最も星空が美しく見える』
場所だったはずである。
「まあ、そんなわけなら……これからよろしく頼むよ、プライドを溺損なった助手」
「よろしく頼むわ。出来損ないの探偵さん」
夜空には綺麗な星々が咲いている。
こんな最高の夜空の下で。
僕『氷室政明』と『鴉坂朱奈』は、探偵タッグを組む誓いをたてるのだった。
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