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05 結

 まずい。

 それはまずい。

 僕はそう思いながら、慌てふためき、気が動転しながらも──彼女を追いかけていく。


 浮気調査で。

 浮気が確定した相手に突撃するとか、修羅場になる以外ありえない──!


 僕はそういう空気が嫌いなのだ。

 勘弁してほしい、とかそれ以前の問題である。やめてくれ。仕事が増えるし、更なる面倒ごとになるだろう?

 彼女の気持ちはとても分かるのだが。

 だがそれでも、この行動は無計画で突発的すぎる。


 圧倒的にやめておいたほうが良いに、僕は一票を投じうよう。


「凛!」

「……え?」


 今まで聞いたこともないようなこわばった声で、阿久津がそう叫んだ。そこで山林凛も彼女の存在に気付いたらしい。

 やはり、彼も動揺しているようだった。

 彼と数メートルの距離まで彼女は近づき、止まる。


 こんな瞬間的な運動で、彼女の息は上がっていた。

 僕も同様である。


「ど、どうしてアキがココに?」


『信じられない』。

 と目を見開くイケメンサッカー野郎。


 ふむ。


「凛。なんで……用事があるって、他の女とのデート、そんなことだったんだね?」


 彼女の声は震えている。

 当然と言えば当然だ。

 逆にこんな修羅場で、当事者で、怒ったり泣きそうにならないヤツなんていないだろう。


 僕はそんなことないと思うけどな──。


 なにせ、自分はそんなもの理解出来ないから。


 ……そんな自分語りはともかく、この現場を実況しよう。

 山林凛が連れていた女の子は、やはりイケメン君が持ってくるだけあって、とても可愛かった。

 金髪のショートに、金色の瞳、絶壁、すらっした長細い体型。

 モデルとかでも余裕で通用する可愛さである。


「ほ、他の女とデートだって?」

「とぼけないで!」

「いや、そんなのしてないって……」

「ここまでして、まだ誤魔化すの!? 日曜日だって凛は、別の女の子を連れていたじゃん!」


 嗚咽(おえつ)しながら、彼氏に詰める阿久津アキ。


 そしてその言葉に対して最初に反応したのは──山林凛……ではなくて、隣にいる彼が連れていた女の子の方だった。



「え!? ”お兄ちゃん”、浮気してるの!? 日曜日って、妹ちゃんと……出かけてたんじゃなの?」



 ───なんていう風にね。

 純粋に驚くようなリアクション。そう、本当の事実を……”凛の妹”は漏らすのだった。そして僕たちは同時に、彼女よりも大きく驚くことになる。

 全てがそう、勘違いであったということに気がついて。


「って、え?」

「も、もしかして……凛。勘違いさせちゃったか? 日曜日も、今日も。オレはさ、近づいてきたお前の誕生日プレゼントを買うために──二人の妹に協力してもらってたんだよね……あはは」

「……ええええええ!?!?」


 そう。

 そんな衝撃的な事実。


 それを聞いて、僕たちは驚くしか、なかったのである。



◇◇◇



 あれから数分後。

 フードコートのテーブル席に僕たちは座っていた。”事件が解決したぞ”、とシュナにメールを送って、彼女にも合流してもらって。

 五人で、フードコートを占領する。


「あはは、ごめんね……彼女さん。勘違いさせちゃって」

「いえ、いえいえいえいえ、私こそ勝手に勘違いして、他の人にまで協力してもらっちゃったりして、大事(おおごと)にしてすいませんでしたあ!!!」

「そ、そんなことないですよ! 悪いのは全体、勘違いさせたお兄ちゃんなんだから! ね、お兄ちゃん?」


 妹の言葉に、若干戸惑う凛兄さん。


「う、うん? そうだなっ!」


 阿久津アキが浮気だと勘違いしていた日曜日の出来事と、今日の出来事は実際には異なっていたのである。

 そのどちらも、彼が連れていたのは……二人の妹たちであり。

 そして妹たちを連れ出してショッキングモールに言った目的は『迫ってきた阿久津アキの誕生日プレゼントを買うため』だったのだ。

 女の子のほしいものがなんなのか分からないから、妹たちにアドバイスを貰っていたらしい。


 で、誕生日にプレゼントを渡して……阿久津を驚かせたかった。というわけ。


 最終的にプレゼントは彼女が好きな本でも沢山買ってやろうみたいな話になっていて、ちょうど本を選ぶために本屋の前を歩いていたのだそうだ。

 ……つまり、全部が全部阿久津への愛で構成されたお話だったのだ。


 別にかのサッカーイケメンは女癖が悪いわけではなく、純粋に、一途に彼女を優男だったのだ。


 これが今回の事件の真相である。

 いや、ちょっとした滑稽話というべきだろう。これが今回の、滑稽話のオチである。


 ハッピーエンドで良かった。

 僕は心の中でそう思っていた。


「そこのえーとっ」

「氷室政明です」

「氷室さんも、お兄ちゃんが招いた事に巻き込んじゃって、本当にごめんねっ!?」

「いやいや、これは当然のことをしたまでですよ。……部活動の一環なので」


 彼の妹はみんなに、とても申し訳なさそうに謝っている。なんて優しい子だろうか。……とても見ていて、微笑ましい気持ちになる。


 ──それに対して、どうだ。

 この僕の隣に座る少女の態度は? えーとっ、なんて名前だっけ? ああ、そうそう。鴉坂シュナ。

 なんでか彼女は不貞腐れたような態度を取っていたのである。


「なあどうしたんだよ、さっきから態度おかしいぜ?」

「……うるさいわ、黙りなさい」

「毒舌!?」


 詮索しようとしてもダメだった。


 まあこんな感じで、取り敢えず一件落着だ。

 こうして『イケメンサッカー少年浮気疑惑事件』は幕を閉じたのである。まあ言うほど大事にはなってないので、良かっただろう。

 それに結果的に、彼と彼女……バカップルの絆も深まったようだしな。


 まあそれは、僕には縁遠い話だけれど(三回目)。


 そんなわけで、解散して今日が終わるのである。

少しでも面白い、続きが読みたいと思っな方はぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです。

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