全力疾走
私は足には自信がある。
陸上部に所属しているというのも専門は短距離のスプリンター。
去年は100メートルでインターハイにも出たし、
姫草高のカモシカなんて呼ばれちゃったりしてるのも知っている。
だがちょっと調子に乗ってたかもしれない。
公園を何とか抜け出した香奈子は住宅街を走っていた。
右に曲がり、左に曲がり、塀沿いの住宅街をジグザグに駆け抜ける。
なるべく追いかけてくる上田君の視界から外れ、相手に角を曲がるたびに判断の時間を与える。
大抵の人間であればこれで振り切れる。
はずだった。
「上田君の嘘つきーーー」
私は思わず足りながら心の中で叫んでいた。
勿論声に出したらバレてしまう。
せっかく必死に逃げ切るためにジグザグに走っているのに
一定の距離を保ちながらついてきている。
そのせいで振り切れない。
そもそも上田君がこんなに早いなんて聞いてない。
こいつ、学校では猫被って皆を騙してやがった。
もしかしたら頭も良いんじゃないか?
そんなことが頭をよぎるも逃げるのを止めるわけにはいかない。
私はとんでもない人を好きになってしまったのではないか。
ただその間も彼は銃を持って私を追いかけてきている。
銃やらなんやら持ってなかったら間違いなく捕まってるかもしれない。
私は走りながらもなるべく人の居そうな場所を探していた。
だが今日に限って人影は見当たらない。
なんで今日に限って誰もいないのよぉ。
もともと私は短距離専門なのだ。
もしかして長距離の才能もあったのか?
死を間近に感じるといろんな才能が目覚めるのかもしれない。
いや単に極限状態の火事場の馬鹿力というやつか。
まぁなんにせよ今はそれに助けられているんだ。
文句は言えまい。
暫く走り続けていると、脳に酸素が廻らないせいか思考能力が落ちてくる。
もしかして好きになったのが原因?
「あ~ん。好きになってごめんなさい~~。」
大分混乱してる。
だが私が何を思おうと関係なく上田君は追ってくる。
そう、私を消去する為に。
そしてスプリンターの香奈子に限界がやってきた。