心奪われる
彼を好きになったのはそれから3ヵ月過ぎたある日。
その日もいつも通り由香とお昼を食べた後、部室に忘れ物していたことに気付いた。
「ちょっと取ってくるね。」
急いで部室に向かって中庭を駆け抜けるている時、ふと彼が芝生に寝転んで寝ているのを見つけた。
単なる興味本位だったのかもしれない。
それともただの気まぐれだったのか。
本来ならそのまま通り過ぎているはずの彼のもとにゆっくりと近づく。
眼鏡を傍らに外した状態で仰向けで寝ている。
高すぎず大きすぎずスッと通った鼻筋、長いまつげに整った輪郭。
眼鏡を取った彼は驚く程、綺麗な顔でスヤスヤと寝息を立てていた。
こいつ……、髪形と眼鏡で隠していやがった。
そういえば彼は3ヵ月わざと友達も作らず、ひっそりと暮らしてるような…
もしかしてわざと???
そんなことを考えながら一瞬時を忘れ彼に見入っていたが、
彼のお腹を見ると私は更に彼に心を奪われてしまった。
彼のお腹の上には子猫が丸くなって寝ていたのだった。
寝ているとはいえ凛とした顔と裏腹に子猫すら安心できる安らぎ。
私はこの瞬間をきっと一生忘れないだろう。
目を奪われたまま一瞬が10分にも1時間にも感じられた。
ずっと見ていられる。
まだ見ていたかったが部室に忘れ物を取りに向かっていた事を思いだし、
私は渋々部室に向かうのだった。
この事は親友の由香にも言ってない、
私だけの大切な秘密。