前田 善二の素顔 その2
階段を降りた先の突き当たりに無表情な警備員が一人扉の前に立っていた。
誰も見ていない中でも姿勢を崩さず立っている姿はとてもまじめに見える。
背の丈は私と同じ160くらいかな?
少しやつれた感じの、でも背筋のピンとしたおじさん。
私はいつものように眼鏡の右ボタンを押した。
【前田 善二】
この人が6人の容疑者のうちの一人か。
いたって真面目に見える。
逆に真面目過ぎるのが怪しい気もしないでもないけど・・・。
前田は伊藤に気付いても一切動かない。
かなり職務に忠実みたい。
でもこの人が警備してたのに盗まれたんだよね。
逆に言えばこの人が盗んだ可能性もある訳だ。
「お待たせしました、前島さん。交代の時間っす。」
「わかりました。」
伊藤の言葉に前田は無愛想に一言だけ言葉を発した。
えっ?前島?
何を言ってるの?この人は前田さんのはずじゃ・・・。
私は念のため、もう一度ボタンを押した。
【前田 善二】
間違いない。
「前島さんもたまには気を抜いて下さいよ。」
こっちも間違いない。
前島と呼ばれた前田は伊藤の言葉を無視して、階段を登って行った。
私も前田を追い掛けて階段を登ることにした。
前田を追い掛けながら一つの考えが頭に浮かぶ。
偽名・・・か
でも偽名って・・・
表示されてるデータには、前科も借金も記載されてない。
しかも今働いてるって事は警察にもばれていないって事?
前田の偽装がよほど巧妙なのか、それとも警察がガバガバなのか。
まぁ私にはバレバレだけどね。
正確には私が使ってる未来の道具には・・・ですけど。
使ってるって言うか使われてる?
何故か自虐プレイでへこんだ私にはお構いなしに、前田は警備員室に入っていく。
私はギリギリ同時に部屋に滑り込む事に成功した。
前田は椅子に座り、持ってきたていたお茶を飲みながら目の前の一点を見つめている。
何か考えているのだろうか。
今日はこれ以上収穫もないし帰ろうかとした矢先、前田が動いた。