決死の逃走
上田君の足下には店員が2人倒れている。
全身の肌がゾワッと逆立つのを感じる。
昨日起こったことのはずなのに私は油断していたのだ。
少なからず由香と一緒にいる時は安全だと思っていた。
ゆっくりと上田君は私に向かって銃を構えた。
バシュッ
くぐもった音が聞こえた直後、私の左足ギリギリの場所がはじけた。
その瞬間私は身体を翻し、調理場にたたずむ上田君の銃口から射線を外すように
フロアを入口の扉に向かって走っていた。
本当に撃って来た。
改めて実感する。
私は殺されるかもしれない。
走りながらチラッと後ろを振り返る。
上田君は調理場からフロアにまだ出てきていない。
私は一度立ち止まり扉を開き、入口から表通りへと出ると同時に再び走り始めた。
後ろでドアが勢いよく蹴破り上田君が店を出てきたとき、私は数十メートル先の曲がり角を曲がるところであった。
私は昨日の経験を活かし、なるべく狙い定めづらいように道路をジグザグに走る。
更にランダムに曲がり角を曲がり、先を予測されないようにしていた。
先回りされたら確実に殺される。
由香は無事なのだろうか?
そんな事が頭をよぎった瞬間右足の傍に着弾する。
走るのをやめたら死ぬ・・・。
でもいつまでも走り続けることは物理的に不可能に近い。
着実に死へと足を踏み入れていく中、私には生き残る道への微かな希望があった。
『大体10分なんて短すぎる。』
昨日上田君が話してた内容。
・・・10分・・・
つまり10分逃げれば何とかなる・・・かもしれない。
でも違ってたら。
そこに待っているのは死という名の絶望だろう。
でも今はすがるしかない。
私はかすかな希望を信じ、夕方の街中を駆け抜けた。
ハァッハァッ……
どれくらい走っただろうか?
周りには見事な程誰も居ない。
助けを求められないこの状況を何故か受け入れてる私がいる。
「冷たい水が飲みたいな。」
何十回、角を曲がったか覚えていない。
もう足が悲鳴をあげてるのがわかる。
でも死にたくないから逃げる。
まだ私にはやりたいことがたくさんあるのだ。
いつまで走っただろう。
どこまで走っただろう。
見知らぬ景色の中を無我夢中で走り続けてると
いつの間にか上田君の足音は消えていることに気付いた。
助かっ・・・たの・・・?
私は腰から砕けるようにその場に座り込んだ。
今日も死なずに済んだ。