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転生



「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」


 私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く彼女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。


 ああ、やった。

 とうとうやり遂げた。


 これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。

 私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 自分が生まれ変わった事に気付いたのは、いつの頃だっただろうか。

 ああ、そうだ。6歳の頃、中庭の噴水に落ちて溺れて生死の境を彷徨ってからだ。高熱を出して朦朧とする意識の中で、ぼんやりと“ここはどこだ”と考えていて。


 ようやく熱が下がって意識がハッキリしてきた時には、前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた乙女ゲームの世界にいる(・・)のだと、気付いてしまった。

 しかもあろうことか、メイン攻略対象の第一王子だったのだ。

 アニメは神作品だったから欠かさず視聴してはいたものの、ゲームそのものは妹がやってるのを横で見ているだけで、さほど思い入れはなかったというのに。なんでその()が、よりによってメイン攻略対象なんだ。


 いやまあそれはいい。転生なんて不思議現象がなぜ起こってるのかもサッパリ分からんし、なんなら前世の自分が最期どうだったのかも全然思い出せんが、前世の記憶と並立してこの世界で物心ついてからの記憶もちゃんとある。自分が第一王子であることそのものにも違和感はない。

 ていうかもうすぐ、婚約者候補の公女との顔合わせが予定されているはずだ。大事な顔合わせまでに回復して良かったと王妃(ははうえ)が仰っていたのも分かっているし、自分でも楽しみにしていた。

 だって彼女は作中でも屈指の人気を誇る美少女で、凛々しく気高く心優しく、それでいて知性も教養も作法も完璧な、まさしく将来の王子妃に、そして王妃にふさわしい才媛になるのだ。そしてそんな彼女が、この顔合わせで出会う第一王子(わたし)に一目惚れしてくれる、そういうストーリーなのを私はもう思い出している。



 だが、そんな彼女は作中で、悪役令嬢として扱われ悲惨な運命を辿るのだ。

 その末路は、正規ルートを辿る限りは、どう足掻いても“死”しかない。



 比喩でも何でもない。5名いる攻略対象の誰をヒロインが選んでも、彼女に待ち受けているのは必ず死の結末なのだ。

 冤罪を着せられ、地下牢に囚われてからの公開処刑。

 罪を認めず逃亡し、捕縛されての拷問死。

 罪を認めて貴人牢へ軟禁されての毒杯下賜。

 断罪されたその場で反逆に及んでの討伐死。

 そして、情けなくも王子(わたし)に縋りついて死にたくないと無様を晒して幻滅された挙げ句、辺境に流罪になって護送される途中に暗殺される最期。


 特に最後の王子ルートが酷い。彼女は自分の愛する婚約者を最後まで信じていたのに、暗殺者を差し向けるのはその王子(わたし)なのだ。


 そしてヒロインは、自らの選んだ攻略対象者と幸せな結婚を果たしてハッピーエンド。

 そう、全ては物語のヒロインが幸せを掴むため。悪役令嬢(かのじょ)はそのための捨て石でしかない。



 だが一方で、このゲームに“裏面”があることも私はちゃんと覚えている。表、つまりヒロインが正規の攻略対象者たちをそれぞれ落としてハッピーエンドを迎えればボーナスステージ的な「ハーレムルート」が開放され、さらにそのハーレムルートをクリアできて初めて解放される「悪役令嬢ルート」がある。

 こちらは要するに“逆ざまあ”だ。今度は悪役令嬢が主人公となり、ヒロインや攻略対象者たちの不貞や罪の捏造の証拠を集めておいて、いざ断罪が始まった時に逆にヒロインたちをやり込めるのだ。

 そして、この“逆ざまあ”のルートに入って初めて、悪役令嬢の死なないエンドが見られるのだ。



 何もしなければゲームスタートの、王立学園の入学式を迎えてしまうだろう。そうして私はヒロインと出会い、婚約者からヒロインに心変わりして、婚約者を手ひどく断罪する“愚かな王子”になり果てる。

 何もしなければ、だ。


 だがそんな事が許容できるはずがない。アニメ化されたストーリーはその“逆ざまあ”パターンで、私はそれが一番好きだったし、登場キャラクターでもっとも好きなのも悪役令嬢の彼女だ。

 だから彼女を、死なせるわけにはいかない。死なせたりなどするものか。


 だったら、やることはひとつだ。

 悪役令嬢ルートの解放。

 “逆ざまあ”を成し遂げるのだ。



 そう心に固く決意して、私は婚約者候補との顔合わせに臨んだ。







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