9. キャンプ運用 <8> 怪しい監視人
そいつは、教室を離れ、中庭のイチョウの木の陰で、上司にスマホで連絡した。みたことを、ありのまま伝える。
――なに馬鹿なことをいってる! ひとが消えるわけないだろ。真面目に報告しろ!
――いや、ほんとなんです! ほんとに小僧が二人いて、一人が消えたんです。
少し、間が合いた。
上司も冗談ではないことを悟ったらしい。
――疲れているな。すこし休め。待機して、しばらく盗聴器に耳をすませろ。わかったな!
そいつは、ため息をつくと、スマホをしまい、待機場所のクルマに戻った。
学校は、国道から少し坂を下ったところに正門があり、もう少し行くと、国道と県道をつなぐバイパスに出る。
そいつは、そこのバス停に止めた軽四に乗り込み、盗聴器のイヤホンを耳につけた。平日の午後は、一時間に一本しか、バスは来ない。通勤の時間帯だけの運行にしようかという話も出始めている。パトカーも、まず通ることがなく、待機場所としては、都合がよかった。
別の場所で、スマホの盗聴を行っていたグループの一人が、眉をしかめた。
犯罪の匂いがした。姿が消えるのをみた、というのは、クスリをやっているのかもしれない。
彼は、報告書を作成しメールを送った。
こどもが関わっている可能性があるので、優先度を上位のAとした。
すぐに、誰かが派遣されるはずだった。
受信ゲートから出てきた旅行者をみて、地球キャンプのスタッフは、緊張した。
初めての植物系異星人だった。
頭にアスパラガスのような葉を茂らせ、皮膚に樹皮状の粗い筋をきざんだ丸太が、ゆらゆらと前後左右にゆれながら、こちらへ歩いてきた。根のようにみえるのが、動物での足にあたるようで、根の先がとても細かく分かれており、歩くたびに、ほうきで道路掃除をするときのような、サッサッという床をこする音がした。
スタッフは、あわてて床の摩擦度を調整した。摩擦度が低すぎると、このタイプの異星人は、進めなくなってしまう。
植物人は、身体から生えた枝にひっかけたひもを引っ張った。キャリーケースが植物人のもとまで走ってきて、植物人にぶつかって止まった。
植物人は、ケースを開けると、出身惑星の身分証明書を取り出して、スタッフにみせた。出身は、ヒューロー星――非常に繊細な植物文明が発達していることで有名な星だった。
植物系異星人のための、温室のようなキャンプ内の宿泊施設に案内すると、次のジャンプまで、一週間程度あるので、ここ地球の、植物の集まっているところをみたいという。
スタッフは、当然のごとく、洋に連絡をとった。
面倒な異星人は、洋にまかせればよいという、暗黙の了解ができつつあるようだった。