6. キャンプ運用 <5> 初めての客人
老人は、きょろきょろと辺りを見回すと、洋を見つけた。
「キャンパーよ、道案内を頼む」
老人は、近づいて、洋の肩をバンバン叩いた。
「痛い。やめてください」
洋は、顔をしかめて、老人の手を押さえた。ウルスス人の母星は、強重力の惑星だった。軽いひと振りが、地球人の洋には、空手家の一撃のような衝撃となる。キャンプ基地として改造されていなければ、肩の骨がぐしゃっとつぶれていたかもしれない。
「わっはっは。おおげさじゃの!」
ウルスス人――マルクは豪快に笑う。
ロビーで部屋を教えてもらい、ホテルの部屋に案内した。
マルクは、終始上機嫌で、ロビーで興奮し、エレベーターで興奮し、部屋のドアのカードキーで興奮し、その度に大声をあげる。
マルクは、いまも笑いながら、部屋の装飾や色などの感想を、さかんにしゃべっている。
そろそろ引き上げてもいいかな、と洋はキャンプ内のスタッフに確認する。
引き上げてもよいとのことだったので、洋は、興奮し続けるマルクに別れを告げた。
が、マルクは、急にうなだれた。
「まだ、いいではないか。この星の恒星はまだ沈んでいないぞ。滞在客は、わしひとりであろう。……もう少しつきあってくれてもよいではないか」
基地スタッフは、あわてて相談し合った。
すぐさま、こういった時の対応ケースを調べる。
例は少ないが、同様のケースが他のキャンプの日誌からみつかった。
星間友好憲章に従って、星間交流連盟は、宇宙を旅する万民に奉仕することが定められている。通行客の要望には、星間交流諸法に反しない限り、極力応えなければならない。
洋はスタッフからの連絡を受けると、上をみあげ、ため息をついた。
「わかった。……滞在中の通行客をもてなすのも、我々の役目のひとつ――。わが家の門限に間にあう時刻までは、つきあうことにしましょう」
ちょっと、恩着せがましいかな、と思ったが、マルクは、地球人が万歳をするときのように両手をあげ、跳びあがってよろこんだ。