5. キャンプ運用 <4> 初めての客人
面倒なことになったのは、この時だった。ウルスス人が、地球のホテルに泊まってみたいといい出したのだ。
次のジャンプまで、数日ある、せっかく辺境のめずらしい場所に来たのだから、原住民の宿泊施設に泊まってみたいという。追加の費用を払ってもよいという。
キャンプのスタッフは、あわてて洋に相談してきた。洋の記憶ファイルには、地球のホテルの知識が、わずかしかなかった。まだ、中学生で、旅行も家族旅行しかしたことがなく、宿泊、移動の予約/支払などは、全部親がやってくれていたのだ。
洋は、父親に旅行のときのホテル予約ついて尋ねた。インターネットで予約ができると聞き、予約サイトを開き、確認した。
予約はできるし、費用はウルスス人が負担するとして、あの容姿では、異星人であることがすぐにバレてしまう。
キャンプ地の周囲を観光したいというのは、転送されてきた旅客の、よくある要望で、異星人であることを隠す光学迷彩スーツが用意されていた。が、用意されていたスーツが、このウルスス人のサイズに合わない。
スタッフたちは、あわてて、スーツを仕立て直した。直しの費用は、もちろん、ウルスス人持ちである。ウルスス人は、服のサイズが合わないことには、慣れているらしく、特に文句をいうこともなかった。用意のできたスーツを着て、興奮した様子で、出発しようとする。
スタッフは、今にもキャンプの空間領域から抜けて外に出ようと、ゲートに入ろうとするウルスス人を止めた。いくら光学迷彩スーツを来ているとはいえ、なるだけ、姿を地球人にさらしてしまう時間は少ない方がよい。洋に地球(日本)のホテルの予約ができたことを確認すると、洋自身の身体を、そのホテル近くまで移動するように頼んだ。
洋は授業中だった。担任教師に、気分が悪くなったといって早退し、ウルスス人――マルクという名前だった――の宿泊するホテルの前まで電車とバスを乗り継いでたどり着いた。
ホテル到着の知らせを聞いて、マルクは、スタッフには理解できない、唸り声のような奇声をあげた。駆けるようにしてゲートに飛び込んだ。
洋は、頭痛を感じると、あわてて街路樹の陰に隠れた。洋の姿が一瞬ゆがみ、波打ったかと思うと、その波からひとつの塊が離れ、そこにマルクがスーツをまとった姿――太った中年の、背広を来た学者風の老人――があらわれた。