36. キャンプ運用 <35> 星間交流連盟の戦い
ムーア議員は、いまの状況を楽しんでいるようだった。
ムーア議員は、地球人の雑誌記者の恰好をしている。背後には、取材用機器をワンセット、左肩のうえに載せた、同じように地球人のカメラマンに似せたキャンプ・スタッフのひとりが、機器のボタンを押し、カメラを出して構えている。
洋は、自宅のベッドに横たわり、眼をつむってムーア議員がみているものと、同じものをみていた。ムーア議員が後頭部に埋め込んでいる思念同期式通信機を通して、ムーア議員の視覚と同期し、鮮明な画像でみることができる。
本当は、自分で動きたくてたまらなかったが、命を狙われているのが、自分である以上、暗殺者に近づくわけにはいかなかった。
飛ばしていた足長バチ型の探索機が、タムラの情報を得て、戻ってきた。
いまは、タムラの自宅――この街の南端にある住宅地の一画にある、古い築十六年を過ぎたアパートの一室――の前まで来ていた。
深呼吸をひとつすると、ドアの横のブザーを押した。
何遍押しても出てこない。
留守なんだろうか?
しかたない。……待っていよう。
ムーアは、ふところの携帯型重力制御装置に手を触れた。ふわっと、身体が浮いた。そのまま、ゆっくりと浮き上がり、アパートの屋根の上まで来ると、ふわっと屋根に着地した。
瓦屋根は頑丈で、少し力を入れて踏んでもずれたり、割れたりする様子はなかった。ムーアは、屋根の上に横になり、澄んだ空気のなか、晴れ渡った雲ひとつない大空を眺め、タムラが帰ってくるのを待った。
その時点で、何もせず待つのに耐えられなくなった洋は、部屋を出て階下に降りると、居間でぼんやりとテレビをみて、時間をつぶした。
「――あっ!」
家のインターホンが鳴ったのだ。インターホン用の液晶に映像が映った。
タムラだった。
ムーアとタムラは、行き違いになったのだ。