33. キャンプ運用 <32> 星間交流連盟の怒り
国際調査事務所の渡瀬から、洋に連絡があったのは、トンネル手抜き工事の裁判が始まる二週間前だった。
タムラが、何かしようとしている……渡瀬は、そう洋に告げた。
渡瀬は、タムラから、洋をふたたび見張るようにいわれたこと(トンネル手抜き工事が明るみに出た時に見張りはやめていた)、洋の一週間の行動のあらましを、詳しく調べて予定表の形にし、渡すように命令されたことを明かした。
また、事務所の奥の鍵のかかるロッカーに、何かの入ったケースを保管していることも、話した。
洋は、キャンプ・スタッフと相談した。
ムーア議員も、その場にいて、そのケースの中身を、一刻も早く確認すべきだと主張した。
洋は、渡瀬に連絡をとり、タムラに気づかれないよう注意してそのケースに触れてみるよう指示した。
最近は、なぜか事務所内に居続けているタムラが、席をはずしている隙に、渡瀬は、素早くケースの保管されたロッカーの扉の隙間に触れた。
扉に触れた渡瀬の指から、隙間を通って侵入した極小ナノマシンが、内部のケースに取りつき、ジュラルミンを構成する分子の間を抜け、アンプルを構成する強化ガラスも抜けて、容器内部の液体に到達した。
ナノマシンたちは、ただちに分析を開始し、その液体が、無味無臭の、使用痕跡を残さない毒物であることを突きとめた。
服用した個人の体質にもよるが、この毒物は遅効性で、服用後12時間前後に、服用者の命を奪うものだとわかった。
分析結果を受け取ったキャンプ・スタッフは、ナノマシンに命じて毒物を無害なものに変質させた。この毒物は、蒸発してその分子が空中を漂った、微量のものを吸い込んでも、吸い込んだ生物を死に至らしめる恐ろしい劇薬だった。
洋は、タムラが利益のために人を殺害できるほどの悪人だとは、微塵も思っていなかった。
それだけに、ケースのなかの物質が劇薬だったと知らされて、ひどく落ち込んだ。
トンネルの手抜き工事もそうだが、大の大人が、人間の命を簡単に奪ってしまえる精神が、どうしても理解できなかった。
ムーア議員は、事態を深刻にみて、星間交流連盟に、転移ネットワークの管理者が著しい危険にさらされた事件として詳細を報告した。
通常は、連盟と正式な接触を開始していない惑星の住人の肉体には、洋のときのような特殊な事情がないかぎり、干渉することはない。
だが、今回のことは、その範疇にはいるものではなかった。逆に、積極的な干渉が推奨される事案だった。
ほどなくして、タムラの身体に対する星間交流連盟の転移ネットワーク防衛法の枠内での干渉の許可が下りた。
ムーア議員が先頭に立って、タムラへの干渉を行うことになった。




