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31.  キャンプ運用 <30> 無口な少年の証言

 話しあったすえに、両親は、洋を知り合いの弁護士のところに連れて行った。

 洋が行方不明になったとき、随分世話になり、それ以後、家が近かったこともあって、近所づきあいさせてもらっているそうだ。


 おだやかな表情を滅多に崩さない、豊かな白髪が印象に残る、老年の弁護士だった。

「事故についての記憶が戻ってきたそうだね?」


 洋を鋭くみつめる、その眼が怖かった。

 洋は、弁護士事務所に入ったときから固くなっていたが、さらに緊張し、胃袋が縮んで、吐きそうになった。キャンプ・スタッフが、すかさず生化学的な処置をほどこした。スッと鼻と喉の通りがよくなる。それからは、なんとか、どもりながらも落ち着いた気持ちで話すことができた。


 トンネル事故の時間と豪雨の降った時間のずれがあったことを、何度も、詳しく、繰り返し話した。

 弁護士は、カメラで動画記録をとり、さらに、司法書士の資格を持つ弁護士見習いの助手に命じて、報告文書を作成させた。


「うちのような小さな事務所では、こういう案件はむずかしい。知り合いの事務所と共同であたらせてもらうが、よいかね?」

 洋と一緒に来ていた両親は、肯定のしるしにうなずいた。

 もちろん、洋も異存はなかった。


 翌日、洋の証言記録が警察と市役所に提出された。これを受けて、すでに解散していたトンネル事故調査委員会が、ふたたび招集された。


 事態の動くのは早かった。

 事故調査委員会は、新たな証言と、それをもとに集められた証拠をもとに、トンネル工事に不備があったと結論づけた。

 検察が待ち構えていたように動き、シンセイ建設の、トンネル建設の担当者と、副社長が逮捕された。


 洋が、老弁護士から、事件が一段落したあとで受けた説明では、洋の証言を提出する前から、密かに検察は動いて、いろいろ証拠を集めていたらしい。

 じゃあ、僕の証言は必要なかったのかなと、いうと、そんなことはない、洋の証言が、逮捕に踏み切らせるきっかけになったのだと、老弁護士は勇気を持って証言したことを、()めてくれた。

 

                 *                           

 

 シンセイ建設の重役から、呼び出しを受けたとき、田村は、嫌な予感がした。

 できれば、断りたかった。が、シンセイ建設がつぶれれば、自分がのし上がるための、大きなコネが、ひとつなくなる事になる。それに、トンネル工事の不正を、知っていながら黙っていたなどと、噂を流されたら、いまの事務所が、つぶれかねない。


 オーナーの所長は、資産家の息子で、体面を気にする性格だ。そんな噂が流れたら、すぐに事務所をたたんでしまうだろう。もともと、道楽でやっていたようなものなのだ。調査事務所をやめても、食うには困らないだけの資産を持っている。


 田村は、深いため息をつきながら、シンセイ建設の会議室を、ふたたび訪れた。

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