3. キャンプ運用 <2>
「どうして?」
「なんか、雰囲気がちがう」
「ちがうって?」
基地のスタッフは聞き耳をたてた。特に、脳科学チーム、生体工学チームに緊張が走った。
「なんか、知的になった。肌の色が白っぽいし、あごが細くなってる」
圭は、ちょっと顔を赤くしていた。カッコ良くなったかな、と下を向いてつぶやく。
「この間まで、ずっとベッドの上だったからな。日焼けする暇がなかったんだ」
「うん。病み上がりだものね。前より、今の方が良いよ。――明日は、学校行くの?」
「いや、明日は休んで、来週から行く。体調を整えたほうが良いって、親からいわれてる。――別に体調、悪くないんだけどな」
「おじさんや、おばさんからすれば、まだまだ、心配なんだよ。ひろくんの居ないあいだ、二人とも、死んだような顔してたんだから」
圭は、真顔になっていう。
「そうか……記憶が戻ったとき、心配してるだろうなとは思ったけど」
「親の心、子知らずだ」
圭は、笑いながら足元にある何かに手を伸ばした。
「じゃあ、来週、学校で。これから塾なんだ」
圭は、手提げぶくろをかかげて見せると、塾の方向へ、足早に去っていった。
基地スタッフは、小セクション「塾」について、洋に質問し、情報倉庫に格納した。
「僕の脳内記憶は、全部、情報として記録されてるんじゃないの?」
どうやら、情報としてはあっても、異星人にとっては記号としてあるだけで、意味化しないと活用できないらしい。情報に意味という属性を与えることが大切らしい。
基地の運営スタッフたちは、洋の持つ膨大な記憶情報を、さらに生かすために、意味化のための言葉探しに余念が無かった。
その日の真夜中。
洋は、眼を開いた。ふとんを払いのけ、起きあがった。
地球キャンプ設営後、初めての異星人がやってくるのだ。部屋のなかで、突っ立ったまま、じっと待った。
洋は、頭痛と耳鳴りによる不快感を我慢した。異星人の転送時の次元振動で、どうしても、発生するものだった。このことは、基地の空間制御スタッフからも、説明を受けていた。強制的に不快感を取り除く方法は、脳科学的措置も含めていくつかあるが、転送受入れの警報として、残しておくのがベストなのだそうだ。何の連絡もなく、いきなり転送移動してくる者たちも多いそうだ。
洋の身体の周囲の空間がゆがみ始めた。洋の頭上に、黒く薄い影のようなものが現れた。影はゆっくりと降りてきて、洋も含めた空間の歪みのなかに、同じようにゆがみうごめきながら、重なるようにして入っていった。