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26.  キャンプ運用 <25> ねらわれる少年

 連絡を受けた洋は、まだ授業中だった。もう5時限目だったけれど、終わるまで、あと30分はかかりそうだ。渡瀬が触れたところから、ナノマシンが侵入し、位置情報をふくめさまざまな情報を送ってきている。


タムラという男の行動範囲は、かなり広いようだ。電車に乗り、すでに隣県に入っている。

 キャンプのトラブル対策班からは、タムラの行動分析が始まっており、性格や嗜好などの分析結果が、どんどん送られてきていた。

 授業が終わり次第、眼を通して、タムラとの交渉の指針を決めなければならない。


 授業の最後のまとめ段階で、数学の教師に当てられたが、答えられなかった。並行して行っている複数の物事に、同じように集中することは、難しかった。

「わかりません」と答え、まわりが笑っているのを聞き流しながら、チャイムが鳴るのを待ちきれずに、分析データを直接視神経に送り込み、見始めた。

 洋の後席の生徒が、教師の質問に、どもりながらも、何とか答え、ちょうどその時、チャイムが鳴り、授業が終わった。


 今日は、放課後に何もない。洋は、カバンを抱えて、すぐさま教室を出た。

 校門から、走り出ると、一気にバス停まで駆け、ぎりぎりで、駅に行くバスに間に合った。

 タムラが他県の駅で下り列車に乗り、そろそろ戻ってくるという情報が、スタッフから上がってきていた。肉眼で、タムラの風貌を確かめたかったのだ。


 駅に着くと、南口の改札の前方、駅の広い屋根を支える支柱の一本の後ろに陣取り、タムラが出てくるのを待った。

 市の中心街に向いた南口から出てくるのは、ほぼ間違いない。スタッフの分析と、洋の予測は一致していた。

 ただ、万が一を考えて、足長バチ型の生体探知機を飛ばし、北口の改札を見張らせてあった。以前はハエ型のものを使っていたが、ハエ叩きで、叩かれたり、殺虫剤をかけられたり、被害に会うことが多く、人を刺しさえしなければ放っておかれるハチ型のものが、いまは多く使われている。


 タムラの乗っている電車が着いた。プラットホームに降り、階段を登ってくる。

 やはり、南口の改札に出てきた。柱の陰に隠れる洋の前を、タムラは、ゆっくりと通り過ぎた。タムラの酷薄そうな、かすかに笑みを浮かべた顔が、洋の目の前を横切っていった。


 タムラは、駅ビルに入って、エレベーターでかなり上層の階へ上っていった。

 たぶん、屋上で食事をとるのだろう。

 洋は、監視はスタッフにまかせ、いったん家に帰り、夕食をとることにした。


 夕食後、こっそりと家を出た洋は、タムラの宿泊している駅裏にあるホテルの前に来た。

 ここの7階にタムラは泊まっているらしい。


 洋は、深呼吸した。

 今夜、ケリをつけてしまおう。

 光学迷彩スーツの不可視化機能を働かせると、音をたてないように注意しながら、ホテルに入った。



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