表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

21.  キャンプ運用 <20> 怪しい監視人

 ドアの右横の、もとは白かったにちがいない、長年の使用で黄色く変色したボタンを押した。

 ボタンのうえの壁には、手書きの『用事のある方は、このボタンを押してください。』という文言と、ボタンを指さす矢印を書いた細長い紙が、透明なテープで貼られていた。

 

 部屋のなかで、ガサゴソと動く音がした。部屋のなかを、片づけているのだろうか。

 しかたがないので、しんぼう強く、(ひと)が出てくるのを待った。

 なかなか、出てこない。

 もう一回、ブザーのボタンを押した。


 ――ちょっと待ってください、と人の声がした。男性の低い声で、かろうじて聞きとれた。

 人の気配がして、やっと、ドアが開いた。

 ポロシャツとグレーのズボンを履いた若い男だった。


「調査を依頼したい」

 彼がいうと、若い男は、顔をしかめた。

「今は、俺ひとりしか居なくて……」

「話だけでも、聞いてくれませんか?」

 彼が、強く問いかけると、男は、奥の部屋に引き返し、誰かに電話をかけ始めた。

 電話を終えると、

「じゃあ、こちらへ」


 彼は、ホコリがうっすらと積もったソファーに案内された。

 男はホコリに気づいたのか、あわててソファーの上に、薄い空色のカバーの座布団を置いた。

 彼がソファーに座ると、男も、低いテーブルをはさんだ、向かい側のソファーに腰かけた。


「渡瀬と申します。田村課長がいませんので、お話だけ、お聞きします。記録には残しますので……」

 渡瀬は、テーブルの上に束になって置かれていた用紙を手にとった。素早く用紙のレイアウトをみた。調査用の質問シートのようなものらしい。細かな質問が30以上、箇条書きで印刷されていた。


 それから、何の調査をやりたいのか、聞かれた。あらかじめ用意していた、この市内の市場調査について、説明する。

 彼は、偽の身分を説明した。偽の会社名と所属部署、役職名を告げた。

「それでは、どのような調査のご依頼か、伺わせてください」


 偽物の調査依頼の説明を終えたあと、彼は部屋を出た。

 目的は達した。

 ソファーの下に感度の良い盗聴器をしかけることができた。

 ドアの前の天井にある蛍光灯にも、照明器具の部品のようにみえる超小型カメラを取り付けてある。

 しばらく、これで監視を行ってデータを集め、麻薬売買などの情報が手に入り次第、厚労省の該当する部署に連絡するつもりだった。

 彼の所属する組織は、あくまでも、裏で動き、実際の取り締まりは、政府の該当する省庁が行うようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ