2. キャンプ運用 <1>
洋が家に戻ってから、一週間がたった。
洋自身には、あまり長くウチを離れていたという感覚はなかった。
が、周囲の大騒ぎを見ていると、自分が災害にあって、遭難していたんだなという実感が、ようやく湧いてきた。
洋の両親は、とりわけ母親は、いまだに興奮状態を抜けだしておらず、何かというと、ひろっ、ひろっ、と洋を探しまわって、父親にたしなめられていた。母親と父親の平和な口げんかを聞いていると、遭難のような事件は、何も起こらなかったような気がする。
今、洋は自分の部屋にいた。
机の前の窓から、けたたましいエンジン音とともに、香ばしい焼きいもの匂いが入ってきた。窓から首を伸ばすと、黒い排気ガスをはき出しながら、焼きいも屋の軽トラが遠ざかってゆく。リュリュリュという、コオロギの鳴き声が、道路ぎわの生い茂る草のなかから、かすかに聞こえた。
「ひ~ろくん」
生垣のうえに、ひょろっとした細身の少女が顔を出した。
「どうしたの? 忘れちゃった?」
洋は、ぼんやりと少女を眺めた。
洋の内部の記憶格納庫で、対人関係のファイルが、即座に検索される。
おさなじみの、湯月圭という少女だった。幼稚園の頃から、家族ぐるみのつきあいという情報が、はじき出された。
洋の次元的に重なっている基地のスタッフの間で、大急ぎで対策が練られた。行動方針が策定され、洋の内部の極微小マシン・システムに指令が送られた。
「けいっぺか」
洋が名前を呼ぶと、少女は目を輝かせた。
「元気……にしてる?」
「見てのとおり、問題なし。元気にしてる」
洋は、立ち上がって窓から首を出した。机にもたれかかり、身体を曲げなければならず、背中とおなかが少し苦しかった。
「死んじゃったかと、思ってた」
圭は、真顔になり、腕組みをしてにらんだ。
「死んじゃいないよ」
「大丈夫だった?」
圭は、また同じことを聞いてくる。少し泣きそうな顔、かなり心配していたらしい。
「ああ、もう怪我も、治ってる」
「よかった……」
圭は、なぜか洋の顔を、ためつすがめつ見ている。
困惑した表情で、
「ひろくん、何か変わった?」




