14. キャンプ運用 <13> 怪しい監視人
今は、秋から冬への過渡期で、寒がりの洋は長袖シャツやら、セーターやら、大量に着込んでいた。身体改造中に、暑さ寒さを感じないようにできるがと訊かれたとき、断ってしまった。少しでも、普通の人間に近い肌感覚でいたかったのだ。
が、こんなことがあると、失敗したかなと思う。まあ、体内のナノマシンが働いて、限度を越えると、体温調整が行われ、汗のかきすぎで風邪をひいたりはしないけれど。
コホーは、まったく暑さを感じている様子がない。
園内の通路を、植えられている植物の葉や茎に触れながら、ゆっくりと進んでゆく。
変装は完璧だった。が、ここの通路のように、土や砂の地面がむき出しになったところを歩くとき、どうなるかを考えていなかった。地面の上にホウキで掃いた跡のような、たくさんの細い線が、コホーの歩いたあとの地面にできていた。
いまから、靴を掃かせられない、というかあの足根に合う靴はみつかりそうにない。
洋は、地面にできた跡を自分の靴で踏み消しながら、コホーについていった。
コホーは、いま、ヤシの木のひとつに手を当て、眼をつむって、何事かつぶやいている。明らかに、既成の地球言語ではない、耳をすますと、くぐもった笛のような音が、断続的に聞こえる。
植物同士で、話しをしているのだろうか?
地球の植物たちにも、コホーと語り合えるような知性があるんだろうか?
洋は、周囲をみまわし、誰も来ないことを確かめて、ホッとした。
圭は、子ども二人に、完全に気をとられて、こちらを気にしていない。すでに第二ルームに入っていて、ちょこちょこ動き回る男の子たちを、笑いながら追いかけている。洋の視覚、聴覚ともに以前の数倍は鋭敏になっているので、遠くからでも、圭たちの様子は、だいたいわかる。
楽しそうで良かったが、気楽でいいなあと、うらやましかった。
洋は、木と話すコホーを誰かにみられてはいけないと、気が抜けない。
コホーの、ヤシの木との会話がようやく終わり、透明な二重のカーテンを抜け、第二ルームに入った。
ここは、寒冷地の植物で埋められていて、冷房がきつい。吐く息が白くなった。
急速に体感温度が下がったため、身体のなかのナノマシンが動き始め、すぐに寒くなくなった。
前方を行くコホーを観察するが、第一ルームで暑さを感じていなかったのと同様に、寒さを感じていないようだ。変装で着用している光学迷彩スーツの機能には、冷暖房もあるので、うまく対応できているに違いなかった。