11. キャンプ運用 <10> 怪しい監視人
日曜日になった。
洋が遅く起きると、両親とも出かけていた。置いていたメモによると、知り合いの法事らしい。
好都合だった。
コホーに連絡を取り、立体幻像と光学迷彩技術の組み合わせによる変装の状態を、洋の部屋に出てきてもらい、確認した。
部屋の窓のカーテンを締めきり、スタッフたちに、今なら大丈夫という思念メールを送る。
洋の身体がまわりの空間ごと、ぼやけ、ゆらいだ。
うねる空間から、ヒト型のものがわかれ、実体化した。
明るい茶色の、長めのソバージュといったらいいのか、一本一本の髪の毛をくるくる巻いた髪型を持つ、三十代ぐらいにみえる女性が現れた。ロングスカートの上に、防寒用のコートをはおっている。
今の季節には、暑すぎるファッションじゃないかなと思ったが、ヒューロー人のもともとの形態を考えると、しかたがないのかもしれない。
「ようこそ、地球へ! 歓迎します!」
洋は、力強く声をかけた。
ヒューロー人――コホー(今は女性の姿をしている)は、長いまつ毛の目立つまぶたを動かし、しばらく、せわし気にまばたきをしていた。視覚器官のない植物系異星人だから、あのまばたきは、光を樹皮で知覚していることの映像表現かもしれない。樹皮(肌)の色は薄い黄色というより、黄色っぽい白といったほうがよい色をしている。たぶん、紫外線をよりよく吸収するためだろう。
彼女は、自分の身体を見下ろし、ぐるっと一回転した。
スカートがふわっと浮かび、洋に当たりそうになる。
洋はあわてて、よけた。
コホーの形態を考えると、身体の枝か、足の役割をする根(足根)が当たる可能性が高い。これまでに接触した異星人との経験が生きていた。
何度も、痛い思いをしているのだ。
「キャンパーよ、よろしく頼む」
コホーは、丁寧におじぎをした。
「身体が動かしにくくはありませんか?」
「問題ない。それに、ここの重力は我の母星より軽い。とても楽だ」
コホーは、女性の可愛い声で話す。
洋は、アニメのキャラクターのような声だと思った。
そういえば、異星人の変装イメージは、はとんど男性だった。女性イメージは数人しかいなかったと思うし、団体客で、代表者とだけ話をし、女生とは会話をしていなかった。
洋は、反省点として、あとでスタッフに話しておこうと、思念メモに記録した。
コホーは、いったんキャンプに戻り、洋が植物園に移動したところで、人目につかない場所を探し、出てくることにした。
植物園に向かおうと、家を出た。
門の掛けがねをおろし、振り向くと、湯月圭がいた。
「よっ! ひろくん」
圭は、にこにこしながら、でも眼は笑っていなかった。




