652話:不審者2
夜の学園に侵入して、錬金術科の学生倉庫にやって来た僕とネクロン先生。
青トカゲから、物を隠すのに向いてる場所として教えられたけど、正直物がごちゃごちゃしてて見通しが悪く、何があるのかわからないだけ。
こんな所に隠しても、暗号を解いた後に物量で捜索を困難にする嫌がらせにしかならない。
「これ、隠すにしてもまず掃除ですね」
「だから言っただろ、手伝ってやるって」
ネクロン先生は、学生倉庫を青トカゲが教えた途端妙な交換条件を出してきた。
その時僕は受け入れずにいたけど、今日は一方的にこうして一緒に学生倉庫に来てる。
「つまり、この状況わかってた、いえ、ネクロン先生が使っていた時からこんなだったんですか?」
「ま、無軌道な学生が集まりゃこんなもんだろ」
なんでもないように答えることから、この乱雑さは想定内なようだ。
その上で、危険そうなものは日誌片手に確認し始める。
僕も一応この場ですぐさま廃棄すべきものを探ることにした。
(セフィラ、腐ってるものや、人体に害になりそうなものは?)
(該当十の物品を確認しました)
けっこうあるな。
(何処にあるか教え…………なくていいや)
聞こうと思ってちょっと遠くを見つつ、自然に気づいた風に偽装しようとしたら、視界の端に魚の尾が見えた。
そっちを見ると、なんか形が変形して中身がこぼれそうになってる不穏な包みがある。
というか、精霊の人魚、いるね。
青トカゲと話してる時にもいたんだろうな。
なんでついてきたのかはわからないけど、まぁ、手伝ってくれるならいいや。
「ネクロン先生、こちらのこれは何かわかりますか? この倉庫の収納に関して、規則のようなものは?」
「うわ、なんだこれ? あぁ、中にカビが発生して膨れてんのか。中身崩れてるだろうからまず触るな。今度廃棄用の木箱でも持ってきた時に捨てるぞ。今は隔離して、中身が漏れないようにすべきだな。小さいが密閉できる箱が確かこの辺りに…………」
ネクロン先生は在学中から様子が変わってる倉庫内で、探し物を始める。
僕は何があるかもわからないから待ってると、また視界の端に魚の尾が揺れた。
目で追うと、今度はなんの変哲もない木箱だ。
けど、精霊がわざわざ教えるならまずいものなんだろう。
(セフィラ、これ中身は何?)
(原形をとどめていない、乾燥し、黒ずんだ、生物の一部のように思われます。粉末を吸い込まないよう注意を推奨)
どうやらこっちは黴がつく前に乾燥してしまったもののようだ。
その上で原形をとどめないほどもう崩れて使い物にならない上に、吸うと害がありそう。
「ネクロン先生、こちらは中身が原形をとどめていないので、廃棄でいいですか?」
「あ、その箱。それ小竜の指だったはずだが。駄目だな、もう使い物にならん」
もったいないと言いながら、厳重に密閉するのは、吸ったらだめだと知ってるんだろう。
どうやらネクロン先生がいた時からある希少な素材だったようだ。
そんなやり取りをしながら、僕はセフィラが言った十の害ある物品を探し当てる。
腐ったもの、毒化したもの、原形をとどめないほど劣化したものや不衛生なものまで。
本当に、学生がまともに管理できてない状況が恐ろしい。
「ふぅ、こんなものですかね」
「…………よし、だったらもう聞くが」
ネクロン先生が僕の肩を掴んで言った。
「さっきからお前は何と対話してんだ? 言葉のない青トカゲ以外にもまだ何かいるんだな?」
「あ、さすがにばれました? はい、青トカゲ以外にも、錬金術科に精霊いたみたいで。それがついて来てて、今、危険なものの場所を教えてくれてたんです」
「そうなると、女や男、あとは魚のどれかか」
いえ、全部なんですけど。
まぁ、ネクロン先生の視界に入らないよう動いてるなら、人魚のことを言ってもたぶん見つからない。
「それもまた、属性に好みがあって俺のことを相手にしないのか?」
「どうでしょう。たぶん水属性だと思いますけど、青トカゲほど顕著な好みじゃないんです」
「じゃあ、どうしてアズは好かれているんだ?」
「好かれてますかね?」
僕が言うとセフィラが答える。
(人魚は主人が逃げ水の性質を持つことを察した時点で、自らの姿を視認することに抵抗しなくなっています)
(初耳なんだけど? そう言えば本体見つけても隠れなかったね)
どうやら自分で気づいたらいいらしい。
そうなると、ここでネクロン先生に言うのは駄目なのかな?
「えぇと、青トカゲよりもちょっと手順が必要な精霊みたいで。好みというより、その手順を自分で見つけたら相手してくれるみたいです」
「精霊が自らとの対話を許すに足る勇士、もしくは知者であるかを試す、精霊の試練か」
なんかちょっとかっこいい言い方だな。
けど、実際やったのは教室で、バタバタ追いかけっこしただけ。
イメージがこう、ひどい落差でねじ曲がってるような気がする。
「本当に、なんで俺の在学中に見つけた奴はいなかったんだ?」
「だいぶ気分屋みたいですし、相性悪かったくらいのものかもしれませんね」
それで言えば僕は確実に相性が良かった。
何せ、セフィラという精霊っぽい存在がすでにいたから。
見つけただけじゃ対話なんてできないけど、セフィラが思考や意思があることを読み取ったから、そこから意思疎通を模索したんだ。
「はぁ、錬金術に関係する精霊がいたと確定しただけ、ここに舞い戻った意義はあったか?」
「お金になるようなものでもないのにですか?」
思わず現金なことを言ってしまった。
けどネクロン先生は気にせず口の端を持ち上げる。
「精霊の情報というだけで、馬鹿みたいに釣れる奴らがエルフに一定数いるんだよ」
思わずイルメを想像してしまって、僕は目を逸らした。
別にクラスメイトが馬鹿だとは思わないけど、確かにつられそうだとは思ってしまったんだ。
それに、錬金術に精霊が関わるなんてことだけで釣れるなら、お得な気もする。
僕は何に使うかなんて考えつきもしないけど、エルフの文化圏に行くときのために心にとめておいた。
(さて、そうなると次は、役立つものがあると嬉しいけど)
(役立つと思われるもの三件、すでに主人が役立つ形にしているもの四件、封印図書館に完成形が存在するもの六件を検出)
なんか、あまりの少なさに、セフィラが一生懸命情報を絞り出した感がある。
つまりは役立つって断言できるもの、なかったんだね?
(いや、けどセフィラが全部ゴミとか言わない程度には何かあると思っていいのか)
(封印図書館は失敗を後世に伝える意義を持つのであれば、ここもまた、未熟な錬金術師では何をも成せないという現実を教えることに適した場であると…………)
(待ってまって、駄目だよそんなの。人の失敗さらすような言い方しないで)
封印図書館の天才は、自らそれをやろうと思ってやってるんだ。
けどこの学生倉庫に残されてるのは、失敗の見本市じゃない。
学生時代に努力をした思い出のよすがだ。
「おい、何か今魚のひれのようなものが見えなかったか?」
「あ、どっちに行きました?」
僕の返答で、ネクロン先生はそれが精霊だと察した様子で口角を下げる。
うん、それでも指差して人魚がひらひらした周辺を教えてくれた。
そして一緒に何があるかを見る。
出てきたのは、さび付いた金具と木枠で形作られた何かの装置。
「この棚は以前から何かしらの器具が置かれていたが、俺が知ってる形とはまた違う。誰かが手を加えたらしい」
「あ、そこの日誌に書かれてるみたいです」
「おい、あの尾ひれのある精霊のほうが、トカゲより協力的なのか?」
「協力の仕方がすごく特殊なので、青トカゲのほうが言葉を使ってくれるだけわかりやすいですよ」
こんなに物が揃ってるからこそ、人魚は手助けができてる。
普段はもっとわかりにくいから、人魚から情報を引き出すのに、クラスメイトはクイズ大会のように回答を叫ぶことをしてるくらいだ。
だいたい僕はセフィラが先に答えを言ってしまうから、みんなの回答を聞いて次の回答者に回す司会者みたいなことして、半分遊びになってるけど。
「ふむ、これか。それは開閉弁だそうだ。ほう? 別の器機と組み合わせることで、人が手を使わなくとも勝手に開閉を繰り返すそうだ」
「となると、あ、これですかね、組み合わせるものは」
思ったよりまともな発明があった。
もちろんこれらだけだと使い道はないし、傷んでるから作り直しが必要だ。
けど、ちょうど赤炉に組み込むにはいいものな気がする。
さらに尾ひれが動いて、僕は一つの研究書を手に取った。
「何々? 魔石作成考」
「あぁ、歴代考えてはまとめてるやつだな。うん? 六冊はあったはずが三冊しかないな。誰か勝手に持ち去ったか、返し忘れて卒業したか」
学生にありがちなことだ。
けどこれもちょっと興味はあるし、試しに僕もこの内容を持ち帰ることにする。
うん、僕もこれは盗賊染みたことしてるな?
そうして僕たちは、ある程度見て回ると不審者よろしく、こそこそ学園を脱出することになったのだった。
定期更新
次回:不審者3




