609話:パレード本番4
日中はパレードから始まって、武芸の競技大会の縮小版みたいなことをやっていた。
各学舎の運動系の学科が主催して、腕試し的なことや、トーナメントを見せ物に運営する。
そうして観客に、将来有望だって学生の腕をアピールする場でもあるらしい。
だから運動系じゃない学科は前日の雑用とか、当日にちょっと当番して、あとは見て回るだけ。
そんな無関係な学生と違って、目立つ場所に立てずに放置される運動系の学生はもっと別にやることがあるんだとか。
コネがないと就職に有利は取れないから、目立たないといけないから、そのために道場破りのようなことをして回る。
主宰側も、それを受けることでより盛り上がりにするんだとか。
なのに、何も関係ない錬金術科がヨトシペ連れて荒らしてた。
だから新入生たちは絡まれたんだろうと、リーウス校の学生談だ。
「うーん、予定外」
僕は夕方暗くなる街を歩きながら呟く。
もう夜と言ってもいいくらいのもので、先頭からは行く先の学園が見えてるだろう距離。
本来静かに、けど灯りをともして目立つようにやる予定だった。
なのに夜のパレードは、何故か周囲の観客も含めての大合唱が起きてる。
僕の呟きなんて、自分の耳にも届かない。
「酒くせぇ」
近くで小雷ランプを掲げてたネヴロフのぼやきは聞こえた。
どうやら夜に向けて飲んだ大人が、大合唱の一部にいるようだ。
見れば、道沿いの家々の窓から顔を出す人たちの中には、酒瓶片手に歌ってる人もいる。
「歌より灯りに気づいてぇ」
僕もぼやくと目の前のラトラスが耳を揺らしたから、どうやら聞こえたらしい。
僕を振り返って肩を竦めてきた。
瞬間、勢いのついた酔っ払いが、危険なんて考えずパレードに近づこうと動く。
僕はとっさに近くにいたディオラを片腕で引き寄せて庇った。
獣人で動きが早いラトラスがよっぱりを軽く押し、ネヴロフがしっかり押して距離を取らせる。
「大丈夫?」
抱えていたディオラを見れば、無言で何度も頷く。
手を離すと、縋るように掲げる小雷ランプの持ち手を両手で握りしめていた。
「本当に平気? もっと内側に行ったほうがいいかもしれない」
「は、はい…………」
普段のはきはきした利発さが感じられないディオラ。
声が良く聞こえないのは、周りがうるさいせいだとして、顔も伏せぎみって体調悪いのかな?
ともかく酔っ払いから遠ざける位置に移動してもらって、僕が壁になれるように立つことにした。
ディオラのおかしな様子は気になりつつも、僕たちの夜のパレードは学園に到着する。
パレード解散の挨拶みたいなことをリーウス校の学生がやった。
すると歌いながらついて来てた観衆が大盛り上がりになり、その観衆を散らすのに小一時間かかったことに気づいた時には、さすがにため息が出る。
「いやぁ、その光はなんだって聞いてくれるのはいいんだけど、思いのほか酔っ払いが釣れたね」
ラトラスが苦笑しながら茶化せば、エフィが僕と同じ感想を吐く。
「もっと厳かになる予想だったのにな、なんだあの大合唱は。夜にやったのが駄目なのか?」
「祭りで歌い出せば誰も声高らかになるものだろう? あの様子なら、翌日にも周囲に喧伝してくれそうだ」
そういうものと笑うウー・ヤーに、イルメも心当たりがあるようで頷いた。
「あれで踊らずにいただけ理性的かしら? 惜しむらくは、こちらの説明をあまり聞いていなかったことね」
そう言えば酔っ払いの割に、あんまり激しく動く人はいなったかもしれない。
騎手がいても、さすがに馬に蹴られたら危ないって理性は残っていたのかな。
そんな話をしてたら、後輩たちのほうから明るい声が上がる。
「いっぱい作って明るかったね! 来年はもっと灯り増やしたいな!」
「うむ、夜闇を払う良き光の祭典となろう。来年はもっと広い道で良いかもしれない」
騒ぐポーに、アシュルが楽しげに答えると、イデスが冷静に状況を考えていた。
「思いのほかパレードらしい賑わいになったのだから、来年は参加が増えるでしょうね」
すると他国のクーラとショウシが、自国のお祭り色を口にする。
「もっと花を振らせて、香辛料を撒いても良いのではないでしょうか」
「それは、なんとも華やかですね。我が国では香を焚きしめた公卿の列があります」
竜人のパレードの派手さは、九尾の貴人たちがやってたから想像できるけど、ニノホトの静かな感じは、前世に近いかもしれない。
人間のトリキスとタッドは、真面目に今回の反省を挙げた。
「予定とは違う形なのは、不測の事態を起こしかねないものだ。これは成功と思っても?」
「いいんじゃないか? リーウス校、満足げだったし。でも、対策は必要になるな」
話しながら、僕たちは回収した小雷ランプの点検中だ。
学園内だけど屋外で、設置した小雷ランプの街灯が助かる。
その灯りの中で、衣装枚数確かめたり、簡単な備品の点検もして、手伝いする形の新入生たちも楽しげに話し合ってる。
「お姉さま! 借りた衣装は全てありました。こちらどのようにいたしましょう?」
「では、返すために係の学生を捜さなければいけませんね。相手の顔は覚えていますか?」
大型猫の獣人ツィーチャに、虎獣人のウィーリャが応じる。
聞いていた、ナムーは爪を出さないよう気をつけながら聞いた。
「うーん? 洗濯して返さなくていいの? 俺たちの毛って、人間嫌がるのに」
「なんだ、洗濯をするのか? 水が必要であれば出すぞ」
イー・ソンが短絡的にいうのを、ハルマが止めてくれる。
「水濡れで縮むかもしれないから駄目だよ、イー・ソン」
「あら、絹以外にもそんな生地が? 知りませんでした」
高級素材がすぐに出てくるイー・スーのお姫さま感を横目に、シレンが動いた。
「さっさと見つけて聞けばいいでしょ。腹減ったっす」
それらを見た後に、僕は一人様子のおかしいマクスにそっと目を向ける。
「えっと、マクスはどうしたの?」
「なんか聖歌と光がどうこう言ってたっす」
シレンがすぐに教えてくれるけど、要領を得ない。
「とても素晴らしい。これは是非国に持ち帰って同じようにミサを…………」
どうやら、自国での使い方を考えて期待に考え込んでしまってたらしい。
その上で僕を見た、と思ったら、何故か手を握りしめられる。
「アズ先輩は卒業後に家を継がれないんですよね? では帝国での就職の希望は? 他国に出ても? 王宮勤めに興味は? もちろん錬金術を続けられる環境を…………」
「え、ちょっと」
ずいずい押されて早口なマクスに言葉も挟めず困る。
というか、国に持ち帰るって自分で習得じゃなく、すでに習得してる人員の確保って話なの? 王族の考え方なのかな、これ?
なんてちょっと逃避してる間に新手が声を挙げた。
「お待ちなさい! それが通じるのであれば、我が国、いえ、デニソフ・イマム大公の下へ! ねぇ、お姉さま?」
「えぇ、まぁ、大公はすでにアズ先輩の腕を見込んでいらっしゃるし、望めば最大限希望を叶えてお迎えするかと思いますわね」
ツィーチャに言われて、ウィーリャまで言い出すんだけど、そこにハルマが手を挙げた。
「あの、アズ先輩は皇帝派閥の貴族子弟なんですよね? だったら! 皇帝陛下より自治都市として認められたクラウディオンなどはいかがでしょう? お家の方との折り合いについても不自由はないかと」
まさかのハルマまで参戦してきた。
と思ったら、何か言いたげにラトラスの尻尾が僕を叩く。
うん、言われなくてもわかるよ、ディンカー知ってるもんね。
誘っていいならモリーに即連絡入れるぞって声が聞こえる気がする。
そもそも帝都戻る予定ってことは言ってあるから、ラトラスというか、モリーたちは卒業後も関係続ける気満々だし、横から他国にさらわれるのは困るんだろう。
「えーと、まず手を、放そっか?」
僕は一番近いマクスにそう言った。
視線を泳がせると、イー・ソンとイー・スーが顔の良さを前面に出して僕を見てる。
うん、そう言えばヒノヒメ先輩から何か言われてたんだよね。
それがチトス連邦への返り咲きに関係してるらしいけど、そうなると僕の卒業後の動き押さえるつもりはあるよね?
たぶん現状提示できる条件がないから黙ってるだけで。
下手なこと言って言質取られるのはまずそうだ。
「アズ先輩! ルキウサリア残って薬学するのは? いてくれたら錬金術手伝ってもらえるよね?」
「竜人の国でも問題なく勤められるかと。もちろん、こちらも待遇に関しては考慮いたします」
テスタ側のポーに、国に帰るはずのクーラまでなんか言い始めた。
そしたらイルメも狙うような目してるのに気づく。
まさか精霊関係でエルフの国行き狙ってたりするの?
待って、問題が多すぎる。
なんて僕が黙ってたら思わぬ声に助けられた。
「何をしているんだ、アズロス」
「あ、ソー?」
すごく苦々しそうな顔したソティリオスが、すでに夜の暗い学園にまだいたようだ。
その上で、今の話聞いてたらしく、何故か僕を責めるように見る。
そして偉い貴族子弟らしく堂々と、僕を勧誘する人たちに向きあった。
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