604話:真聖女の遺物4
騎士ってあくまでそういう役職と言うか、階級と言うか。
生まれの身分ではないから、平民と変わらないと重んじない貴族はいる。
同時に、騎士として行儀作法は必須だから、教育を受けられた人員として平民より確実に上の扱いでもある。
じゃあ、騎士の身分や権勢ってどうなってるかと言えば、それは仕える主の身分による。
そして騎士は主人を持つもので、いない場合は生まれの身分が適用。
けど主人がいれば、身分よりも主人からの信頼度で偉さが変わる、一種の下剋上可能な職業なんだとか。
「ここが何処だかわかっているのか! イスカリオン帝国第一皇子殿下のお屋敷だぞ!」
「学生に暴力を振るおうという不逞の輩め! そのような者、我が主は許さないだろう!」
うーん、僕あの二人の主人になった覚えないから、普通に皇帝の騎士のはずなんだけど。
いや、父だって学生を襲う不審者は見過ごさないだろうし、間違ってはないのか?
まぁ、僕自身の身分なんて皇子って言うだけ。
血筋が低いから、その皇子って言う地位も継承権が高いだけで偉ぶれるものじゃない。
それでも名目上、騎士は軍人の類で、それに攻撃したとなれば、争いは必至。
攻撃した相手を負かさないと面目が立たないし、騎士って兵と違って格好つけないといけない制約があるらしいんだ。
騎士とは自らの死よりも人々からの非難と不名誉を恐れろ、なんて教書もあって、格好つけなきゃお前騎士じゃないみたいな暗黙の了解があるんだとか。
「…………うん、みんなの言う恰好つけの騎士像、実は偏ってるね?」
僕は隠れたままウェアレルに言う。
実は弟のテリーが、テオっていう騎士を迎えた時に聞いてみたことがある。
すると平民視点での騎士について教えられたんだ。
偉いようで偉くない、けどおだてれば頼りになることもあるし、恰好つけたいだけで、全然使えない騎士もいるとか。
「あの者たちは、後ろ盾も弱いので、職務にも真面目で、自ら身を立てるために騎士道を重んじることも、あるかと」
ウェアレルが気まずそうに答える。
そうしてる間に、若い騎士二人に加勢する他の騎士たちも現れた。
さらに見慣れた赤い熊さんも出てきて、ラトラスを確保する。
「よぉ、ウェアレルから聞いてる。だがさて、これはどうしたもんかな?」
「ヘリーさん、俺投げてよ」
「お、そうだな」
ちょっとなんかおかしな会話が聞こえた。
そう思った時には、ウェアレルが僕だけ隠して道に出る。
その間に、ヘルコフが足の間に組んだ手に、ラトラスが片足を乗せた。
そしてヘルコフが力の限り両腕を振り上げると、こちらに背を向けていたラトラスは宙に放り投げられる。
しかも空中で体捻って着地した時には、こっちを見る姿勢になってた。
「あ、色違い先生」
「ラトラスくん、もう大丈夫ですよ。全員釣れたようです」
「え、そうなの?」
騎士たちに押さえ込まれる人はまだ半数。
けど頭上を越えたラトラスを追おうとして道に飛び出す聖女教会は、今まで隠れてたルキウサリアの護衛が、善意の一般人を装って捕まえてる。
これで全部で八人、全員だった。
「…………っていう顛末なんだけど」
僕は翌日に仕切り直して、マクスの所へ説明に行った。
一緒にイルメもいる。
そして囮に使った箱を返すと、受け取ったマクスは目を白黒させた。
イルメは、思いのほかあっけなく終わった捕り物にため息を吐く。
たぶんそこは、下手に歴史的な諍いがあったマクスだからこそ、現状よりもブイブイ言わせてた昔の聖女教会基準に語ったせいだと思う。
僕としては事前にハリオラータから残りかす宣言されてたし、手がかからなくて良かったっていう感想になる。
「それだとエフィやネヴロフにも辿り着けなかったの? せっかく逃がさず釣り上げる方法を考えたのに」
「うん、そう。工房に控えててもらってたウー・ヤーも待ちぼうけになっちゃったよ」
実はラトラスが途中で捕まりそうなら、ネヴロフに交代の予定だった。
ただその必要もなく、素直につられた聖女教会は全員確保されてる。
「な、何を予定しておられたのでしょう?」
マクスが引きぎみに聞いてきたのは、一応ことの発端だっていう責任感かな。
「エフィは学園都市から鍛冶工房なんかの、実験場が集まる隣町に移動する門に待機してたんだ。そこを僕たちがスムーズに越えられるように待機してたんだけど無駄になったね」
「それとウー・ヤーは、お世話になっている錬金術の道具を作る工房で、押しかけてきた時には迎撃する準備をしていたはずね」
ウー・ヤーは単に方向音痴だから、待機してもらってた部分もある。
あと、工房はルキウサリアの王城とも通じてるから、人を伏せさせるために手回しがしやすかったからだ。
「門の通過の仕方で、どんな手配で学園都市に入り込んだかわかるかと思ったんだけど。そこはもう、大人の仕事になったね」
「それを知ることはできないのでしょうか? もし我が家の使用人だった者の手引きなどであれば、こちらも対処が必要となります」
マクスは真剣に情報を求める。
まぁ、捕まえたのが僕の屋敷で騎士だし、相手も素人。
そして騎士は何やら捕虜の尋問のやり方を教えられてる人もいるとかで、簡単に知ってることは聞き出せているから情報はあった。
「皇子の屋敷にいる獣人は、ラトラスの知り合いで、僕もちょっと面識があるんだ。そこから聞けることは聞いたよ」
そういう態で話すことにする。
「どうやら聖女教会の何も知らない、前科もない、学園に入学している子供がいる親の経歴を詐称したらしい。で、連れて入る使用人の身元や素行の管理をその詐称した者がすると」
「詐称された側からしたら迷惑もいいところだわ。それに全く責任取るつもりがないやり方ね。少なくとも、襲ってきた者たちの中に富裕層のような身なりのいい者はいなかったわ」
イルメは相手が他人をいたずらに巻き込むやり方に怒った様子だ。
マクスは警戒感強めに、現状を理解する。
「では、まだ全員捕まったわけではないと?」
「それも時間の問題だ。事件を起こした相手がただの学生じゃなく、皇子になってしまったからね。マクスのほうには捜査協力でも来るんじゃない?」
最初から僕関わってるけど、そこはまぁ、建前の話だ。
もうルキウサリアにも、聖女教会以外の過激派宗教団体を全面拒否する言い訳にしないかって持ち掛けた。
来年にはテリーも入学するし、備えておきたいでしょって言ったら、頷いてくれてる。
その上で、最初から皇子を巻き込むつもりで、ラトラスに向かうよう指示して、騎士に出てもらったんだ。
そしたら、予想以下の聖女教会はせっかく準備したのにあっけなく捕まるし、情報を吐いた。
ハリオラータが大して気にしてなかったの、この張り合いのなさからかな。
そうなると、もっとヤバいハリオラータにも喧嘩を売る勢力が別にいるわけだし、聖女教会を理由にそっちの取り締まりの足がかりにして正解だったんだろう。
「来年には第二皇子も入学するから、もう聖女教会は排除一択になるんじゃないかな」
「あぁ、皇妃の嫡男の…………」
王族のマクスとしては血統が気になる様子だ。
ただ僕もしたい話があるから、ここら辺で切り上げよう。
「それでマクス」
「はい?」
「まだやれることの少ない君の状況で、僕たちはできる限り聖女の遺物に対して安全を確保した。ここまでしたからには、本命を教えてもらいたいな」
僕の言葉にマクスは驚きそうになるところを、無表情に押し込める。
うん、反応見えるだけそれが答えになっちゃってるけど。
イルメも揺さぶりのために僕へ声をかけた。
「あら、本命? そんなものがあるの?」
「あれが日記だと言うなら、日付も季節も何もないのは不自然だ。読めない文字だとしても、共通した言語と様式になるはず。それがない。だったら、日記と偽った何か。そして、噂程度だけど、聖女に関わる何がしかの書籍は、昔から色んな勢力が奪い合いをしていると聞いたことがある」
実は最近ハリオラータから聞いたんだけどね。
マクスはまだ様子見だから、揺さぶり続けようか。
「奪い合われてるのは、聖女の奇跡に関する記述だとか。あとは、聖女教会は実際には教義よりも、金儲けを重視する集団に落ちぶれてるそうだよ。で、今回狙ったのは、金になる物だと睨んだからという証言もある。ここにいた使用人に出された命令も、ちょっと損壊しても、ある程度形が残れば売れるという話だったらしい」
そこは実際騎士たちが絞り出した情報で、僕も聞いて呆れる雑な犯行だった。
中身にも、歴史的価値にも興味がない。
いっそ聖女の痕跡を損壊するっていう、初志貫徹な活動方針は危険すぎて野放しにはできない。
そう思いつつ、さらに一部を手にしたハリオラータからの情報もちらつかせる。
「その技術は、聖女の有名な伝説、欠損部位さえ治癒せしめた奇跡だとか?」
「…………はぁ。最初から、わかっておいでで?」
マクスがもう肯定するように諦めた。
うん、できる限りをやって守ったっていう建前を作っていたからこその素直さだよね。
聖女教会は隠すつもりだったマクスの口を開くには、いい働きをしてくれたと思っておこう。
聖女のこと知らないイルメでも、すごい治癒っていうのはわかってちょっと目を見開く。
「おっしゃるとおり、聖女の日記とは偽り。こちらは、聖女が奇跡を起こすために必要な薬を作るための、研究記録のさらに下書きになります」
予想してたとは言え肯定されて、僕も息を詰める。
何せハリオラータは魔法と思っていたけど、実のところ薬だという真実が含まれていたんだから。
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