閑話119:ヴラディル先生
春にはゴーレムに錬金術科が関わる。
それは決まってたんだがなぁ。
「なんで俺は外されるんだ」
「いやぁ、ネクロン先生の性格、報告されたんでしょ?」
エルフのネクロン先生に、海人の助手ウィレンが笑う。
正直俺もそう思う。
俺としては適宜様子を伺いつつ、ネクロン先生に任せたかった。
ネクロン先生もやる気だったし、どうせ何したかとか日報作らなきゃいけなくなるし。
どうせなら面倒ごとも含みで任せたかった。
すでに第一皇子がゴーレムの製法まで帝国から持ってきてるらしいし、それなのに錬金術科も巻き込む形って、絶対時間かかるだろ。
今までの成果を漏れ聞いたり、ウィーからの話を聞く限り、短期でどうにかできるものはさっさと結果を出す人だ。
それができないなら、たぶん人手扱いも含んでのことだと思ったんだよな。
「帝国側との知識の集合となりますので、私のほうからも見聞きした為人はご報告しています」
ウィーの奴が錬金術科の教員室でそんなことを言う。
まぁ、第一皇子が関わってるならそうだろうな。
欲掻きすぎて、流出の可能性は俺も考えはした。
ただネクロン先生も、粗暴だが好戦的ってわけじゃない。
はっきり、ルキウサリア国王から皇帝から注視してるってことを言えば、いっそ権力嫌いの気がある分、自分から引いたかもしれないのに。
それか、それでも外させなきゃいけない別件でも持ち上がったか?
ネクロン先生が食いつきそうな、金になる活用法とか?
「わー、教員室久しぶりだー」
「いや、お前は俺たちよりもずっと学園にいたはずだろう」
ネクロン先生が不満ありありの中、入って来たのは卒業生のスティフとジョー。
俺は久しぶりなような、そうでもないような卒業生の姿を確認する。
無闇に汚れてたり、食を疎かにしてるような痩せ方はしてない。
ちゃんと食えてるとわかる様子で、ちょっと安心した。
「来たな。今日の手順の確認をするぞ」
俺は様子を確認して、揉める前にやるべきことを進める。
二人は今日、錬金術科にゴーレムについて教えるために来てた。
これは王城からの依頼でもある。
ちょっと王城のほうで様子を見たウィーに聞いたが、ジョー一人の時にはとんでもない負担がかかってゴーレム作りをやらされていたとか。
その上で人員募集したが、追うお舌卒業生は人間のオレスだけ。
そのオレスも適性から、技師の工房のほうに回される形になってるとか。
そしてスティフは、初手から第一皇子が書いたゴーレムの詳細な説明を盗み読み。
そのせいで完全に人手扱いされて働くことを強要され、それにエルフのイアが引っ張り込まれてる形。
「前提確認なんだが、学生も人手扱いなのか? 最初は技術が途絶えないようにって建前あっただろ」
「建前? 最初から古い技術の復活で…………」
俺の質問に、ジョーは建前を本質だと思ってたようだ。
だったらなんでお前ひとりで重労働させられてたんだよ。
こういうところ、腹の探り合いに慣れてない田舎の貴族だよな。
平民の俺じゃ教えきれない部分でもあるんだが。
それに比べて生粋の大物貴族な一族のスティフが答えた。
「多分建前は変わってないよぉ。単に、使う予定が増えただけ。その分扱いが厳しくなったんじゃないかなー」
思わず俺は、扱いが厳しくなった余波を受けただろうネクロン先生を見る。
やっぱりゴーレムに関して、何か漏らせない事案が増えた結果らしい。
ただスティフに対して、ジョーは胡乱な目を向けた。
「厳しくなったのは、勝手に資料盗み読みしたお前のせいもあるだろ」
「なんにしても、開示できる範囲は何処までなんだ?」
ネクロン先生はもう開き直って、手に入れられる技術を確認し始める。
少しは隠したほうがいい気もするんだが、裏表がないだけましか?
そんな話しながら打ち合わせを続けた。
そして錬金術科全員が入れる大きい教室を借りて、説明を始める。
「今日は説明だけだ。在学生はすでに一回受けてるな。今回は新入生も交えた上で、去年から錬金術の新たな用語として現れた錬金法についても説明する」
俺は軽く今日やることを振りつつ、反応を見る。
この中で、だいたいのことを知ってるのはアズだけらしい。
王城に呼び出されてたのは知ってるし、錬金術関係での説明で帝国の高位貴族からも呼び出しを受けてることもあった。
帝国のほうは友人関係らしいからいいとして、王城での説明、上手くやってくれてるみたいだから放っておいたけど、少しは口出ししたほうが良かったか?
アズなら上手く逃げると思ったんだが、ゴーレム系で噛むのが負担になってないか後で聞くか。
「えー、ではまず、ゴーレムと呼ばれる魔物について…………」
ジョーは一生懸命読み上げて、説明の段取りをこなそうとする。
それをスティフは欠伸を隠しもせずに聞き流した。
途端に学生からも欠伸が連発するんだが、一生懸命なジョーは気づいてない。
そして雰囲気に気づかないネヴロフも、説明をぶちきるように声を上げた。
「ゴーレム、俺らで捕まえたけど、そんな怖いもんなのか?」
「「「普通は近づかない」」」
突っ込んだのはラトラス、イルメ、エフィ。
ウー・ヤーは、海人の双子の反応も薄いことから、もしかしてゴーレム知らないか?
そう言えば、ゴーレムって北か山の魔物ってイメージで、海じゃないな。
考えてたら、そのゴーレム捕獲の発端であるスティフが笑って言った。
「僕もねぇ、ゴーレムの欠片欲しかっただけなんだけど。アズが捕まえるって言ってね」
一年学んだ奴らは納得の顔だ。
アズがいる時は、だいたいイベントごと大きくしてるしな。
で、新入生の中で関心と呆れが半数。
疑いが混じるナムーくらいの反応が普通なはずだが、半分納得してるって、アズはすでに何をしてるんだ?
そんな横やりが入りつつ、ジョーの欠伸の出る魔物説明は終わり、ようやく最後に、ゴーレムが錬金術であることを告げた。
「まさか、ゴーレムが錬金術なんて聞いたことがない」
「え、魔法だって私聞いたし、研究してるってことも聞いたし」
「俺らがやってることからゴーレムができるなんて信じられねぇっす」
猜疑心を笑顔にしたマクス、心底驚くハルマに、はっきり疑うシレン。
しかしそれにツィーチャが思わぬことを言った。
「あら、ゴーレムは錬金術よ。ロムルーシには、錬金術師の家を守り続けていたゴーレムが二年前まで稼働していたもの」
「まぁ、そうなの?」
どうやら親戚のウィーリャのほうは知らないらしい。
「はい、お姉さま。以前から存在していて魔物だと思われていました。けれど二年前にデニソフ・イマム大公閣下が討伐されて、ゴーレムだとわかったんです。調べるために大々的に運び出しと解体されて、去年公表されました」
「二年前、ロムルーシ…………」
俺は思わず呟いて、アズを見る。
途端に視線を逸らされた。
あ、留学の報告にあえて書かなかったことあるな。
たぶん向こうの大公に口止めされたか何かだろうけど、ちょっと教えてくれるくらいしてもいいだろ。
そんな気持ちを込めてじっと見つめてたら、それに気づいてアズのクラスメイトも見始める。
そんな視線を誤魔化すように、アズがスティフに声をかけた。
「ステファノ先輩、信じない学生相手にデモンストレーションあるんですよね?」
「さすがに石膏像並みに重いもの、二人で運ぶのは辛かったよぉ」
「お前、俺よりも力強い上に、身体強化の魔法も使ってただろ」
スティフにジョーが言いながら、運んできた石材を並べ始める。
粗削りのものを組み上げて、中心にゴーレムの素体と言われるものを入れた。
この工程は教員室での打ち合わせでも聞いたものだ。
そして石材を吸収するように動いた素体から、凶悪な魔物のゴーレムを小さく簡素にしたようなものが出来上がる。
俺も錬金術のゴーレムの実物は初めて見る。
実はルキウサリアに音声を繰り返すゴーレムがいるとは聞いてるが、見たことはなかった。
「わはは! 力強ぇ!」
ネヴロフがゴーレムと押し合いをして遊びだすと、他の学生たちも思い思いにゴーレムを触り始める。
こうなったら子供の好奇心は止められないし、下手に下がらせると反感が返る。
ジョーはそんなことわからず止めるが、スティフもわかっちゃいないだろうが特に気にせずやらせるままと、足並みがそろわない。
転ぶ以外は比較的おとなしいイー・ソンとイー・スーも興味津々だった。
「ほぅ、錬丹術のどの系統とも違う。これが錬金術か」
「えぇ、けれど伝承にある紙を自在に操ったというのもこれなら」
「系統? 錬金術、食べ物に使えるよ。ねぇ、ラト兄」
「いや、ナムー。ゴーレムとはなんの関係もないけどな?」
「食べ物でも素材として取り込むことができれば、パンのゴーレムとかできるけど」
ナムーに同意を求められて困るラトラスに、アズが面白いことを言いだす。
途端に、学生たちがジョーに詳細を求めたが、そんな想定外に対応できるわけない。
「いや、し、知らない。やったことない。え、そんなことしてなんの意味があるんだ?」
「食べられる状態なら、食料運ぶの楽かもねぇ」
スティフは笑うが、意味深にアズを見てる。
アズは余計なことを言った自覚があるらしくその後は大人しく口を閉じた。
俺としても聞けるなら、そのパンゴーレムについて聞きたいが。
今は必要な説明の途中だし、教師としてはそろそろ口出す頃合いだった。
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