590話:春の行事5
パレードに向けての準備は、授業の合間や放課後にやる。
リーウス校の学生やディオラ、ソティリオスなんかも錬金術科に顔出してきた。
ついでに音楽科の教師や学生も、何するのか聞きに来たりしてる。
何故かその話を聞いた芸術学科の、被服や美術を専攻する学生が、夜に映える作品っていう新機軸を打ち立てようとか言ってるとも聞いた。
さすがに僕はその辺り門外漢すぎて触ってない。
ただ、舞台衣装にも興味があるウィーリャ、その妹分なツィーチャ、暗く朧な灯りの良さを語るショウシは、芸術学科の学生たちと話し合いをしてるとも聞こえてた。
「今年は随分いろんなところに手を出すんだね、アズ」
教室で借りたボードゲームの遊戯盤を弄ってたら、ラトラスがそう言った。
見れば他のクラスメイトも揃ってる。
僕はさりげなく手元を隠した。
けどすでに見られてたらしくウー・ヤーが片眉を上げる。
「小雷ランプを作る時にも細工をしていたな?」
「で、今は借り物の遊戯盤のマスを削って何してるんだ?」
エフィは完全に疑わしげだ。
けどネヴロフは楽しそうに僕の不審行動を暴露してくる。
「図書館の本にもなんかしてたよな?」
「ネタは上がっているの、さっさと白状なさい」
イルメがひどい。
けど、完全にばれてるな、これ。
下手に黙っても興味は尽きないだろうし、探し出されてもそれは妨害になる。
だったらここは白状しよう。
たぶんみんなも興味持つ話だ。
「僕が知ってる錬金術師は、基本的に暗号を残してその業績を隠蔽しつつ、後世に遺すことをしていた」
ちょっと気取って言えば、クラスメイトは黙って聞いてくれる。
どうやら僕が悪いことしてるとは思ってないようだ。
借り物の遊戯盤に細工するために、マス目削るって普通に損壊なんだけどね。
表面上はわからないよう、削った部分にぴったりはまる木の板を改めてはめ込むつもりなんだけど。
「じゃあ、ここで錬金術師として活動した痕跡を残したら、誰か気づく人はいるかなって」
言って、僕は削ったマス目の隙間に入れるための紙片を見せる。
途端にイルメが目を光らせた。
「つまり、あなたが錬金術の謎解きを仕込むの?」
「でもそれって、解いたらアズの錬金術他人に上げることになるんじゃない?」
僕がディンカーとして、すでに利益を得てると知ってるラトラスはもったいなさそうだ。
「そう。だから完全にただの趣味、いや、悪戯かな。こうして勝手に学校の備品壊してるし」
この遊戯盤は、ディオラにお願いして教養学科の談話室から借りてきてもらったもの。
そして一応想定してる謎解き相手は他人じゃない。
入学してくる弟たちに向けての準備だ。
それでも僕が知る錬金術を、誰かわからない人が手に入れる可能性があるのは、そのとおり。
その上で、全く知らない第三者が先に見つけてしまっても、弟たちには悪いけど面白いと思ってる。
学園っていう他人が集まるからこそ起きるハプニングだ。
逆に、弟たちが在学中に解けずに、ずっと眠ったままになる可能性もあるし。
そうなったら回収も難しいから、そのまま眠らせておくつもりもある。
「面白そう! 俺もやりたい! やらせてくれよ」
特にこだわりのないネヴロフが一番に言えば、エフィも自力ではできないと頷く。
「そうだな、一人ではきっと仕込むために頭を悩ませるだけ終わる」
「多分後輩向けだろう? 解いてはいけないなら関わるくらいはしたいものだ」
ウー・ヤーも興味を持って、クラスメイト全員参加で仕込みをすることになった。
弟たちのための仕掛けだから、個人的には自力でやろうと思ってたんだけど。
それで兄上すごいと言われたいっていう欲はある。
けど、友人がやりたいと言うなら歓迎しよう。
手はあって困らないんだから。
「それじゃ、手伝ってもらおうか。暗号思いついたり、仕掛けの案があったら教えて」
そう前置きをして、僕は現段階で考えてることを説明した。
「とある場所に、錬金術の書を隠す。そしてそこに通じる暗号をラクス城校に残すつもりだ」
「とある場所も気になるが、その錬金術の書はアズが書いたのか?」
エフィが書物について聞いて来る。
「うん、まぁ、軽く言うと、実は何か錬金術の成果ってわけじゃない。僕が触れることのあった錬金術の八百年の歴史について、ね。まだ作成中だし」
ようは、封印図書館から始まる、錬金術師の贖罪の旅の顛末を記したものだ。
南は途切れたと思ってたから、イー・ソンとイー・スーの情報を書き足す必要がある。
それに南からの贖罪の旅の人が辿り着いてないか、ヒノヒメ先輩のほうにも確認の手紙を出さなきゃいけない。
(そうなると、西のほうも気になるんだよね。イルメに聞いたらヒントあるかな?)
(知る内容は錬金術が残っていないという点のみ。どのように伝わったかなどは知りません)
すでに思考読んだ後のセフィラが、イルメが錬金術の歴史という話を他としている間に、こっそり教えてきた。
ただそうなると、ロムルーシみたいに行ければいいんだけど。
今のところ予定はないし、作れる余裕もなさそうだ。
そもそも種族はエルフだけど、大陸西のエルフの文化圏から来てるエルフが僕の周囲でイルメだけなのが問題なんだろう。
何処かで情報源になりそうな人捜してみるのも一つの手だ。
「錬金術の歴史って、学園の錬金術と帝都の錬金術が違うとかそういう?」
ラトラスが、錬金術科でも教える内容とは別のことだと正しく推測する。
イルメも頷きつつ、切り替えるように言った。
「それはそれで興味深そうだけれど、いいわ。貢献して隠す前に見せてもらえるよう努力しましょう」
ウー・ヤーとネヴロフは僕の削る遊戯盤に注目する。
「こういう細工なら手伝えることはありそうだ」
「こんな小さいヒントどれくらい仕込むんだ?」
「今回の行事で思ったより多くの学科と交流する機会ができたでしょ。その間に仕込めるところには小さく手早く仕込んでいく予定だよ」
その上で、僕が狙うのは封印図書館に通じる謎解きも仕込むこと。
ルキウサリアの国は秘匿状態だけど、技術は表に出して使ってなんぼなんだ。
だったらその内秘匿もしていられなくなるし、ルキウサリアもそこは見通して僕から話しを聞いてる。
なら、この学園でずっと維持された錬金術科にも、わかるようにヒントを置いてもいいだろう。
どうせ使うことになるのは、この錬金術科の卒業生だ。
だから、錬金術科の何処かにギミックを仕込みたい。
「ここは以前、城の外壁だった。だから窓を大きくしたり、反対に塞いだり改装がされてる。以前は上下に物を運ぶ穴があったとか。そういうかつての施設の痕跡を使って、仕掛けを隠すのも面白いと思うんだ」
もちろんこの錬金術科だけじゃなく、ラクス城校にも増改築でできた隙間や使われてない設備がある。
それはすでにセフィラがこの二年で調べて、使えそうなものもピックアップしてた。
(…………なんかセフィラって、夜中にお城を探索するの趣味になってない?)
(主人が止めたため、ルキウサリアの王城を走査するのは、主人と来訪した日中に限ります)
そういうことじゃないんだけど。
ともかく僕が寝て暇な夜間、セフィラは学園に行って色んな所覗き回ってる。
最初は研究室とかにある書籍を走査することをしてたんだけどね。
なんか半端な研究資料が多すぎて、収集しても先が気になるばっかりで面白くなくなったそうだ。
(あれかな? 楽しく読んでた小説が未完だったみたいな。あんまりそれが続くから、読む気が失せるって聞いたことがある)
(近しいことを肯定)
(あと、やっぱり他人のラブレター見つけて、僕に読み上げるのやめて)
(何故片思いのまま、書いた手紙を渡さず隠すのか意図が不明)
そりゃ、秘めた思いとかそういう感傷からだろう。
というか、宮殿で不倫だとか一夜の火遊びだとかして、やり取りされた手紙との違いはわかってるっぽいな。
うん、これもセフィラに情緒が育ってると思っていいかも?
それに今は文章漁るのに飽きて、建物を調べ回ることをしてるんだよ。
その中で、この外壁と側塔にも、使われてない地下が存在することを発見してる。
「楽しみだな! 教養学科と音楽科と美術のほうも理由つければ行けるし」
「リーウス校は学舎が違うから駄目ね。でも魔法学科からも人を呼び込めば?」
何処に隠そうかと考えるネヴロフに、イルメが隠し場所の候補を増やそうとする。
そこにエフィが、同じようにあぶれてる者に当たると応じた。
「魔法学科なら、俺が声をかけてみよう。だいぶ大人しくなってるしな」
ラトラスとウー・ヤーは仕込むメモを開いて、首を捻り始めてる。
「それで? この暗号はどういうものなの?」
「自分たちも作れるならやってみたいものだな」
「うん、説明するから待ってね。あと、一年かけて仕込むつもりだったから、焦って無理はしなくていいから」
落ち着けるよう言いつつ、僕もちょっと楽しくなってきた。
これは最後の学年としていい思い出作りになるかもしれない。
弟たちのために用意する楽しみとはまた違った楽しさがあった。
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