587話:春の行事2
ラクス城校は分校がいくつかあり、その中で騎士科や軍事系の学科はリーウス校という学舎に別れてる。
ラクス城校にも小規模ながら騎士科は残ってるらしいけど、そっちは儀仗兵なんかの実戦想定してない行儀見習い的な学科だというのは、リーウス校の学生談。
そのリーウス校の学生は、春の行事のパレードで、あぶれた学生だけでできる出し物を考えてほしいと相談に来た。
どうもリーウス校は実力主義で、選抜されなければ裏方。
その裏方からもあぶれてしまう生徒は毎年いて放置。
けど僕の所に回されたのは、最終学年までそんな扱いは嫌だと足掻く生徒たちだった。
「あー、腕試し仕かけて来たのも、他よりできるところ見せるためってこと?」
指揮官役で喧嘩売ってきたリーウス校の学生は、大きく口を曲げて黙り込む。
けど否定もないなら、パレードでやることないまま放置されることが決定してるし、少しでも目を引こうという意図は確実にあっただろう。
結果負けちゃってるから、悪印象しか残らなかったけど。
それで諦めずに、今度は音楽科に声をかけに行く行動力は評価してもいいかもしれない。
結果的に負けた相手に回されちゃってるけど。
「今の時期ならまだ、人員を揃えて練習する時間もある。だが、学内の目ぼしい場所は既存の催しが行われ、パレードのような大掛かりな催しは差し込む当日の猶予はない」
指揮官役やっただけあって計画性があり、人を集められるっていう人望もあるっぽい。
「だから音楽科のほうに、加えてもらえないか交渉に行ったわけか。うーん、君たちは目立ちたいの? それとも何かをやったっていう実績がほしいの?」
「実績だ」
僕の質問に迷いなく答える。
つまりこれは、卒業見込んだ実績作りか。
特に身分とか聞いてないからどの辺りかわからないけど、確か軍関係とか騎士って、いいところの出でも継承するものがない三男四男とかって聞いたな。
家を頼れないから学生の内に実績か。
前世の就活を思えば、自分でやって活動アピールとかしないといけない感じ。
その上で、悪名もある錬金術科は狙いめだろうけど、その意識も変えておきたい。
「実績がほしいなら、行事で何かを運営したっていうだけでもいい。ただそれだと、他と被る内容やるだけ、規模は小さくなるし人目も引かない」
「確かに、そうだ。だから少しでも人目を引く場を選びたかった」
僕の指摘に、現実的に手段を思い描けてなかったリーウス校の学生たちはたじろぐ。
それを見てた僕のクラスメイトたちも考え始めた。
「自分は何も思いつかないんだが、何かあるか? 場所もない、時間もない、加わることもできない」
「他と被らない前提なら、パレードはないだろう。一番の花だ。その上で実績と言えるものか」
ウー・ヤーが聞くと、エフィも考え込む。
するとネヴロフが、過去二年でみた行事の様子から疑問を挙げる。
「けど人目を引くことやりたいんだろ? ならもっと馬使って別のことするとかか?」
「うーん、確かに馬は目立つね。でも他がやらないことって言ったら、馬の曲乗りとか」
ラトラスが言うのは、手綱を使わずとか、馬の背中でアクロバットするとかの曲芸。
けどそれにイルメが首を傾げる。
「それは、この学園を訪れる者に受けるかしら? 卑俗だと嫌われる可能性があるわ」
曲乗りを検討したリーウス校の学生たちの反応も良くないし、難しい技術なんだろうな。
あと卑俗って言うくらいには、偉い人がやるもんじゃないって感覚だろう。
もちろん僕もそんなの推したりはしない。
「望む方向とは違うだろうけど、実績だけならできることを君が言ってたんじゃないか」
笑えば、指揮官役の学生が肩を跳ねさせた。
けど思い当たらないらしく、すごい負けたような顔して聞いて来る。
「何を、指しているの、だろうか?」
「なんて言ったっけ? レックス? そんなに有名なゲームなら、学生大会とでも銘打って、参加者を募って観客を呼べばいい」
前世でもゲーム実況はよくあったし、大会もあった。
それこそ、見たこともないゲームもあれば、ボードゲームやカードゲームも色々。
面白がって見る人は一定数いるから、ゲーム実況っていうジャンルにもなったはずだ。
だったら、こっちだってゲームの行く末を眺める楽しみを持つ人はいる。
その上貴族だったら知ってて当たり前みたいな反応だった。
「外での催しが多くて場所がないなら、屋内なら大きい部屋も取れるだろうし。道具さえ揃えれば何人いてもいいし。審判役ができるくらいゲーム知ってる人員も募りやすい。学生が参加するなら、その父兄は様子見にくるだろうから、全く閑散とすることもないと思う」
僕は利点を挙げつつ、前世のゲーム実況を参考に必要な人員も挙げる。
「知らない人向けに解説役を据えてもいいし、面白いゲーム盤面があれば、取り上げて観客に聞かせるのもいい。後は、実況とかしてみる? 注目が集まりそうなゲームの強い人が、今どんなゲーム運びしてるかを聞かせるんだ。これはちょっと語りの技術いるだろうけど。はまれば盛り上がりに寄与できる」
前世のゲーム大会やスポーツ大会でも、実況と解説はセットだった。
直接覗き込むことができない状況なら、観客にアピールする役は必要だ。
「とまぁ、言ってみてもね。僕はそのゲームをやったことないから合ってるかはわからないけど」
って最後に距離を取ったら、リーウス校の学生たちが驚いたように僕を見る。
そして知ってるはずの指揮官役の学生が思い出したように呟いた。
「あ、そうだ。確かに王手を聞いたこともないと。え、だったらどうして、そんなに?」
「そういう反応が返って来るなら、全く的外れでもないみたいだね」
知ってて助言するなら何も不思議はないけど、全く知らないとなるとそうなるか。
知らない上に、手を放すようなことをしたせいで、リーウス校の学生たちは不安そうだ。
けど自分の催しにするなら、これ以上はねぇ。
そもそも音楽科の先生から回されたけど、僕はなんの承諾もしてない。
なんて思ってたら、ネヴロフが僕の肩を叩く。
「なぁ、アズ。俺らも錬金術でなんかできないか? 手伝い疲れるばっかで楽しくねぇんだよ」
それにラトラスが大いに頷いた。
「わかる。騎士科も魔法学科も偉そうな奴らに顎で使われるばっかりでさ」
どうやら春の行事は、身分のない生徒にとっては楽しくないものらしい。
それにイルメとウー・ヤーも賛成の様子だ。
「どうせなら有意義にしたいものね。こちらでもゲームを主催してみるのはどう?」
「それなら構造体を作って、腕相撲はどうだ? 回転の力を使ったものがけっこうな強敵にできる」
ウー・ヤーが言うのは、転輪馬からの応用だろう。
部品作りとかに工房の人手使ってるし、テスタのほうから聞いたんだろうな。
前世で見た実験動画では、一センチあるモーターの先端の回転で、一メートルの円盤を回すことで、モーターの力を何倍にもする様子が映ってた。
かかる力は円周に比例するって話だっけ。
「それで、アズは俺たちに助言はないのか? 期待されてるぞ」
エフィが教室の扉を指すと、そこにはいつの間にか後輩のイデスと新入生のハルマ。
このペアってことは、鍛冶関係かな?
あと後輩のポーと、新入生のシレンもいる。
ポーは目が合うと手を挙げて、遠慮なく用件を告げた。
「はいはーい! 俺も錬金術科でパレード参加したいって言いに来た、です!」
オリエンテーションからこっち、ポーはやりたがりに火がついてる感じだ。
「あー、それじゃ…………、小雷ランプ使って、夜のパレード企画してみようか? 夜だから安全面と騒音を考慮して、小規模でも言い訳は立つ。その上で、光量は確保できるから、わざわざ夜仕様のものを新たに用意する必要も薄い。あと、日中は予定目白押しだろうけど、夕方から夜にかけては誰の邪魔もしない」
パレードは学外から始まって学園に到着すると終わり、その後は学内で催しが始まる。
だったら、夕方から学外でパレードして、夜に学内に戻ればバッティングはしない。
そう言ったら、シレンがすぐに応じた。
「っす、お手伝いします」
「気が早いよ。この規模でやるなら、騎士科や魔法学科であぶれるっていう人たちにも声かけなきゃだし。そうなると先生からの許可もいる」
で、あぶれてるリーウス校の学生を見ると、すぐさま返事がある。
「やる! やらせてくれ! 小雷ランプというのはあの夜間についてる妙な街灯だろう!? 作れるということか?」
「あれ、まだ学内の街灯が錬金術って浸透してないのか。だったら浸透させるためにも、やる意義はあるね。僕たちは作り方知ってるけど、新入生に改めて教えることもできるしいいかもしれない」
もしかしたら他学科からすれば、いつの間にある街灯程度の認識だったかな。
それは悲しいので、ここで錬金術だってことをアピールするのもいい。
「あ、裏方嫌がる人って、高位貴族が多い教養学科にもいそうだよね? ゲーム大会やらないなら、教養学科に持ち込んでみようかな」
音楽祭でも運営的なことしてるって聞いたし、向こうの方がスムーズに運びそうだ。
僕がそう決めると、それまで黙って見てたハルマが呟く。
「なんとも、すごい方ですね、アズ先輩は」
「そういう先輩です。あの方が特異なだけですから」
イデスの説明に、クラスメイトたちと後輩は揃って頷く。
なんかリーウス校の学生たちまでそうなんだって顔してた。
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