584話:弟の派兵準備4
弟の派兵準備で、僕はユキヒョウ先生に地伏罠を持ち込んだ。
けどそこに乱入したのは、魔法学科の研究者。
ヨトシペの身体強化の魔法を呪文で再現した人で、なんか錬金術科に思うところがある人だとか。
けど、研究者だから可能性を見せられると止まれない人だとも聞いてる。
そんな研究者が啖呵切って、錬金術科と魔法学科の腕試しが行われた。
鼻息荒い研究者の隣には、以前錬金術科にまで足を延ばしてエフィに喧嘩売ってきた魔法学科の生徒もいる。
けどその後ろのほうで小さくなってるのは、呪文作りの時にけっこうな天然を発揮してた助手の女性だ。
腕試し形式だけど、相手は学生じゃないからこっちも適当に人を集めてる。
「はぁ…………。アズ、説明」
強引に引き込んだエフィが溜め息吐いて、雑に僕に説明を求めて来る。
うん、今日いきなり連れてきたからね。
ちょっと手を貸して、で来てくれただけエフィは有情だ。
「魔法でできることは錬金術でできるって言ったら怒ったから、じゃあ、火力勝負でもしましょうかって」
「じゃあの意味がわからないな」
こっちは事前に声をかけてたんだけど、ウー・ヤーが大きく頷いて否定してくる。
同じく事前に声をかけたネヴロフは、全く気にせず笑った。
「なんでもいいだろ、面白そうじゃねぇか」
ただ残りのイルメとラトラスも今日声をかけた側で、呆れ顔だ。
「学生から勝負を挑まれることはあったけれど、まさか魔法学科の研究者を引っ張りだすなんて」
「そうだよね、なんで研究者がって思ったよ。けど、うん。理由はわかったかな」
「学生のほうが思いのほか人望なくて五人集められなかった上に、教師からの承諾も得られなかったから?」
「聞こえてるぞ生意気な錬金術科の銀髪!」
僕の説明に怒鳴るのは、卒業したはずの上級生。
どうやら学園関係に就職して残ってたらしいと、今日知った。
それだけ腕か伝手は良かったんだろうけど、人望はなかったみたいで、結局卒業までに腕試しを挑んでくることはなかった人だ。
「錬金術科のせいで、卒業間際に退学なんてさせられた学生がいたせいだ! 俺の人望がないからじゃない! お前たちの悪評のせいだ!」
「退学? 馬鹿なことしてたアクラー校の魔法学科かな? なんにしてもそれは学園の判断であって、僕たちの悪評というのは飛躍でしかありませんよ。そんな言いがかりをつける程度だから、誰も賛同しなかったのでは?」
「煽りますわね…………」
僕の反論に、後輩のウィーリャが引きぎみに呟くのが聞こえた。
錬金術科は参加者以外もみんな見学に来てるから、後輩たちがいる。
そんなウィーリャに、親戚の新入生ツィーチャが無邪気に聞いた。
「お姉さま、私たちが入る前にも竜人と火力勝負をなさったそうですわね」
「あの時は、残念ながら負けてしまいました」
後輩のショウシが控えめに応じると、それを聞いて調子に乗る魔法学科の元上級生。
けど実際に参加した竜人のアシュルは、呆れた様子で元上級生を見る。
「堂々正面から挑んでいたなら、こんな負け戦を押しつけられることもなかったのである」
「ねぇ? 僕たちも参加したかったのに。今回急だからって先輩たちだけだなんて」
腕試しがあれば参加したいって言ってたポーが不満そうだ。
けど今回は本当に火力一点勝負で危ないからね。
そこにユキヒョウ先生たちがやってきた。
一緒にいたから巻き込んで、審判役してもらうことになったんだ。
その上で持ってきたのは、魔法学科が訓練で使う案山子のような的の人形。
「はーい、それじゃこれが的ね。俺たちが事前に仕込みがないことは調べましたー」
「で、お互いに今から的を調べ直してね。そこで不正したら失格だから変な動きしないでぇ」
イール先生とニール先生が、二手に分かれて僕たちに人形を見せにくる。
言われて僕らと相手の魔法学科は、的の人形を調べ始めた。
その間に、黒いユキヒョウのイール先生が相手側の情報を教えてくれる。
無y公は、言い出した研究者が声をかけて火属性の魔法が得意な人を募ったそうだ。
そこで手を挙げたのが、例のエフィを使って名を挙げたかった元上級生。
研究職に就くくらいには頭が良くて、魔法も得意だけど、兵になるには体力筋力がない感じらしい。
「調べ終えたらルールの説明だ」
ほぼ錬金術科の引率状態のヴラディル先生が言う。
もちろん、ウェアレルもいるけど、今回は魔法学科側の見守り教師役。
「錬金術科は複数で錬金術の道具を使って火を起こします。魔法学科も複数で魔法を使って火を起こすことも可能ですが」
「補助一人でも過分だがな」
研究者が、事前説明があった、道具の代わりに補助の魔法使いの存在に得意げだ。
そして補助に当てられた助手の女性がげんなりしてる。
ただここで巻き込まれる程度には、魔法の腕がいいんだろう。
勝敗は、遠くに設置された的人形に火を当てること。
それと同時にどれだけ燃やせるかが勝敗に絡む。
目算としては五十メートルは先に置かれてる。
普通に魔法使うだけじゃ届かないくらいで、相当な技術と魔力が必要になるだろう。
「ねぇ、道具をアズとウー・ヤーとネヴロフが造って、実際に使うのはエフィとイルメで、俺いる?」
ラトラスはそう言うけど、すでに道具をここに運ぶために荷車出してくれてるから十分いると言えるんだけどね。
何せ持ってきたのは、金属の塊。
またの名を、赤炉だ。
準備をする僕たちを見て、イデスが不安そうに胸の前で指を組む。
「あんなに近くで防火対策もせず、大丈夫かしら?」
「え、そんなに危ないのか?」
聞こえたタッドが逃げ腰になったようだ。
逆にそれを聞いて、何も知らない新入生たちは前のめり。
後輩たちは揃って安全確保に固まるって、ずいぶん対照的だ。
「うーん、経験の差が出るな」
「危険行為がないよう、ちゃんと見ていなさい」
ヴラディル先生が後輩たちの動きに笑うと、ウェアレルが注意する。
うん、ウェアレルは僕たちが持ち出した錬金術に対して警戒する側だね。
僕たちは道具の調整が終わって、元上級生も呪文の詠唱が終わって待機。
各々準備完了の合図で、ユキヒョウ先生たちが声を揃えた。
「「それじゃ、始め!」」
瞬間、元上級生は杖を前に突き出して火炎放射を放つ。
補助の助手の女性は、邪魔しないよう、また火力が拡散しないように、火炎放射周辺に薄く火を放って熱風を操ってるらしい。
威力も強いし、補助も的確。
魔法使いとしての腕はどちらもいい。
「けど、こっちよりも火力は下だ」
言って、僕は赤炉の中へビーカーに入ってた赤い靄を放り込む。
そしてこのために弄った赤炉に火を入れて稼働。
イルメがすぐさま風の魔法を錬金炉の中に送り込んだ。
同時に吹き上がった火は、風に押されて前方へと放出された。
それをエフィが魔法で操る形で、的の人形へと向かわせる。
「何て心躍る火力なのでしょう」
「竜人の感性は独特だな…………」
珍しく目を輝かせるクーラに、トリキスが熱波から顔を庇いつつ言う。
そうしている間に、僕たちの火炎放射は的人形に届いた。
けど表面を撫でるだけで、上手く当たってる気がしない。
「く、安定しない。アズ、向こうのように補助をしてくれ」
「いや、一度魔法を解いてやり直したほうがいい。エフィ、炎で渦を作るんだ。そうすることでイルメも炉の中に空気を入れて炎を送り出しやすくなるはず」
「えぇ、そうかもしれないわ。私も渦を意識するから、エフィも流れを合わせて」
一度魔法を解いたことで、赤炉からはただの猛火が溢れる。
一瞬、魔法学科のほうに喜色が浮かんだ。
けど炉の中から溢れて轟々と燃える火に若干引きぎみだ。
つまり、魔法だとここまで盛大に燃やせないってことだよね。
本当、この赤い靄、何を燃料に燃えてるんだか。
謎が残る分ちょっと怖い。
なんて僕が考えてる内に、赤炉の金属口を閉じたネヴロフ。
ウー・ヤーは鉤を用意して、金属の口を開ける準備をする。
イルメとエフィは息を合わせて、また噴き出す炎を操った。
渦を巻いて直進する炎は、迷わず的人形に走る。
そのまま吹き付けると、今度は熱波と共に吹き飛ばすように燃やしていった。
「おぉ、勢いは完全にこっちだし、温度もこっちが上だね。髭燃えそうな勢い変わらないけど、向こうはもう体力尽きそうだよ」
今度はラトラスが、息切れする元上級生を指して喜色を露わにする。
元上級生は火力を維持するために、魔力を噴き出すように使ってるんだ。
それだけ負担がかかる中、こっちは火を起こすこと自体は赤炉任せ。
見るからに魔法使いの負担が段違いで、研究者も目を剥いてる。
「「そこまで!」」
ユキヒョウ先生たちが声を上げると、諦め悪く元上級生は魔力を絞り出す。
けどそんな悪あがき意味がないくらい、勝敗は明白だった。
何せユキヒョウ先生たちが止めたのは、僕たちが燃やしてた的人形が崩れ落ちるほどに燃え尽きたから。
元上級生のほうは、燃えてはいてもまだ確かに形が残ったまま。
そして魔力を絞りつくしても及ばなかった結果を見ることなく、元上級生は崩れ落ちていた。
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