581話:弟の派兵準備1
入学式も終わって、雪国のルキウサリアにも春が来る。
そうなると帝国にも春が来てて、動きがある季節だ。
僕は今年も午前は皇子として動くため、今日はルキウサリアの王城に来てる。
皇帝である父から連絡の予定が入ってるんだ。
「ようこそおいでくださいました。予定時間より少々の暇があります故、どうかこちらの小雷ランプについてご指摘のほどを」
もう三年目になると、顔見知りになった魔導伝声装置の管理を任された人が、慣れた動作で応接用のソファに案内する。
そして机に並べられるのは、情報技官が作っただろう小雷ランプの基盤だ。
魔導伝声装置を理解するために作るように言った結果、日々少数ながら生産し続けてるのは聞いてた。
回路のような基盤を作るのもそうだけど、真空管を作るために風魔法で真空を作るって言うのが、けっこういい修練になるそうだ。
「うん、だいぶきれいに作れるようになったね。…………これらさ、作ってどうしてる? 使う場所とかあるの?」
僕は、隠れるようなこの部屋に据えられた魔導伝声装置を見て聞く。
ここにある小雷ランプは、片手で持てるくらいの大きさのものだけ。
学園に設置してる街灯に使うものより小さいし、その分灯りも弱くて、手持ちのライトくらいのものだった。
「ご覧のとおりこの地下を照らすには重宝しております。あまり光が強すぎても、外部から注目を集めてしまいますので。もちろん大きなものも作ることはしています。しかし、二人以上で息を合わせて真空を作る作業の成功率が低く、ガラス管を破損するほうが多いのです」
僕も学園で、小雷ランプを作って街灯として設置してる。
だからウェアレルとヴラディル先生が、当たり前に真空管づくりを成功させる姿を見た。
あれ、けっこう高度な技術なのは、エルフのイルメが難しいって言ってたからわかってたけど、改めて失敗のほうが多いことを聞いて、僕の家庭教師のレベルを知る気分だ。
あくまで修練なら、地道にスキルアップするしかないってことを助言。
さらに基板から理解して、魔導伝声装置の改良に関しての話もした。
そうしてる間に連絡の時間が来て、父からの入電があると、情報技官たちが緊張を高める。
「ルキウサリア国王陛下のお耳にも入れる予定だから、見ていいよ」
僕は父からの知らせを、目の前の管理官に見せた。
書かれてるのは、テリーが東の反乱鎮圧のため派兵することが半ば決まったという報せ。
管理官は一度僕を確認して、連絡内容を書いた紙を返す。
僕が動揺してないから、すでに冬にテリーが来た時、話はついてるのを悟った様子だ。
そうでなくても、すでにレーヴァンが帝都へ錬金術の伝声装置を持って帰ってる。
それでテリーからも、派兵が決まりそうだというのは僕も聞いてた。
「で、今日はハリオラータ経由で得られたシャーイーの情報を送る。そのつもりで、情報管理は任せる」
「…………かしこまりました」
ここも機密、そしてハリオラータも機密だ。
さらに言えば、どちらも国際情勢を変えかねない内容って言うのが面倒なところ。
少なくともこの管理官は、ハリオラータ捕縛やその処遇について、僕が関わってることは知ってるようだ。
「ルキウサリアにとっても悪い話じゃない。ハリオラータには技術がある。けどその技術を作った者こそが、この派兵に使われるハリオラータ提供の兵器を無力化する」
「すでに決めておられるのであれば、何も言うことはございません」
特に僕と父のやり取りに口出しはしないらしい。
その上で深くも聞かないのは、管轄範囲外だからか、それとも知ってる話だからか。
なんにしても、返事の文面を渡せば内容は確認した。
中には、ハリオラータからの情報として、シャーイーに地伏罠の改良版が流れてることが書いてある。
地伏罠自体は、ソティリオスとルキウサリアに帰る時に掘り出して帝都に送ってあった。
体裁としては、ハリオラータを捕まえた中で出てきた情報っていう態だ。
実際のところは、僕がそうするようハリオラータの頭目動かしたんだけど。
「この、開発者というのは何者でしょう?」
「知らない? 元は九尾の賢人たちから盗まれた技術が悪用されててね。本人たちもとても怒っていたから、近々その開発設計図が研究室に送られて解明される」
「これから、ですか」
管理官は短く呟いてそれ以上は聞かない。
送る文言にはすでに解明済みとなってる。
なのに、解明作業はこれからだと僕は言った。
そこに欺瞞があることはわかっても、言わない分別はある。
経過は前後するけど、まぁ、結果は同じだし、ここで口をはさんでも意味はないけどね。
地伏罠の改良版がハリオラータからシャーイーに流れる。
けどその機構はすでに解析済み。
そして派兵前にその情報は帝都に送られて、テリーの助けとなる。
「あぁ、そうだ。今なら魔導伝声装置の通信距離の実験の一環で、情報技官を同行させるのもいいんじゃないかな」
何せルキウサリア側の魔導伝声装置は、一度ロムルーシに持ち出しての実験をしてる。
けど帝都側はやってない。
地形が通信状況に影響することはわかったんだし、さらにデータを集めるためにも、帝都の情報技官もやったほうがいいと思う。
目を向ければ、管理官は考えるように視線を下向けてた。
「ロムルーシ間での実験の概要と結果は、共有しております。しかし、今も帝都側で長距離の実験をしたとは聞き及んでおりません」
「うん、さすがに山脈越えは無理でも、長距離に持ち出す理由ができることなんてそうないし。向こうの関係者もやる気あるみたいだったからきっとやりたいよね」
否定の言葉はないから、僕はさらに送る文言をこの場で書く。
うん、小雷ランプが細々設置されてるお蔭で、以前よりも書き物がしやすい。
けど小雷ランプ、こっちでは失敗もあるけど、余ってるっぽいんだよね。
ちょっとこっちで使う機会探ってみるかな?
学園だったら使う機会多いと思うし。
そしたら錬金術科の有用性も、浸透してくれるなじゃないかと思ってる。
「お返事をこちらに」
情報技官から受け取った書記官が、僕に帝都からの返事を持って来る。
今日は情報技官も書記官も、どちらも男性だ。
そして相変わらず情報技官はすごく疲れてて、男女での差はなさそう。
「あんまり改善はできないかぁ」
「いえ、あれでも以前より負担は軽減しております」
すぐに管理官が答えた。
聞けば、体感的に情報技官たちからはましだとの声が集まってるそうだ。
魔力を溜めることと、その魔力を使う効率化、そして回路を知ったことで、魔導伝声装置に魔力を流す際のコツも掴む者が出てるとか。
真空管で風魔法に関する技術の向上も見られるから、個人差はあれど、魔力を回復薬頼りで絞り出さなきゃいけなかった初期よりずっといいそうだ。
(主人の音の共鳴を利用した、水晶の共鳴に関する魔法理論を深めることを推奨)
(あぁ、周波数の話? 確かにウェアレルがそれを利用して水晶の共鳴を数値化して増幅できないかってことを考えてたね)
三年の間に、ウェアレルも魔導伝声装置の改良には手をつけてる。
もちろん僕も口を出したりしてるし、セフィラも興味を持ってた。
(けどそれ、まだ構想段階だ。ここに持ち込んでも半端なものはなぁ)
(集合知に期待します)
三人寄れば文殊の知恵とかいうやつかな。
確かに教師と僕の世話をしてるウェアレルだと時間が足りない。
僕自身は魔法よりも錬金術に注力したい。
だったら専門にやる個々の人たちにも考えてもらうのはありかもね。
(けどそれ、ウェアレルが交渉材料としてまだ温めてる段階だから駄目だよ)
(すでに魔導伝声装置に関わる人員で、主人を下に置く者はいません)
いや、確かになんかありがたがられてるけどね。
僕が影響力強めても、そもそもウェアレルの発明なんだから。
その本人が使いどころ考えてる今、僕に邪魔する気はない。
僕はセフィラの提案を、ウェアレルと要相談ってことにして脇に置く。
そうして手元に持ってこられた帝都からの返事には、やっぱり派兵は夏頃という内容。
「じゃあ、返事と一緒にこれもお願い」
僕はさっき書き出した長距離実験の提案の具体的な概要を添えた。
相変わらずやり取りできる時間は多くない。
それでも確実に繋がるのは早くなってるし、以前よりも文字数多くても負担は軽くなってるらしい。
「できればもっと気軽に連絡したいけど」
派兵されるテリーを思い浮かべて、そんな言葉が漏れる。
しっかり成長した弟は、正直僕よりも皇子らしくなってるんだ。
それは素直に頼もしい。
それでも僕にとっては年下の弟なのは変わりない。
心配だったり、不安を想像したり、大手を振って助けたい気持ちはずっとある。
そのために錬金術の伝声装置をテリーが持ってるのは心強いけど、比較して魔導伝声装置のほうの手間が目についてしまった。
「改良にご意見があるならば、お聞かせください」
僕の呟きに、管理官だけじゃなく、書記官も即座に紙とペンを構える。
違うって言っても遅い感じだ。
しょうがなく、僕は音を反射して増幅するっていう話を聞かせることになった。
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