579話:三回目の新学期4
新入生へのオリエンテーションは、思ったより早く始めることができた。
後輩の提案を僕がまとめて、教師に提出。
ちょうどいいから、錬金術が何かわかってない新入生に早い内に体験させようってことでゴーサインが出たんだ。
後輩がせっかく出した案だし、僕は全部採用してる。
そのために調整や追加も本人たちと話し合って、納得できる形にできたんじゃないかな。
「はーい、今年は錬金術の謎解き競技をしてもらいまーす」
僕は校舎の一階廊下に集めた錬金術科にそう話した。
僕の後ろには後輩たちがいて、向かいにはクラスメイトと新入生だ。
廊下は広くないから二人が並ぶ形で列を作ってるけど、途端にイルメから発言を求めての挙手をされて疑問が飛ぶ。
「何故そちらにアズがいるのかしら?」
「勝てない相手なら引っ張り込もうっていう、後輩たちの柔軟な発想の結果だね」
僕の答えに、ウー・ヤーとエフィが眉を上げた。
「確かにアズがそちらだと、難度が格段に上がるな」
「一番対策が面倒な奴を味方に引き入れるとは、考えたな」
「言い方に棘があるけど、説明を続けるよ」
ちなみにネヴロフとラトラスは、そっちが良かったなって顔してる。
謎解き嫌いじゃないけど、競うよりも楽しみたいタイプだから、こっちのほうが面白そうに思ったんだろう。
残念ながら、今回は後輩のほうが対応早かったんだ。
僕は小雷ランプが設置されて、防寒のために窓を閉め切ってても明るい中続ける。
「それぞれ新入生とチームを組んでもらって、一組ずつ校舎の中を進んでいくんだ。途中の教室に設置した八つの問題に解答してもらって、正答と解答者によってポイントが割り振られる。全員が問題を解いた後で、合計点が一番多かったチームの勝ちだ」
最初の説明を終えて、僕は後輩に譲る。
そこから始まるさらに詳しい説明はこうだ。
入試のように、それぞれの教室の中に実験道具が設えられている。
そこにいる後輩から出題される問題に答えて、回答内容に応じた点数を表すスタンプをもらう。
そして次の後輩が待つ教室へ移動し、上級生と新入生のペアで問題を解いていくんだ。
答えが正しいかどうかは、全部終わらないとわからないから、また全員揃って答え合わせと優勝者の発表となる。
「えぇ? その場で答え教えてくれねぇの?」
ネヴロフが思ったことをすぐに言うから、クラスメイトとして僕が対応した。
「新入生と一緒なんだ。先輩として後輩が用意した問題に、これが正解だって説明できなくてどうするの?」
「え、なんかいきなりすごい俺らのハードル上げられたんだけど?」
ラトラスが途端に猫の耳を下げる。
けど他のクラスメイトも、状況を知って緊張を漂わせ始めた。
なんか、ぼそぼそ絶対アズの発案だとか聞こえる。
これは意地悪とか足を引っ張る罠とかじゃなく、普通に新入生のオリエンテーションとしての調整なんだけどなぁ。
僕は内心でぼやきつつ、後輩に説明を続けるように促す。
次に話すのは、ポイントの振り分けについてだ。
正解が一番ポイントが多いのは当たり前。
けどそこに、新入生が回答することで得られるポイントがあることを告げる。
「おー、つまり上手く先輩は新入生をサポートすることで点数稼げって話ね」
工夫された配転基準に、ウィレンさんが感心した声を上げた。
ちなみに、新入生のほうに並んでるし、僕たちが提出した計画案は見せていない。
何せ僕たちの学年は六人で、僕が抜けて五人になってるんだ。
七人いる新入生と組むには、人数が足りない。
ただ新入生には、二人一組のイー・ソンとイー・スーがいる。
だから女性でイー・スーを補助できるってことで、ウィレンさんにも参加してもらうことになった。
「うん? ポイントをスタンプするという紙には、九つのマスがあるぞ?」
エフィが、後輩の配るポイントカードを見て言うと、ラトラスが猫の髭を揺らす。
「あ、もしかしてアズも何かするの?」
「正解。僕は誰が正解してもポイントになる問題を用意してる。もちろん後輩に答えさせることでの加点もあるけど。挑戦するかどうかは君たち次第。もちろん、相応に難しい問題用意してるから、簡単に解けると思わないほうがいいよ」
ちょっと煽った途端に、イルメが挑戦的に笑った。
「言ったわね? それなら解けるまで粘るまでよ」
「おっと、もちろん一組ずつが挑戦することで時間には制限がある。僕の所にくるのが遅すぎて、一定時間経過してしまっていたら、挑戦権はなしだ。あっても、熟考するほどの時間が残ってるかは、みんな次第になる」
まだ説明されてない部分を明かせば、エフィが眉間を険しくした。
「お前、とんでもないプレッシャーのかけ方をして…………」
「ゲーム性を高めるには、それくらい必要でしょ?」
僕の言葉に、ウー・ヤーは首を傾げる。
「どうしてアズは、毎度新入生に性格の悪さを印象づけるんだ?」
「そんなことしてないよ!?」
毎度って、去年はわざとなところあるけどさ!
それはそれで言い訳のしようがないかもしれない。
僕はこれ以上あらぬ疑いをかけられる前に進める。
「ともかく、チーム決めはくじ引き。顔見知り同士もいるから、指名にはしないよ」
例外は、身体接触があり得る介助必須のイー・ソンとイー・スーで、そこはウィレンさんと組んでもらうことが決定してる。
すると他がくじを引く間に、イー・ソンがウィレンさんに聞いた。
「去年何をしたのだ?」
「あ、それ俺も気になるっす」
くじ引きしなきゃいけないシレンまで反応してる。
面白がって話すウィレンさんの声を聞かないふりで、僕はくじを急かした。
「じゃ、最初の組は先生がいいって言ったら入って来てね。さ、僕たちは位置につくよ」
後輩を急かして校舎内に退散だ。
合図役のヴラディル先生は手を挙げて見送ってくれた。
僕たちは中へ入り、後輩は各教室へ散っていく。
僕の問題は最後だから、最初の問題から後輩たちを確認して回ることにした。
「タッド、準備はいい?」
タッドは空気の膨張に関する問題を用意してる。
最初は、どれだけシャボン玉を大きくできるかを競う可愛いものだった。
自分たちで空気の含ませ方や、シャボン液を作って競うって形だ。
それを僕が、シャボン液を使った空気の膨張を見せる実験に変更してもらった。
「本当に、これが最初でいいんですか? こんなただシャボン玉が膨らむかどうかなんて」
タッドは用意しておいたフラスコを手に不安げだ。
三つの丸底フラスコを、タッドは一つずつ固定して並べてる。
口を上向き、横向き、さかさまにした三つで、フラスコの口にはシャボン液が塗ってあった。
「簡単すぎると思う? それは結果を知ってるからだよ。理屈がわかれば一番。肌感覚で、理屈を知らなくても当たることはある。どうやって当てたのかをよく聞いてね」
「は、はい。それぞれを温めて、シャボン玉が膨らむのはどれかと聞くんすよね。で、温める例で、固定してないフラスコを、お湯につける。後は適当に新入生楽しませるためにシャボン玉作って遊ぶ」
言いながら、タッドは固定してない四つ目のフラスコを、用意しておいたお湯につけて一度確認。
すると、熱で中の空気が膨張し、フラスコの口にシャボン玉が膨らむ。
もちろん固定した状態でも固定してなくても、上向きに口の開いたフラスコは膨らむ。
最初だから、正解を必ず一つは当てられて、最低限ポイントは入る形だ。
で、シャボン玉で遊ぶのは、けっこうな上流階級がいるから、洗濯も何もしたことがなくて、シャボン玉を知らない時用のデモンストレーション。
僕としては最初の組、エフィとツィーチャという噛み合うのかわからない二人が落ち着いて考えられるかが気になる。
あと、タッドがけっこう気合い入れて大きなシャボン玉作れる枠を用意してたから、遊びすぎないよう釘を刺して置いた。
「さて、僕も準備をしないとね」
後輩たちの準備に問題ないと見て、先生には最初の組を入れてもらうよう、グラスの縁を棒で叩いて合図を出した。
僕は自分に割り当てられた教室で、一つ息を吐く。
「ま、煽ったのはブラフなんだけどね」
やる気になってたイルメや、呆れてたエフィも普通にやれば解ける問題だ。
しかも前世の数学問題を流用させてもらってる、穴埋め系の簡単なもの。
「ヒント、どれくらいがちょうどいいかなぁ? というかナンプレとか数独って、こっちだとなんていうべきかな?」
これは後輩たちにも一度見せただけで、答えは教えてない問題。
そして前世にあった、数字のパズルを改変したものだ。
正方形の中にマスを作って、そのマスの中に数字を入れる単純なもの。
けど、これが縦横斜め、何処の列を合計しても同じ数字になるという仕組み。
前世だと九かける九マスの内部だけで同じ数字になれば良かったけど、今回はもっとマスと足す数字のけたを増やした形。
(九マスでは簡単すぎるため、出す必要性は感じません。正方形に拘らず、左右対称の三角形を形作るマスを使った図形に数字を並べることでも合計を合わせることが可能なため、推奨)
セフィラが難易度上げようとする。
でも、イルメのやる気を思うとそれもいいかもしれない。
僕は最低十八マスから始めて、最大八十一マスからさらに、待ち時間の間に新たな数字のパズルを作り始めたのだった。
定期更新
次回:三回目の新学期5




