578話:三回目の新学期3
後輩に呼び出されました。
後輩たちは何も言わずにじっと見てくる。
まさか本当に校舎裏案件じゃないとは思うけど、なんだろうなぁ。
よくわからない状況ながら、僕は目の前の計画書に手を伸ばした。
「これは、オリエンテーションの計画書?」
「はい! 先生に頼んで俺たちがやらせてもらうことになって、です!」
ポーが麦わらのような色の髪を揺らして元気に答える。
それを止めるのは布の塊? いや、手からして竜人のアシュルだ。
寒さに弱いのに外に出て待つなんてするから、防寒に防寒を重ねてすごいことになってる。
「もふもふ、ぶもっふ」
ほら、防寒着が厚すぎて何言ってるかわからないよ。
なんて思ったら、普段よりも厚着だけど、アシュルよりましなクーラが口を開いた。
「まずは説明と共に話を秘密裏に聞いていただくことが先決、とアシュルさまは仰っています」
「今のそこまで長いこと言ってた?」
僕の突っ込みにウィーリャとショウシが気にせず続ける。
「人間のアズ先輩も寒さには弱いはずでしたわね」
「えぇ、他の方に聞かれないためにこのような場所で、申し訳ないですが」
「うん、みんな寒いならさっさと話を聞こうか」
ショウシはもちろん、トリキス、タッド、ポー、イデスの人間たちも外套の袷を押さえて震えてる。
ここ湖近いから風が冷たいんだよね。
平気そうなの、厚い毛皮のある虎獣人のウィーリャだけだ。
僕は計画書を手に話を進めることにする。
オリエンテーションってことは、僕がやった水鉄砲大会みたいなことかな。
あれは時期が遅かったから、本来これくらいに計画し始めるものか。
「今年は入学式すぐにやるつもりなのかな?」
「そもそも我々の入学時は、先生方も後回しにした結果でしたから」
トリキスに続けてタッドも先生に言われたことを告げる。
「聞いたら、入学式の後ならいつでもいいって言われて…………」
うーん、適当。
こういうのって事前に準備あるんじゃないのかな。
けど、忙しいヴラディル先生と、面倒なことはしたくないネクロン先生だとそうなるのか。
「で、君たちは自分から、オリエンテーションをしたいと言ったわけだ?」
僕が聞けば、寒い割にポーが元気に頷いた。
「だって、アズ先輩がルールは自分で決めろって言ってたから!」
「ぶもっふ、ぼふぼふ」
「そのために、私どもで話し合い、学年揃ってオリエンテーションのルールを決めることを考えたと仰っています」
また顔まで防寒着で覆ったアシュルの言葉を、クーラが代弁する。
口もほぼ開かないくらい覆ってるのが、声が籠る要因っぽい。
だけどそれはそれとして、文字数があわない気がするなぁ。
それでも、僕がやった騙し討ちみたいなルール決めから学んで、今度は運営側をやるっていうのが、後輩たちの動機らしい。
その上で計画書も書いたし、そのルールが漏れないように、こうして外で話し合いを計画した、と。
「それに、先日仰いましたでしょう?」
「これ以上のことができるかとお聞きになりました」
ウィーリャとショウシが揃って言うのは、九尾の貴人を相手にした後のこと。
後輩に挑まれた時に、負けを認めさせるための言葉として投げかけた言葉。
「もしかして、あの時はできなかったらから、今回はってこと? けど、それならなんで僕を呼んで、こんなものまで見せるの?」
計画書は、オリエンテーションの簡単な目的とどういう流れでやるかっていう内容。
まだ意見出し合って案を絞る段階だ。
けど僕に見せた時点で、そこに何を仕込むかは想像できるから、超えるには悪手だろう。
そう思ったら、トリキスとタッドが苦笑いで答えた。
「考えても、考えつかないことをされるのがアズ先輩ですから」
「だったらもう、こっちに引っ張り込んだらどうかってなって」
つまり、考えたけど僕を越える手が思いつかず。
というか、一回はめるようにして九尾の貴人の後に挑んできた結果、負けを認めることになってるから、そこから学んだ。
つまりこうして呼び出した後輩たちの目的は、僕の取り込みだった。
「…………面白いね」
僕の返答に、後輩たちは揃って息を吐く。
そこには安堵の色があった。
断られるなり、甘いって叱られるとでも思ってたのかな?
「できないならできる者を割り当てる。無理なことを無理だと認めて、別の手段を講じる。何も悪いことじゃない。その上で一番の障害になると見て、僕を取り込むなんて大胆な考えは面白い」
評価すると後輩はさらに湧く。
手を打ち合わせたり、拳を握ったり。
その上でこらえ性のないポーが前のめりになった。
火を囲んでるんだから危ないよ。
「でね、でね、アズ先輩どれがいいと思う? 俺ね、この中和実験で最終的に一番中和できた人の勝ちが面白そうだと思うんだ」
酸性とアルカリ性の水溶液を大量に用意して、チームでそれぞれの溶液を取り合う、
さらに手元にはどんなペーハー値の水溶液があるかわからない状態で、そこに手に入れた水溶液を混合して行って、中和するというもの。
科学実験として面白そうではある。
ただ問題点も目についた。
「それを錬金術もよくわかってない新入生に競わせるのは、酷かな」
言われたポーは確かにって感じで固まる。
ポー自身、この学園に入学してから錬金術をやり始めたから、知識なしでできないことはわかるはずだ。
そしたらウィーリャが虎の尻尾を振りながら僕に言った。
「ほら、でしたらわたくしが提案した声を反響させることで行う伝言ゲームのほうが、まだ新入生も楽しめますわ」
こっちは障害物と反響板を大量設置した迷路のような作りの会場を作るそうだ。
そこにくじ引きでチームがバラバラに配置される。
そしてそんな迷路で伝言ゲームを行うというもの。
「けどこれ、ショウシみたいな子には辛いんじゃないかな? 大声上げて主張するって感じだし。あと、設置する場所の選定と、設置に関する手間がねぇ」
同じように面白いけど、問題がある催しだ。
ここは令嬢なウィーリャの、肉体労働をしてこなかったからこその、計画性の見落としってところか。
ただどれも錬金術として学んだことを取り入れてる。
後輩たちが真剣に考えたのはよくわかった。
そうなると、どれかを取捨選択するのも、もったいないって思うんだ。
「うん、面白い。協力しよう。その上で、どれくらい僕に手を貸してほしい?」
あえて聞いてみると、考えてなかったらしく後輩たちは素直に困る。
その中で、トリキスが冷静に線引きをしてきた。
「聞いたところでは、新入生の面談をされたと。その際に感じた助言などあれば、最低限教えていただきたい」
「そうだね、けっこう癖強いよ。その上で、錬金術してたって明言してる人はいないかな」
僕の返答を聞いて、タッドが自分のクラスメイトを見回す。
「え、この学年よりも?」
「ぶっほ、ほむほむ」
「特徴的ではあっても、癖というには及ばないと仰せです」
今までになかった癖を発揮してるアシュルが何か言ってる。
クーラもそこは突っ込んだほうがいいと思うけど、それも含めてクーラも癖があるよね。
遅れてショウシが、僕の言葉の真意に気づいた。
「明言と仰るなら、錬金術ではないことをしている方がいらっしゃる?」
「うん、薬師してたって言う子と、錬金術に関する書籍読み解こうとしてる子、あとは錠前弄れるくらいかな」
一応錬金術してる人からの紹介って形で言えば、ラトラスやウィーリャの親戚がいる。
僕に声かけてきたシレンは、卒業生に教えられてる可能性もあるけど、素人判定でいいだろう。
なんにしても、錬金術知識が必要な問題なんて、新入生にはチームを組ませても無理だ。
この後輩たちが水鉄砲造るところからできたのは、ある程度入学して時間が経ってたからだし。
「期間は決められてなくて、これの計画書を出して許可が出たら取り組んで、準備できたらやろうってことだよね?」
そうじゃないと対策立てられるし、僕たちに一度不意打ちしてきたから、きっと同じように突発的に仕掛ける気だ。
けどそれをすると新入生が明らかに不利になる。
それじゃ、オリエンテーションの意義が半減してしまうだろう。
まぁ、勝てない勝負仕掛けた僕が言うことでもないけど。
たぶん、鼻っ柱折ってやろうとか、反骨精神煽ってやろうなんて意地の悪い思惑、この後輩たちにはないはずだ。
「うん、それじゃまずは、これ全部やろうか」
言ったら、後輩たちは揃って僕を見る。
その目が、また何か言いだしたとか言いたそうに感じたのは、気のせいだよね?
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