572話:春を待たず2
学園でも実験して、王城行っても実験して、ダム湖ももちろん実験をする。
そして屋敷でも、僕は錬金術の実験をしてた。
「さて、これでひと通りできるようになったよね、レーヴァン?」
「無理ですってー」
冬の間かけて組み立てや設置をやらせて、レーヴァンには伝声装置の扱いを教えてる。
大本の機構は教えてないけど、それでもちゃんと通信できるようになった。
「もう、しょうがないな。そんなに言うなら」
僕が譲歩するように見せかけて、油断したレーヴァンの手にあるものを握らせる。
「はい、レーヴァン専用の伝声装置」
「あー! いらないですってこんな厄介なもん!」
慌てるけど、僕も返品不可で手を背中に回す。
皇子を守るために体に触れることもある宮中警護とは言え、僕に無理強いをするなんてこと、イクトの目の前ではできないレーヴァン。
「問題があったら連絡して。こっちもルキウサリアで聞きたいことできたら連絡するから」
「やめてください、俺の仕事はそんなんじゃないですって」
「第一皇子殿下の宮中警護が何を言ってるんだ」
同僚のイクトから冷たい声が投げかけられるけど、レーヴァンは諦め悪く訴えた。
「トトスさんも持ってないのに!」
「だって、イクトはいつもいてくれるから」
僕の答えに、レーヴァンはそれ以上言えずに肩を落とす。
その上で欲しくもない伝声装置だけど、大金詰んでも欲しいと言う人がいることもわかるからこそ、投げ出すこともできずに握ってた。
「絶対これ、陛下方に言えないこと連絡してくる気だぁ」
そういうところは本当に鋭いね。
父やルキウサリア国王に聞けないことを、確認するのに使えるなとは思ってるよ。
「あ、っていうか、弟殿下方に持ってくんですから、俺なんて必要ないでしょ。それにここ、皇帝陛下からも連絡はいるじゃないですか」
自分はいらないとまた主張し始めるのは、本当に諦め悪い。
「確かに陛下から、こっそりテリーの帰還知らされたね。それと、東の派兵についても相談された」
「あれ本気です? 止めません? 危ないですって」
それらしいこと言うけど、実際は面倒だと思ってるだけだろう。
僕の派兵にはイクトがついてきた。
つまり僕の前例を踏襲すると、テリーにも宮中警護がついて行く可能性もあるんだ。
あとレーヴァンに覚えさせたのが、そもそもテリーが東に行く時に伝声装置欲しいって言うからだし、さらなる巻き込まれを警戒してるだろう。
確実性を取るなら、同行させる宮中警護、レーヴァンが指名されるんじゃないかな。
「そこはルカイオス公爵も乗り気になったって言うし。本当に止めたいならストラテーグ侯爵経由で、ユーラシオン公爵動かすしかないんじゃない?」
父からの連絡で帝都のほうの状況を聞くに、夏の占拠事件以降の混乱はまだ尾を引いてる。
貴族って色んな所に血縁とか縁故とかあるからね。
罪に問われなかったけど、皇太后やその周辺と縁があった人たちが落ち着かないそうだ。
皇后を中心に、遠い所に今ようやく波及してる感じらしい。
それに微妙に弱ってる教会勢力と、それを手に入れようとする皇太后の孫、ジェレミアス公爵もまだ動いてるんだとか。
ユーラシオン公爵も、あの時は動きが遅くて責められる状況を放っておかれてない。
不動だった上が揺らぐことで、下の下が浮足立って細々押さえが利かないとも聞いた。
「ストラテーグ侯爵の派閥は落ち着いてるみたいだけど、ここで欲を出したと思われるのも、本意ではないよね?」
ストラテーグ侯爵は独自派閥だからこそ、両公爵が揺らいでも気にせずにいられた。
とは言え、ここで前に出るような動きすれば、そのまま両公爵と張り合う羽目になる。
公爵たちにそれくらいの隙はできてるっぽいのは、否定しないレーヴァンでわかった。
父としては、ここでまた一度皇帝の威勢を高めたいだろう。
テリーが戦陣に立つとなれば、外戚のルカイオス公爵は邪魔しないどころか応援姿勢になるはず。
被害がないから悪目立ちしそうなストラテーグ侯爵の状況なら、他に目が向けられるこの派兵は悪い話じゃないと思う。
「…………この、自爆機構、外しません? どうせ、俺に渡した小さいのにもついてるんでしょう?」
レーヴァンが嫌そうに、指すそこは、新たに付け加えた機構があった。
基盤になる部分を破壊して再起不能にするためのものだ。
まぁ、名前の割に小火で煙が出る程度だけどね。
「奪われたら危ないって、弟たちに渡してた分を陛下に引き取られたから。だったら、奪われても大丈夫って言える工夫が必要かと思って」
「たぶん工夫するとこ、そこじゃないですよぉ」
レーヴァンの諦めが悪いから、僕は切り上げにかかる。
「僕はこの後出かけるんだから。いつまでも言ってないで、レーヴァンも帝都に戻る荷づくりとかしようね」
「聞きたくないですけど、ちなみにどちらに?」
そこは職務上もっと気にしていいと思う。
あと、そんなに嫌がるほどのところには行かないよ。
「クラスメイトのラトラスの所。学園でやってるほうの錬金術に関して、なんでかラトラスだけが合致する条件あるみたいだから、それを確認しに?」
教えてないから遠回しに言ったけど、精霊の人魚のことだ。
イルメが造った薬酒よりも、やっぱりラトラスに寄っていくんだよね。
その違いが何かを確認するため、そもそもラトラスが扱ってるディンク酒や他のお酒について話をするためにも会いに行こうと思った。
「ディンク酒…………」
すっごい嫌そうにレーヴァンが声を絞り出す。
ほぼ僕が関わってるの確信してるし、こっちでもディンク酒関係ってことで錬金術科のクラスメイトの名前押さえてて、わかったらしい。
「あーうー…………ちょっと、遠目から確認しても?」
「何を確認したいかは知らないけど、邪魔しないなら好きにどうぞ」
「そちらさんとどれくらいの距離感なのかを。ちなみにばれてたりしないんです?」
「さぁ、確認すれば?」
ディンカーってことはばれてるけど、この場合どうなんだろう?
僕もわからないからはぐらかして同行を許した。
僕がアズロスに変装してる間に、レーヴァンも制服から貴族の外出着になってる。
たまたま同じ方向に歩きますって感じで距離取って向かうことになったんだけど。
「へっへっへ、人間じゃねぇが、綺麗な顔してんじゃねぇか」
「上玉がこんな所うろついてるなんて。こりゃ楽しめそうだ、なぁ?」
なんか行く途中の路地から、あからさまに柄の悪い声が聞こえる。
そしてつい見てしまってちょっと後悔した。
うん、すごくきれいな顔した海人の双子がいるね。
学園都市として王侯貴族の子女が集まると同時に、苦学生も多いこの街。
規制はしてるけど、需要があれば捕まえても新たに湧くもので、闇バイトみたいなことしてる人もいるそうだ。
情報源は、苦学生してるネヴロフやウー・ヤー。
なんか危ないのに誘われたことあるらしい。
まぁ、今回はなんか違うっぽいけど。
「レーヴァン、あそこにいるの例の海人」
「え、え?」
僕が言う間に、手を伸ばす不埒者に、イー・スーが袷から取り出した包みから指先で摘まめる大きさの丸薬を取り出し、素晴らしい狙いで口の中に放り込む。
突然のことで飲み込んでしまった悪漢は、ほどなく喉を押さえて苦しみだした。
その上、声も出ないらしく崩れ落ちても悲鳴一つ上げられてない。
「下郎が似合いの末路だ。貴様も臓腑から溶ける苦痛を味わってみるか?」
「ひぃ!?」
イー・ソンの脅しに、残った一人は逃げ出した。
「救護して、可能なら毒の成分確かめて。あの二人は僕が話を聞く」
嫌そうだけど、レーヴァンは僕を追いこして路地へ入った。
去ろうとする双子を遮る形で立つ。
「これは傷害事件ってことでいいかな? 話を聞かせてもらえる?」
喧嘩を売るような態度で行くレーヴァンからすると、危険人物扱いかな。
だったら僕もそれに合わせよう。
「すみません、その二人は僕の後輩の学生です。絡まれていたのを自衛しただけなんです」
「おいおい、錬金術科は本当に毒物を作ってんのか、危ないな。後で学園に報告入れるぞ。担当教諭も呼び出しだからな」
「はい、すみません」
僕はレーヴァンに下手に出て、双子を庇う形で路地から連れ出した。
海人たちはレーヴァンが恰好から貴族で、僕の所属が割れてることを鑑みて従う形をとる。
そうして路地から離れたところで足を止めると、イー・ソンとイー・スーは同じく足を止めた。
特に逃げ出す様子はなく、お互いに顔を見合わせて話し合う。
「助けられたと思うべきだろうか?」
「えぇ、責められるのなら謝罪をしなければ」
他人に毒を飲ませたことには全く悪びれてないけど、僕が叱られることには思うところがあるらしい。
「言ったとおり話を聞かなきゃいけないけど、話す気はある?」
聞いた途端、ちょっと驚いた顔をした海人の双子は、次には胸の前に両腕をあげて見せる。
どうやら肯定の仕草らしい。
僕としては、前にもこんなことあったなって気分だ。
どうも前回と同じで、今日もラトラスの所には行けそうにないようだった。
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