570話:ヘルプを要請される5
雪国で閉ざされるルキウサリア。
その分国外とのやり取りや、近隣地域との行き来もなくなる季節。
でも近くでなら移動できるし、この国の王とは隣接した街と外壁を連ねて、内部の門で息きもできる。
それとは別にルキウサリア国王が除雪に力入れてるから、王都や学園都市周辺は移動可能だ。
結果、僕が色々呼ばれる、というか僕を呼ぶために除雪に力入れられてる。
ヘルプ要請は前からだけど、冬だからって学園都市と王城を往復することになるとは。
「すっげ! 回った、早、すっげ!」
「回転数を計測する打点のこれは面白いな」
僕は今、別口のヘルプ要請で、技師の工房に来てた。
興奮してるのはネヴロフで、回転で跳ねあげたペンの先を、回転で送り出される紙に打刻して、何度回転したかを数える器機を面白がるのはウー・ヤーだ。
「よし、次は一気に四つ歯車増やして」
「馬鹿、重すぎんだよ。歯車薄く作り直せ」
さらに技師である大親方以下の鍛冶師たちも、面白がってワイワイやってる。
軽さがどうとか、部品の耐久がどうとか、僕たちが弄ってるのは、以前からネヴロフが造ってた動力、その改良版だ。
「あまり騒ぎすぎて、この赤い靄のこと広めないでくださいね。正直、どんな危険性があるかもまだ未知数なんですから」
「む、そう、そうだな」
僕の正体知る大親方が、はしゃぎすぎる面々を止めに動く。
錬金炉から溢れるほど火を吐き出す、赤い靄から作った火を持ち込んだのは僕らだけど。
お蔭で、稼働する蒸気機関もどきと、急造の金属棒と連結された歯車の回転率が増えた上に効率化に動いてる。
今はただ回転させるだけで、先にふいごはついてない。
というか、この勢いで回してるとふいごが破れるから早々に撤去された。
代わりに回転数を計測するために、ありもので計測機もどきを作ってつけたんだよね。
そしたらなんでか、ネヴロフを始めとして回転数に固執するようになってしまったんだ。
(あー、あれだ。変わり種接待で連れていかれたミニ四駆バー)
(仔細を求める)
(いや、変なところに食いつかないで。正直説明に困る)
(何故でしょう?)
うん、前世知らないとわからないよね。
けど僕もミニ四駆詳しくないから、正直何言ってたかよくわからないんだよ。
店からミニ四駆貸してもらってコース走らせたけど、それよりも回転数が、削りがって話す専門用語の応酬がすごかった記憶しかない。
そして回転数に拘る鍛冶師たちの様子が、なんだかそれを思い出させたんだ。
「今日はここまでにしよう。熱気と湿度がとんでもないことになってる」
蒸気で回してた上に、ここは火を噴いてもいいようにはされてるけど、大量の蒸気を逃がすことはできずに籠ってしまっている。
だから僕が閉め切ってた窓をあえて開けた途端、室内の熱さに比例して、外から寒風が吹き込んだ。
そんな乾いた風に、何人もが大きく息を吐く。
「僕は寮に帰るけど二人は?」
「俺は歯車削る」
「自分は合金を作る」
まだ工房で作業するというネヴロフとウー・ヤーとは別れ、ヘルプ要請してきた大親方に改めて、赤い靄については報告を止めて出た。
セフィラのお知らせでルキウサリア国王からの護衛が、三人いることを知りつつ帰り道。
学園都市に戻って歩きながら、僕は思い立ってラトラスのところへ足を向けた。
なんだか他の先輩と話したから、トリエラ先輩の様子も見ておこうと思ったんだ。
そう思っただけだったんだけど、商店が並ぶ界隈で、モーゼ状態の海人の双子を見つけてしまった。
「えーと、何してるのかな?」
うろうろする度に人が避けて行くイー・ソンとイー・スーの姿に、つい声をかける。
うん、よく似た顔の美少年tの美少女、しかも他種族で見てわかる高貴さとなったら、近づきがたいよね。
とは言え、このままはさすがに周囲に迷惑になる。
向こうも入試と面談の二回で僕を覚えていたらしく、イー・ソンとイー・スーは笑顔で応じた。
「これは先輩。アズどのだったか」
「後輩にはアズ先輩って呼ばれてる」
「ではアズ先輩、お聞きしたいのですけれど」
もう合格通知は届いてるから、先輩後輩として対応するのは普通かな。
その上で、やっぱりうろうろしてたのは何か買いたかったらしい。
「鯨油は何処で売っているかを知らぬだろうか?」
イー・ソンから、こんな山の上で聞くはずもない単語が出た。
「鯨油、げい、クジラ? いると思う、この山の上に?」
「では、こちらではなんの油が使われるのでしょう?」
イー・スーも予想はできてたらしく、売り物の豚の脂身を指して聞いて来る。
教えるのはいいんだけど、これは確認が必要そうだ。
「まず用途によるから、何を…………あー、もしかして海人だから乾燥してる?」
「もしや、同輩の海人の先輩、ヤンの?」
「ウー・ヤーね。こっちだとそれで名前登録してるらしいから」
イー・ソンに訂正すると、双子で顔を見合わせる。
その動作に弟を思い出してつい笑うと、イー・スーが笑ってるような雰囲気だけの顔になった。
「まぁ、いったいどなたを思っておられるのかしら?」
「鋭いね、弟だよ。双子なんだ。どうしようかって、顔を見合わせる動きが似てたんだ」
話しながら、二人を促して僕は薬屋に向かうことにする。
しかも行く先は薬師が利用する薬屋、つまり器具や薬の素材を置いている店だ。
「精油がほしい? それとも原料のほう? 保湿剤は自分で作るのかな?」
「このような場所を知っているのであれば、作り方をご存じで?」
イー・スーは物珍しげに薬屋を見回すけど、歩き回るには足が悪いから、イー・ソンに支えられてよろよろとしてる。
うん、怖い。
僕は応接用に店が置いてる椅子に誘導して、店員に保湿剤作りに必要なものを持ってくるよう指示した。
「妹が座っているのなら、私は見て回ろう」
「まぁ、狡くてよ」
イー・ソンが一人で見て回ろうとするのを、がっしり掴んでイー・スーが止める。
好奇心があって、けっこう圧も強い。
そして他人に手配されることにも慣れてる、か。
「君たち、従者の類はいないの? 海人が寒さに強いにしても、二人だけで当てもなく探す必要あった?」
聞いたら、揃ってじっと僕を見る。
顔がいいから動かないと人形染みて不気味だ。
「保湿剤を作れるかどうか、こちらの手を聞いたな」
「従者の有無も聞きましたわね」
「別に、答えなくてもいいけど…………」
なんか不穏で一歩引こうとしたら、双子が同時に逃げようとした僕の袖を片方ずつ掴む。
そしてにっこり笑った。
「つかぬことをお聞きするが、ニノホトの皇族に知遇は?」
「レイゼンインの姫君がこちらにいらしたはずではありませんか?」
出てきた名前に顔が引き攣りそうになる。
それと同時に、ヒノヒメ先輩に今度は何をしたんですかって叫びたくもなった。
「嘘でしょ? なんでニノホトのお姫さまが、チトス連邦の王族に神託してるの?」
「おぉ、やはり。問う者あれば、その手を掴むべしとの神託を得ている」
「苦境より逃れるならば、自らの後を追えとの助言を得てまいりましたの」
何してるのあの人?
いや、ニノホトからルキウサリアにくるなら、チトス連邦に立ち寄るのは普通だ。
その上で何処通ったかは知らないけど、この二人はヒノヒメ先輩が通った数年前の神託を頼りに入学したってこと?
「なんで僕? 質問くらい誰でもしたじゃないか」
「アズ先輩ほど合致する方はおりませんでしたわ」
イー・スー曰く、技術を問う者、その力を問う者、そして答え、銀に関わる者を掴めと。
確かに保湿剤や、権力にも通じる従者の有無を聞いたし、その上で聞かれたから答えて、僕は銀髪だ。
何より、それが偶然と言えないヒノヒメ先輩の今までの言動がある。
「君たちの事情をどうにかとかは、しないからね」
すでにセフィラからけっこうな不穏情報出てるから、僕が首を突っ込むべきじゃない。
「必要ない。後宮からの妨害が激しく、今は立て直しのためにこちらへ逃避した」
イー・ソン曰く、ただチトス連邦から追い出されたわけではないらしい。
双子揃って悪い笑み浮かべてる辺り、時限爆弾仕込んでそうっていうのは、穿ちすぎ?
もしくは、現状で障害になる何か、何者かを排除する目途を立てた上で、時間稼ぎとか?
なんにしても面倒だ。
逃げる算段考えようとしたら、二人揃って手を離した。
「しかし今日はこうして案内していただいただけでも十分な恩を受けた」
「えぇ、春になればお会いできますもの。その時にはご助力を。アズ先輩?」
「確かに後輩相手なら手を貸すのは吝かではないけどね。それはあくまで学園の範囲での話だ」
念のために釘を刺してみるけど、わかってると頷かれるのが余計に裏を疑ってしまう。
何より、ここで嫌がる僕の心情を察して手を離した。
この対応だけで、押しの一手なんてわかりやすい手合いじゃないことは想像できる。
そしてヒノヒメ先輩が助言したなら、きっと僕のほうでも関わる必要が生じる気がしたのだった。
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